しゅう as 猫田しゅうぞう
2019-02-24 19:15:04
1004文字
Public ソーロキ
 

無題

こどものソーと幽霊

べつに幽霊などにびびっていたりなんかしない。大人ではないが、赤ん坊じゃないのだから。
そう、びびったりはしないのだが――しかし、枕元になんだかどこか古そうなシーツをかぶった誰かがいるのに気づいた瞬間は息を飲んだし、素直に言えば気味が悪いものだった。しかもソーを見下ろすその背はずいぶん高く見える。
驚きか恐怖か区別はなかったが、しかし声が出ない。
目は見えない。けれど視線が合ったとわかり、途端じわりとしびれるような指先に、ソーは血の気が引くという意味の実際を理解した。
でも、埃くさいだろう古びたシーツの下で『彼』は、息を緩めるように笑った。
「起こしてしまったな」
とても自然に、頭を撫でられる。吹雪に吹かれた手のようなひやりとした気配が、そのように頭を撫でるのは奇妙な感覚だった。そして不思議なことにかぶったシーツのドレープは深く、そのように手を上げたところで、ちっとも中身は見えなかった。
「誰だ」
「通りすがりの幽霊」
迷わず答えるそれは手のひらの気配と同じように、涼しい声だった。冷えた冬の日の朝の空気を思い浮かべてしまうような、すっきりした声だ。ソーはその声に不思議と安心さえ覚えた。だがその答えは気にくわない。
「嘘だろう」
「なぜ?」
「幽霊なんかはいってくるわけない」
「どうして?まじないでもしたか?」
「オーディンの黄金の館にそんなもの入れるわけない」
言い切れば、彼は笑うのをこらえたらしかった。く、と妙な声をあげ、口元を抑える。それでもやっぱり袖の中は見えなかった。
「信用が厚いことで」
声は笑いの名残で震えている。
「笑うな!」
「ああ失礼、ソー殿下があんまり素直なものだから」
「フン、おれをオーディンの息子と知りながらよくも侮辱できる」
「それが傲慢だとはよぎりもしないところが、まったくあんたは変わらない。何よりだ」
「変わらない?」
――口が滑ったな」
何故だかわからないが、たぶん眉尻が下がったのだろうと直感があった。そしてその想像はソーの胸をぎゅっとしめつけた。それはたいそうむずがゆくて、覚えのないものだった。ソーはおもいきって布地を掴んだ。
「あ」
冷たい手は確かに存在していたはずなのに、手応えはなかった。それどころかまるで中身が底なしのどこかへ落ちてしまったように、一瞬にして布地は床に落ち、瞬けばその布地さえも空気に溶け込むように消えてしまった。