見えないけど、いる。なにかわからないものが。だって何かのしずくが落ちる音がする。それから湿った息みたいなもの。大きな犬とか、そういう感じの
――たぶん。
お豆腐屋さんどころか、どこもシャッターが降りている商店街は、それと私の気配しかしない。まだ夕方のはずなのに誰もいない。まるで急に曇ったみたいに暗すぎて静まりかえったアーケードの薄暗い通路はただでさえ不気味なのに、それがいる。
後ろから飛びかかられてないだけマシなのか、ひと思いに襲われていないだけマシなのか、まるでわからない。
後じさろうとして先がなくて、自販機にぶつかる。はずみで押されたボタンが電子音を立てた。驚いて肩がはねると、呑気な声が割って入った。
「こっち」
認識するより早く、腕がつかまれて引かれる。たたらを踏んで見れば、電柱の陰から黄色い裾に包まれた人の手が伸びていた。
驚いて声は出なかった。でも不思議と怖くはなかった。私はただ、勢いよく引っ張られるままそちらに飛び込むみたいにもつれる足を運ぶ。
そんな隙間ないはずなのに、私は腕の主と、電柱の店の間の、一人が精一杯の空間をすれ違う。
黄色いレインコートを羽織った彼と一緒に、赤い光が走るのが見えた。青年だ。背はそんなに高くない。フードの影が落ちて顔はよく見えない。
一瞬のことだった。
すらりと走った赤い光がまぶしくて、場違いだけどテールランプみたいだと思った。
それから何か潰したみたいな湿った音がして、宙から蛇口をひねったみたいにこぼれ落ちた、真っ赤な液体。なに、と言おうとすると、
「あっあんま見ないでやって」
慌てた声と一緒に手が伸びてきて目隠しされた。その手は全然遠慮がなくて、べちんとぶつかりかけて目をつぶる
――瞬間。急にまわりが賑やかになった。
おもわず声を上げる。
だって、もう商店街は賑やかだった。アーケードに降り注ぐ日差しはまだ明るくて夏の気配がする。シャッターが降りてる店なんて数えるぐらいしかない。
電柱のそばでうろたえてる私をちらりとみて、通りすがりの人や、向かいの店の人がいぶかしげな顔をしている。
落ち着かなくて呆然としていると、電柱の脇、細い空間から腕がひらひら手を振った。
「忘れていいよ。でも、ありがとうって言って。はい、どうぞ!」
「え? あ、ありがとう
…?」
「どういたしまして!もう電柱の脇、通んないようにね」
ばいばい、とまるで友達と別れるみたいな調子で言って、腕が引っ込む。電柱の隙間にはもう何にも見えなくなった。薄暗いアーケード街なんかどこにもない。
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なにか書きたいのでキーワードほしい目に付くもの教えてフォロワー!って教えてもらったやつから錬成しました。
謎の妄想なりに楽しく遊んだ。
#蛇口 #自販機 #テールランプの赤 #ありがとうって言って #厚揚げ
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