まめたろう
2026-07-17 22:48:43
2474文字
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ちびなたくん

アイランドモード幼児化
イチャイチャしていない

日向くんが小さくなった。
なんでも、風土病による影響らしい。
最初は困惑していたみんなはすぐに受け入れて、
今は代わる代わるというより、ほぼ取り合うように日向くんの面倒を見ている。
小さな日向くんは自信に溢れていて、我が強くて、見栄っ張りで意地っ張りだ。
子供らしいといえばそうなのだろう、喜怒哀楽がハッキリしていて、思い通りに行かなければ拗ねた顔をするし、嫌なことにはハッキリ嫌だという、豊かな子供。
日向くんは毎日、澪田さんと楽器を鳴らしたり、七海さんとゲームをしたり、左右田くんと車の玩具で遊んだり、花村くんにご飯をリクエストしたりなんかしている。
日向くんは忙しなく今を楽しんでいる、ボクはそれを遠くから眺めていた。
ボクはまだ、そんな日向くんと遊んだことがない。
当たり前だ、
今の日向くんは"誘われる側"なのだ、
ボクはいつだって日向くんに誘ってもらっていたから、お出かけチケットは余っている。
誰を誘うこともない、誰に誘われることもない、
ウサミは心配して、色々気を回そうとしていたようだけど、
ボクからしたら余計なお世話でしか無かった。
でもキミが誘ってくれて、遊んで、
ウサミは安心したと笑って、随分嬉しそうだった。
そしたらボクは急に不安になったんだ。
日向くんはもしかしたら、ウサミに言われてボクなんかに声をかけたのかもしれない、なんて。
でもそれは違ったんだ、キミはキミの意思でボクなんかを気にかけてくれたってこと。
ああ、あの時のボクの気持ち、キミが知ったら「大袈裟だ」って笑ってくれるかな。
今のキミは、ボクなんか気にしていなくて、
とっても元気で、悩みなんてなくて、
自分の未来は希望に満ちていると、信じてやまないような。
ボクに初めて、おでかけチケットを差し出した時の、少し緊張したような顔はどこにもなくて。
ただずっと、笑っている。
そんな日向くんを見るとボクはなんだか落ち着かなくて、いつ治るのか分からない日向くんを囲んで笑うみんなが、妙に薄暗く感じて、嫌になった。
今度こそボクから誘おう、そう思ってポケットにしまったおでかけチケットは今日も、南国の陽に当たることなく、ただ暗がりの中でじっとしている。
今度こそ、今度こそ
臆病なボクに罰を与えるように、日向くんは小さくなった。

しばらく経って、土曜日。
日向くんは遊園地があると知ってご機嫌だ。
行ってくればいいのに、優しいみんなはボクのことも誘ってくれた、これを断るのは違うだろう、流石のボクも着いていくことにしたんだ、やっぱり気は向かないけどね。
そうして今日、日向くんを中心に、みんな連れ立って遊園地を歩いている。
日向くんはいつも皆の意見を優先して、取り入れて、尊重していたから、きっと恩返しのような、日頃の感謝みたいな、そんなとこなんだろう。
みんなは今の日向くんの意見を最優先にして、
手を引っ張ってあれはあれはと聞いて回る日向くんを微笑ましそうに見ている。
みんなが彼の話をして、
みんなが彼のことを気にかけて、
彼はとても幸せそうだった。
どんな話をしているのか、少し離れたここからじゃ聞こえない。
ふと目が合う、
日向くんは歩く速度を緩めて、ボクの元まで来ると
「なぁ、なんでこっちこないんだよ?」
なんて、ニコニコと笑いかけた。
きっと拒絶されるなんて考えていないんだろうな、今のキミは、自分が中心の世界を歩んでいるから。
「ボクなんかがみんなの輪に入るなんて、恐れ多いよ」
いつもと同じ、お決まりの言葉を返せば、日向くんはキョトンとした。
ピンと来ていない、もしくは理解していない彼に、いっそ伝わらないでくれなんて思って、ボクは言葉を選ぶ。
「日向クンだけ行っておいでよ
今日はキミが、主役なんでしょ?」
日向クンは最初、キョトンとしていたけど
主役という言葉に気を良くしたみたいだった。
「べつに、おまえもいていいぞ」
やっぱりいつもの日向くんとは違う、ボクには馴染みのない笑顔。
年相応なんだろう、無邪気な言葉。
「でもさ、ボクは本当にいいんだ。」
突き放すような返事、
日向くんは理解できませんって顔で、
「変なやつ!」
なんて言って、さっさと前にいってしまった。
そんな日向くんの背から目を外す、
気づけばみんながこちらを見ていて、大層居心地が悪い、ああやっぱり、ボクは着いていかなくて良かったんだ。
日向くんが声を出せば、みんなそっちを見て、それぞれ話しかけている。
日向くんは小さくなっても人気者だ、
いつもの彼が頼れる存在なら、
今の彼は頼られると嬉しい存在だ。
日向くんは小さくなったんだ。
風土病だって言ってたけど、きっと治ってくれるんだよね。
ここ数日、ウサミは姿を見せない。
ウイルスをどうこう、なんて慌ててどこかへ行ってしまったから、彼女が戻る時は日向くんが戻る時だろう。
全く、ウサミに会いたいなんて初めて思ったな
ボクは、ポケットの中に手を入れた。
シワだらけになったおでかけチケットの感触に目を閉じて、最後に見たキミの顔を思い出す。
空を見た、どこまでも青い空、南国の日差し。
変わらないと思ってたんだ、
キミはこんなボクをずっと気にかけてくれちゃうんだろうね、なんて。
何か知れそうだったんだ、
ボクはキミに手を引かれて、
経験したことないものを知る。
キミは「そんなこと」なんて言っちゃうかもしれないこと、ボクからしたらそうじゃなくって、
ああ、キミは、ボクのことなんて全然知らない!
当然ボクも、キミのこと全然知りやしない!
キミはどうしてあの時、ボクを誘ってくれたの?
どんなことを考えていた?どんな気持ちで?
修学旅行はいずれ終わる。
物事には終わりがある、日が沈むように。
始まりだってある、日が昇るように。
ボクはそれまでに、キミを誘えるだろうか。
どのくらいキミと過ごせるだろうか。
キミに手を、差し出せるだろうか。
今度こそキミと、遊園地で遊びたい。