風花莉亜
2026-07-19 00:25:03
3679文字
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寝かしつけに成功した。


第45回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点で、千早くんの家でのお泊まりの話。内容はまぁ、タイトル通りです
いつも通り何でも大丈夫な方向け


「今日、親いないんです」

顔色ひとつ、声音ひとつ変わらない淡々とした物言いだった。
しかしこれは、『今日、泊まりにきませんか?』という千早からの可愛いお誘いだったりする。
泊まり=エロい事をしよう、という訳ではなく、いやまぁ、その時の雰囲気によってはそうなる事もあるけど、基本的には健全なイチャイチャが目的だ。
一日の大半を一緒に過ごすけれど、恋人らしい事が出来る時間は限られていて、だからこうして時間を作るようにしている。
だって付き合い始めてまだ三ヶ月くらいだ、イチャイチャだってしたいだろ。

「そろそろ千早切れ起こしそうだったから助かるわ」
「なんですかそれ」
「千早が足りねーの。もっとイチャイチャしたい」
…………

無言で返されたので蔑んだ目を向けられるかと身構えたが、ちょっと嬉しそうにしてるのなんなの!?
それは想像してなかった、クソ、めちゃくちゃ可愛いじゃねーか……!!
人目も憚らず抱き締めそうになったが、俺は悪くない。
両手も広げかけたけど、踏みとどまったからセーフだよな?
抱き締める為に広げようとした腕を何食わぬ顔で腕組みへとシフトし、コホン、と良くわからない咳をひとつ。
そこから出てきたのは、「夕飯なに食う?」だった。
俺の挙動不審に気付いていない千早は、考える素振りを見せてから「デミグラスソースのハンバーグ」と答えた。
好きね、デミグラスソースハンバーグ。
付き合い始めてかれこれ三回くらいは作ってる気がする。
完全に月イチペースじゃん。




部活までキッチリこなし、帰りにスーパーに寄って食材を調達した俺達は、仲良く千早の住まいであるマンションへと帰ってきた。

「どうぞ」
「お邪魔します」

ドアを支えてくれた千早にお礼を言いつつ中へと入ると、相変わらずの綺麗さが目に入る。
何度か足を踏み入れた千早宅は、いつ来ても綺麗だった。
それは一番最初に要達とお邪魔させてもらった時から変わらぬ事で、この綺麗さを保つのに週に何回かハウスキーパーを入れているんだと思う。
両親共に忙しく働いている上に唯一の一人息子は野球で忙しいとくれば、第三者の手に頼る他ない。
千早自身綺麗好きなので、気になったら自ら掃除はしてそうではあるけど。
ほら、コロコロめっちゃかけてたし。
部活終わりの球児は汚物呼ばわりだし。
でも最近、そんな千早に少しだけ変化が起きている。
それは汚物と成り果てた俺に対する態度の事だ。
正直に言ってしまえば最初の頃より緩和されていて、汚物からちょっと汚れてる人間くらいの扱いになっているようだった。
そんなちょっと汚れてる人間の俺は、もはや勝手知ったる玄関先でいつも通りスリッパへと足を通す。
しかし、実はこのスリッパ、あの頃よりも昇格しているのである。
恋人になってからは使い捨ての物から俺専用の物に変わっていて、始めて「藤堂くん専用です」と出された時はただのスリッパなのに嬉しくて、今ではすっかりと愛着が湧いてしまった。
名前でも付けたいレベルなのだが、流石にそれはやりすぎだと思いとどまっている。
うっかり口に出そうものならドン引きされるか、一生笑いのネタにされそうだし。




食事も風呂も終え、寝る準備も完了させてから転がるベッドの上。
眠くなるまで会話をするこの時間が、俺は好きだ。
話題は尽きないし、なんなら今日の夕飯のデミグラスソースハンバーグの出来はどうだったかとか、そんな些細な事すら楽しく話せる。
ベッドが狭い故に横を向けば千早の顔がすぐ近くにあって、ちょっとだけ照れ臭くなる、なんて甘酸っぱい青春のいちページみたいな事もあったりなかったり。
どう考えても二人で入るにはこのベッドは小さくて、けれど別々で寝る事は考えられなかった。
と言うか、いつも二人で入って寝てるし。
狭い方が合法的にくっ付けるから俺としては嬉しいし、それに千早も満更でもない感じだし、寧ろたまにだけど千早の方からくっ付いてきたりして、他の選択肢は無いも同然だ。
そもそも、恋人的イチャイチャを求めているのに別々の布団で寝るなんて有り得ない。
だったら心の精神衛生上、最初から泊まりなんてしない方が良い。
近くにいるのに触れないとか、どんな生殺しだよって話だから。
触れたら触れたで生殺しになる時もあるけど、今はそれは置いておく。

