mori0mori
2026-07-17 18:13:07
5876文字
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七つ星がのぼる前に | VIIK (二次創作)

CoCシナリオ「SevenStars and PEASE」(作:ナッツ様)の設定をお借りして作成したキャラクターです。
※HO PEACEの秘匿情報のみネタバレ注意です。

VII設定 : ほみさん お借りしました。

K視点
時系列:本編より数か月前、キャラ練り段階くらい

どこかの荒野のモーテルで、
深夜にKに言えない秘密が一人で処理できなくなったVIIさんと、
今の関係の形の形を考えるKの話


─────








ふと、夜中に目が覚めた。

悪夢を見たわけでもないから、そのまま寝直してもよかった。
しかし無意識に伸ばした手が冷えた柔らかい布団をかき分けるばかりだということに気づく。
── 隣にあるはずの体温がない。

部屋は暗いまま。
もう車もほとんど通らないような時間らしく、音はほとんどしない。
モーテルの薄茶けた薄いカーテンの向こうに駐車場の明かりが透けて、
かろうじて室内のシルエットを浮かび上がらせている。

ベッドサイドの水が減っている。
煙草の箱は一つだった。

視線を泳がせれば、すぐに探している人は見つかった。

窓際にいる。
側にある灰皿からゆらゆらと薄く煙が上がっている。
狭いベランダに備え付けられた日焼けしたプラスチックの椅子に、
VIIは座って片肘を膝に置き、顔を片手で覆っていた。


何気なく、名を呼ぼうとした。
しかし、声にする前に止まる。


VIIの肩が、小さく震えていた。

様子がおかしい。
でも彼に限って、“泣いている”という発想がうまく結びつかなかった。

苦しそうな声がかすかに聞こえる。
何かを飲み込もうとして、飲み込めなかったような、
震える喉からやっと吐き出された呼吸のような。


──見てはいけないものを見た気がする。
けれど見なかったことにもできない。

VIIはいつも自分の不調を見つけてくれる。
未来視が暴走した時も、悪夢に魘されている時も、高熱で朦朧としている時も、
ずっと、静かにそばについてくれていた。

その人が、今ひとりで泣いている。



ゆっくり、音を立てないように体を起こす。
しかし、年季の入ったベッドがあえなく情けない音をあげてしまう。

VIIはやはり、すぐに気がついたようだ。

顔を上げないまま煙草を灰皿へ押しつけようとして、その手つきも少し覚束なかった。
その後ろ姿を見て、心臓が少し痛んだ。


「K、起きてたんですか」

聞こえたのは、いつもの落ち着いた彼の声だ。
でも、少し濡れたような音で響いた。

ベッドから降り、裸足のままゆっくり近づいていく。

VIIはまだ振り返らない。
長い前髪に表情も隠されている。

下手に刺激しないように、自分も何気なく返す。

「いえ、ボクもちょうど今目が覚めたんです」

「寝てください」


どう返そうか逡巡する。

「それ、いつものVIIさんならもっと上手に言いそうです」


VIIは黙ってしまった。


窓の外の光が差し込んでいる手前で止まる。
その影の中でそっと首を傾げた。

……隣、行ってもいいですか」

VIIの答えはない。けれど、拒みもしなかった。

もう一歩近づく。
目の前の彼は、片手で目元を押さえたまま顔を背けている。

そのまま自分もVIIに背を向ける形で膝を抱えて座り、彼の膝に頭を預けた。


「VIIさん、だいじょぶですか」

「心配いりません」


心臓がまたちくりとする。

──その言葉を、VIIさんが言うんですか。
いつも自分の涙を見て、頼ってくれ、と言ってくれるあなたが。


Kは少しだけ考えて、静かに答える。

「わかりました」

目を閉じて、彼に寄り添ったまま。

「でも、ここにいます」




VIIの喉が小さく震える。

「K」

「はい」

「戻ってください」

「どこへ?」

「ベッドへ」

……VIIさんも来るなら」

続く返事はない。

ラムレーズンに似た香りが、部屋の冷えた空気に混じっていく。

──瞼の裏の靄を眺めながらその香りの中で思い出す。
思考の濁流から、あの少し甘く焦げた香りの不健康な煙が“K”に引き戻してくれる。
けれどこの煙は、今夜のVIIさんを引き戻してはくれないようだ。

