しゅう as 猫田しゅうぞう
2020-06-17 11:49:09
1606文字
Public
 

穴を掘る男

創作

土を掘り起こす仕事にもようやく終わりが近づいていた。硬かった土を掘り起こすのは重労働だ。
ショベルを持ってきてよかった。いや、持っていなければそもそも穴を掘ったりしなかったが。
噴き出す汗は肌をじっとり湿らせ、砂埃を貼り付けては雫で溶かしている。繰り返されてドロドロだ。最悪だ。砂色の髪だと言われたって別に砂に親しんでいるわけじゃないのに。汗と泥で髪の毛はぱさぱさだし、シャワーを浴びれば足下は泥砂だらけになるだろう。ああはやくシャワーを浴びたい。現代文明に触れたい。このどろどろの衣服だってはやく捨ててしまいたい。ここから街に帰るのも一苦労だが、バイクのエンジンが問題なくかかることを祈るしかない。砂埃でいかれてなければいいが。ああくそ、面倒ごとしか残っていない。遺跡の中はすっかり炎が回っているだろうし。
まだ予定の半分も掘ってはいないが、まあ事足りるだろうと長いため息をつき、地に突き刺したショベルの持ち手に額を預ける。動作を止めると全身の疲労が強く感じられた。薄い靴底のせいで体重をかけた足裏が痛い。ペダルを踏みたくない。いや、歩いて帰るよりずっといいのはわかりきっているが、些細なことに耐えられそうにない。
「おつかれ」
涼しい声が笑っている。
「誰のせいだよ」
「俺のせいだって?」
「違うって?」
顔を上げれば、人がせっせと掘った穴を外から覗き込んでいる長身は煙草をくゆらせていた。
――ジャケットのポケットにあと一本残ってる」
おれの無言の催促に奴は薄く笑った。
おれと違って、もう汗はかいていない。後ろに撫でつけている黒髪は乱れて前髪が何筋も額に落ちているし、おれとちがって羽織ったままのジャケットもシャツも、まあ似たように汚れてはいるが、それだけだ。そりゃそうだろう、こいつは労働していない。
奴のジャケットの襟についたピンバッチが煙草の火という微かな光源でチカチカして見えたのから目をそらしたおれは屈み込み、ジャケットを漁る。内ポケットには確かに煙草のパッケージが押し込まれていた。
「火がねえよ」
「ああ、ライター落としたからな」
おかげさまで遺跡に戻れば炎が待ち受けているのに、外のおれときたら煙草の火に困っている。くだらねえ。火もつけずに煙草をくわえて、ショベルを穴の外に放り投げる。腕に力を込めて、穴から這い出る。腰より低い位置で諦めておいてよかったと内心ほっとする。無茶な計画だった。正気に戻ってよかった。
おれは穴の外にあぐらを組んで、予定より浅い穴を眺める。外に出てみると、それでも十分な深さに見えた。
――お前、むだにでけーんだよ」
「大して変わんないだろ」
「だからだろ。二人もはいってりゃそりゃ穴も狭く感じる」
おれは立ち上がり、くわえ煙草を穴の中に吐き捨てる。隣に立っている男と瓜二つの死体はすぐに土に隠れた。埋めるのは掘るときよりずっと簡単だった。
おれがバイクに向かう後ろを、奴は数歩遅れて追いかけてきた。埋められた穴を眺めていたらしい。
「野犬に漁られたりすんのかな」
「浅いからな。ああ、かじられた姿とか見せんなよ、見苦しいから」
「ひでえ奴」
「ショベルで殴られたときにわかったろ」
「もともと知ってたよ」
振り返れば、奴はいなかった。煙草の残り香だけが微かに感じられて、おれは舌打ちをした。
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夢で見たものだったが書いてるうちに盛られていった




あれ、けっこう違うな