しゅう as 猫田しゅうぞう
2021-07-05 21:24:32
1430文字
Public ソーロキ
 

髪を編む

MP38で配ったペーパーにのせていたSSの再録です 
列車の旅がもっと続いて欲しかったなというソー不在のソーロキ

「自分で自分を救い、名前を得て、魔術まで。それで――お前はすごいと思うが」
  ロキの言い訳じみた前置きにシルヴィの眉が片方だけつり上がる。
「すごいが、何?どんな文句が?」
「なぜ金髪に?」
 主語を聞き返す視線にロキは自分の黒髪を掴んで見せた。
「染めたのだろう。ムラがある」
「下手で悪かったね」
「出来を責めてるわけじゃない。ただ、なんでよりにもよって金髪なのかと聞いてる」
「よりにもよって?」
 シルヴィが嬉しそうに唇を歪めた。おもちゃを見つけたときの自分。舌先が唇を舐めそうだった。似ているところなど一つだってないのに、ふいに生じる鏡を覗くような感覚は奇妙だった。
「金髪は嫌い? 私は好き。あんたのような黒髪でいたくない」
「意見が割れるようだ。私はこの黒髪を気に入っている」
「ふうん? で、あなたの王子様は金髪だったの?」
にやつく唇をロキは無視した。
「ここから抜けたら染め直すのをおすすめする。似合ってはいるが、粗野に見える。いや、そう見せたいのか?」
「口うるさいパパは嫌われるでしょ」
「パパになったことはない」
「指図はまっぴらってこと」
にっこりと微笑み合い、二人はそれ以上会話に進展がないことを認め合った。
「私はあんたの髪が編み込まれていないのが意外だったけど」
 シルヴィの言葉はもっともだ。アスガルドの男は髪を伸ばせば編み込みを施すのが一般的で、社会的な階級が高ければさらに金や銀の装飾品も加えて編み込む。
 自分で結うものだから、ロキも編み込み方は知っている。しかし、ロキはそもそもアスガルドを出奔するまで髪を伸ばしたことはなかった。それは戦士として扱われたことも、振る舞ったこともないから必要もなかった。フリッガの手解きを受けてなお魔術の才を周囲から侮られていることはわかっていたし、それは屈辱だったが、他人がそのような色眼鏡を勝手にかけてくれるという点は便利でもあった。なにしろ色眼鏡をかけている相手は欺きやすいので。
「まあ、――やることが多くてな」
 今、ロキの髪はすっかりうなじを覆っている。毛先はうねって、はねて、ひろがって。襟足を小まめに切りそろえていた頃のようには纏まらない。時には邪魔にもなる。けれど切る気にはならなかった。それに髪を編む気にも。髪を編まないのはアスガルドを離れたからこそだ。いまさらそんなことをしなくとも自分はアスガルドの神なのだから、と半ば意地になって考える部分は否定できない。それに――シルヴィがまるで心を読んだように鋭くからかう。
「ああ……もしかして誰かに編んでやると言われたことがある?」
 ――誰か。そう言ったが彼女は特定の人物を思いうかべていることだろう。彼女の場合の関係性は知らないがロキは黙り込み、視線をそらす。それが肯定になるだろう自覚はあったが、訂正する気もなかった。彼女を喜ばせるのは癪で、しかしこんな時にかぎって言葉が出てこない。 ロキはもはや一口しか中身の残っていないグラスの縁をかじるように口をつけた。
 襟足をくすぐる兄の指を思い出し、少しばかりうなじがこそばゆく思えたが、もちろんそんなのは錯覚だ。泥酔するのはどうかと思うが、手っ取り早く酔っ払ってしまいたかった。このままそれを彼女にからかわれるよりそのほうがずっとマシに違いなかった。(了)
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ロキ四話を観た後に深く考えずに書いていますと前書きおいてたけど、これ三話では?(それはそう)