「セブンスターでは、手に負えなかったんですね」

VIIが、かすかに息を漏らした。
笑ったのか、涙を堪えたのかはわからない。

「何の話ですか」

「ボクの不調を治す以前に、嗜好品の本来の役割はそうでしょう?」

……ああ……そうですね」

「じゃあ、交代です」

「交代?」


振り返り、VIIの膝へ額を寄せる。
ゆるく彼の足に腕を回す。

「ボクがそばにいます」

VIIの声は返ってこない。
もしかしたら、いつものように律儀に何か返そうとしたのかもしれない。

聞こえたのは、頭上で押し殺したような呼吸が一つ。
濡れた息を吸い、不器用に苦しそうに短く吐き出す。

Kは顔を上げず、ただその膝に頬を置いたまま、体温を伝えるようにじっと静かにしていた。


しばらくの間、溺れたような不器用な呼吸だけが、煙と共にモーテルの部屋に溶けていった。



「K」

やっと返ってきたVIIの声は、低くて掠れていた。

「はい」

「俺は……

VIIの言葉は、そこで途切れた。

長い沈黙と、薄くて長い呼吸。
何か言いたいのに、全てが言葉にできないのだろうか。

──彼の涙の理由は何も知らない。
知らないまま、それでも自分はここにいたかった。



……今日は、うまく言えない日なんでしたね」

……

答えはない。
それでもいいから、続ける。

……言わなくていいですよ」

VIIがようやく顔を覆っていた手を口元まで下ろした。

下瞼は赤く、縁が濡れて薄く光を湛えている。
普段の整った顔が、逆光の影の中で少し歪んでいた。

それを見て、また胸が痛くなる。
── 心配はあった。
ただ、少し。愛おしい、とも感じた。

「言わずに、泣いちゃうときもあっていいと思います」

……Kは、そういうことを、簡単に言いますね」

「VIIさんがいつもボクに言ってくれてること、返してるだけですよ」

VIIの顔がまた歪む。

Kはそっと手を伸ばして、VIIが顔を覆っていた手に触れた。
指の下で、一瞬力がこもったのが伝わってくる。
その手を外さずに、でも指先を重ねたまま。

「VIIさんは、“今ここにいますか”?」

聞かれたVIIは、笑いそうな、同時に泣きそうな顔を浮かべる。
PSIに視界を奪われかけている時、VIIがかけてくれる合言葉だった。
ふたりだけの、奇妙な会話だ。


「それは……

「今日はボクが言う番です」

……います」

その答えに、少しほっとする。
目を細めて頷き返す。


VIIの手が、ゆっくりと重ねられる。
かすかに震えている。

自分より大きなひんやりした手。
いつもハンドルを握ってる手。カメラを静かに構える手。
熱を測ってくれる手。口元に煙草を持ってきてくれる手。
街の人混みの中で引いてくれる手。頬をなぞる恋人の手。
今は、泣いている人の手。

その手を両手で包み、震えを受け止める。


「VIIさんも、ボクの前で泣いてください」

しかし、彼は目を伏せ首を振る。


「どうして?」

「あなたの前だからです」


顔を上げ、今度はちゃんとVIIを見る。

目元が赤い。
夜更かしのせいか少し草臥れていて、
髪も三つ編みをただ解いただけなのか、所々ほつれている。
そんな姿も含めて、自分にとってはVIIという1人の人間だ。
いつだって見せてくれればいいのに。……そう自然と湧き上がった。


「ボク、心配はしてるけど、困りませんよ」

……すみません」

Kは少しだけ肩を竦めて笑う。
体を浮かして膝立ちになって、そっと濡れた頬に手を添える。

……謝らないでください。
これも、いつもVIIさんが言ってくれるやつですから」


VIIはとうとう、肩へ額を預けてきた。

VIIの身体は大きくて、少し重たい。
落ちてきた重さを、両腕で抱えた。

──いつも理性的な人が、今だけは自分に凭れて静かに涙を流している。
その広い背にそっと手を置いて、ゆっくり撫でる。

「ボクも、ボクには見れないものがあっていいから、
VIIさんが辛い時はそばにいたいです。
何かできるなら、頼ってくださいねぇ」

……それは、……

──“やりたいからやっている”
“だから隠さないでほしい”。

旅が始まった頃、ひどいPSIの暴走で発熱するたび、
何度もあたりまえのように介抱してくれたVIIに、
“あなたがやる必要はないのにどうして” 、そう聞いてしまった時に言ってくれた言葉だ。