ポンポン続いていた会話が不意に途切れて、沈黙が生まれる。
てっきり眠くなったのかと千早の顔を覗き込もうとした所で、何も纏っていない足が俺の足をつついた。

「どーした?」

隣へと問い掛けると、再び足をつつくだけ。
良くわからんが同じようにツンツン、とつついてみると、「くふっ」という笑い声が聞こえてくる。
何が楽しいのやら、千早のツボは良くわからない。

「何の遊びだよ」
「なんとなく」
「なんじゃそら」

特に意味は無いのだと言ったきり、再び沈黙が訪れる。
何かを言いたい癖に踏ん切りがつかないのか何なのか、言いあぐねているらしい。
千早のペースに合わせるか、と目を瞑った所で、再び足をつつかれた。

「今度はどうした」
「実は……
「うん?」
「最近、上手く眠れないんですよ」

その言葉に瞑っていた目を開けて千早を見ると、千早もまたこちらを見ていた。
絞った明かりの中でも良くわかる、大きな黒目が真っ直ぐ俺を捉えている。
考えてみれば、ここ最近眠そうだと思う事が度々あって、授業中珍しく船を漕いでいたっけ。
上手く寝れないと言った千早の言葉に嘘はない。
だからと言って、それを俺に言ってくるのは何故なんだ?
俺に言って、どうして欲しいんだ?
あ、いやちょっと待て、もしかして原因は俺だったりするのか!?
だとしたら何をやらかしたんだ!?
ここ数日間の己の行動を思い浮かべてみたが、千早に嫌な思いをさせるような事はしていないつもりだ。
勿論、自分の知らぬ間にやらかしてる事が無いとは言いきれないけど。

「えっと、俺、何をやらかしました……?」
「そんなこの世の終わりみたいな顔しなくても、キミは何もしてませんよ」
「だったら、なんで」
「ただ、藤堂くんと一緒に寝たら寝られる気がしたってだけです」
「つまり、寝かし付けてくれって事か」
……何か違う気がしますけど、概ねその通りです」
「よしきた」

まかせろ、寝かしつけるのは得意な方だ。
寝れない理由までは話してくれそうにはないけれど、寝る為に俺を頼ってくれた事は素直に嬉しい。
千早の期待に応える為にも、その手伝いを全力でしようと心に決める。
手始めに、と千早の頭を胸に抱き込むと「いきなり何するんですか!」と暴れ出すので落ち着けと頭を撫でてやった。

「落ち着けって。ほら、他人の心臓の音を聞くと落ち着くって言うだろ?」
「あ……
「一応考えてンのよ俺も」
「その割には鼓動速くないですか? これ、落ち着けます?」
「う、うるせーよ」

大人しくしとけ、と更に頭を抱き込むと、我慢出来ないというようにして千早が笑い出す。
ダメだこれ、寝る気ないだろ。
恋人らしい甘い雰囲気もなければ、寝る気配もない。
なんだかなぁ、と頭を掻いているとポソリと「ありがとうございます」と聞こえてきて、俺のしている事は間違いではなかったのだと安心できた。


それから暫くの間俺が一方的に話し掛け、千早がたまに相槌を打つ時間が続いていた。
頭を撫でたり、背中をポンポンとリズム良く叩いてみたりと、一定の速度で繰り返していると、遂に千早が微睡み始めた。
よしよし、そのまま素直に寝てしまえば良いと、セットされていないサラサラの髪を混ぜながら、その時が来るのを見守る。
すると、千早の方から俺の名前を呼んできたので耳を傾けた。

……藤堂、くん……
「んー?」
………………なで、る………………
……
……
……千早?」

呼びかけてみたが反応はなし。
ここにきて完全に睡魔が勝利したらしく、最後まで言い切らずに静かになってしまった。
何と言いたかったのだろうか。
頭撫でるの好きなんですか、頭撫でるの上手ですね、とか?
撫でるの上手はないか、前者の方がしっくりくるし。
好きか嫌いかで言われたら、勿論好きだ。
まぁ、千早と妹限定だけど。
俺達はもう、こんな風に甘やかされるような年齢でもないので、頭を撫でられる経験なんてほとんどないだろう。
俺だって同年代の奴相手に頭を撫でようなんて気にはならない。
千早だから、だ。
好きだからってものあるけど、千早って甘えるの下手そうだし、そういう奴はとびきり甘やかしてやりたくなる。

「ゆっくり寝ろよー。そんで起きたら、さっきの続き教えろよな」

運が良い事に明日は学校が休みで部活もオフ。
普段よりも時間はあるから沢山甘やかしてやろうと心に決めて、千早の前髪をそっとよけて唇を落とした。



END



お題ぜんぶ盛り出来なかったの悔しすぎる