……難しいことを言いますね」

ため息混じりに苦笑するVIIに、Kも少し笑う。

「じゃあ、ボクのためにちょっとがんばってください」


遅れて、ふ、と笑ったような息だけが返る。
ただ笑ったのか、柔らかい拒否なのかはわからない。


……VIIさんが涙を出すほどの不調を、
ボクは煙草みたいに消してあげることはできないと思います」

VIIの肩を包んでいた手に、引き寄せるように力が入る。
預けている重さを、少しでも多くさせるために。

「だからこれはボクのお願いです。
……何も助けてあげられないんですけど、見せてくれませんか」


無言のまま、VIIの腕がKの背中へ回る。
苦しくはない。
むしろ、VIIが少しでも頼ってくれたことが嬉しくて、胸の奥がまたぎゅっと軋んだ。




それからどのくらいそうしていたか、
すり、とVIIの額が横に滑る感覚がした。こめかみあたりを預け直された感覚がある。

……なぜ」
掠れたVIIの声が、それだけ尋ねた。

「はい?」

……なぜ、ここまで」

「説明が必要ですか?」

鼻歌でも歌うように柔らかく問い返した。

……いつもの“興味”、ではないなら。
でないと、都合よく解釈してしまいそうで」

「都合よく解釈していいじゃないですか」

「よくありません」

間髪入れずに返ってきた言葉に、堪えきれずくすくす笑ってしまう。
笑うたび、VIIの髪が揺れてさらさらと流れ落ちた。

「うーん。でも明日、VIIさんが何事もなかったかのようにおはようを言ってきたら、
きっとボクの方が落ち着かないと思いました。
でもからかってVIIさんに涙を止めさせるのもちょっと違うなあって」

……

「共有できるところはしたいです、パートナーですから。
……ボクはすでにもらいすぎているところがありますが」

「それは言わない約束です」

顔を上げたVIIの口の端は微かに下がっている。
それが、赤く充血した顔にやけに似合っていて、Kは思わず目を瞬かせた。

……ごめんなさい」

……言葉と顔が合っていません」

ため息とともにVIIが目をふせる。
それが勿体無いように、頬に両手を添える。
ぺたりと、湿ったぬくい皮膚が手のひらに吸い付いた。

「そうですか?」

「にやけています」

「かわいいなって思ったので」

形のいい目元にさらに皺が寄る。
それに、思わず吹き出す。

「たしかに、VIIさんとこの話をすると終わりがないです」

「じゃあ、代わりとかではないです。
お互い見せてもらいたいって思ってる、にしましょう」

「理由が言えないものでも、
旅の間に生まれるものなのであれば、ボクは分けてもらいたいです」

……旅のパートナーとして?」

VIIの濡れた紺の瞳を見つめる。
……近いな、ふとそう感じた。
そんなことを考えてしまったからか、答えが遅れてしまう。

……旅のパートナーとして」

VIIの言葉をそのまま返す。
口にすると、少し違和感があった。


VIIは瞬きを一つして、小さく息をつく。
そして少し目元の力を緩め、頬に添えていた手に片手を重ねてそっと手のひらに口付けた。

……Kが見つけた時、そしてできる時に、
少しだけ力を貸してください」

「そんなの、もちろんです」

微笑んで親指で頬を撫で返す。

──自分の不調と違って、VIIという人間に表出してしまった感情は、
本当に彼の抱えているもののいったい何%だろうか。
自分が見つけられるのは、その中の何%だろうか。

──どうしたら見せてもらえるかな。


……じゃあ今日は、隣にいていいですか?」

……ああ。ええ」

VIIは瞬き、すぐにもう一脚の椅子を引き寄せる。

「体を冷やしたらいけませんから、少ししたらもう寝ましょう」

「じゃあ、たばこ一本分だけ」

促されたまま座りながらそう言えば、
VIIはセブンスターの箱を叩いて一本差し出してくれた。

「どうも」

「火を」

彼の愛用している、よく磨かれた銀のジッポライターが澄んだ音を立てる。
口元を、彼がかざしている手の元へ近づける。

ふと、手のひらに受けた感覚が蘇る。
息を吸い込むのがほんの一瞬、遅れた。

彼の手は、火がつくまで静かに火を灯したまま待っていた。


ラムレーズンの煙を吐く。ふわりと紫煙が漂う。

なんとなく離れがたかった。
ひと吸いして、空いた片手でVIIの手を握ろうとした。

ぱた、と乾いた音が立つ。

手と手がぶつかった。
思わず顔を上げる。

同じく少し目を見開いたVIIと目が合う。
……柔らかく細められて、引きかけていた手を彼は戻す。

その手を受け止めるように取りにいき、きゅ、と握った。


言葉はない。

重ねた手を静かに揺らしながら、
地平線の上に広がる星空に溶けていく煙を、ふたりでただ、眺めた。


─────



ときたま、Kが熱にうなされている間に、ベッドサイドで一人静かに苦しさをこぼしていたVIIさん。

朦朧とする意識の中でその姿を見た気がしても、
それでも翌朝、VIIさんは少しだけ寝不足な顔でいつもどおりにいい旅のパートナーでいてくれる。

もし、KがVIIさんのこぼれた苦しみに出会ってしまったら、
どうしたいかなと考えて

いつものお返し以上に何かしたいと思ってしまうのは、
旅のパートナーだからなのか?それ以上のもの、知らなかった感情がいつのまにか芽生えていたらかわいいなと思って書きました。

七つ星=北斗七星は北半球にいれば絶対に沈むことがないので、
タイトルはある意味「そんなことはありえない」ってかんじです。