mori0mori
2026-07-17 12:59:08
3633文字
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子守唄 VIIK(二次創作)

CoCシナリオ「SevenStars and PEASE」(作:ナッツ様)の設定をお借りして作成したキャラクターです。
VIIさん設定 : ほみさん お借りしました。

※HO秘匿の直接的なネタバレはありませんが、本編通過時に判明する情報が含まれています。

夢の内容は覚えていない。
ただただ熱く、神経が焼き切れそうだったことは覚えている。

抗うのを放棄しかけた瞬間、風のように何かの音が聞こえた。

意味はわからない。
いや、聞き取れなかった。
言語の音ではない。不自然な長音が続く。でも心地よい高低がある。


── 歌かもしれない。

ただ、音は捉えられても意味が捉えられない。言語が英語とは違うらしい。
旋律の輪郭だけがゆっくり揺れる。

命綱を手繰り寄せるように、その旋律に散らばっていた意識を集中する。


── あ、VIIさんの声だ。

そう頭に浮かんだ瞬間、ふわりと意識が浮かび上がる。



まだ暗闇に目が慣れていない。
ぼやけたまつ毛のブラインドの向こうで、夜空のような色の塊がゆっくりと揺れていた。







VIIはKを毛布越しに優しく叩きながら歌う。
メロディに合わせて、眠っている時の呼吸のような淡い拍で。
ゆるいが、規則正しく同じ間隔だった。

薄膜のかかったような意識の中で、その声はぼやけながらも確かに届く。
目を閉じたまま、Kはしばらくその声と心地のいい揺れに身を任せていた。


かすかな声で歌は続く。
所々まろくこもり、また所々硬く聞こえる。
普段のVIIが話す声よりいくらか角が取れて、遠くから聞こえる雨音のように響く。
優しく叩く手は、覚束ない呼吸を導くような心地よい振動をくれた。

眉間に入っていた余計な力もほどけ、
まだ熱の気配は残っているけれど、呼吸がゆっくりと落ち着いていく。



……その歌、……初めて聞きました」

その声に、VIIの手がほんの少しだけ止まりそうになる。
でも止めない。
歌だけが止まり、小さく咳払いしたのが聞こえた。

……うるさいですか」

Kはゆるゆると首を振る。耳元で髪が枕と擦れる音がした。

「好きです。……続けてください」

答えの代わりに、VIIは小さく息をつく。

「その歌って……

「その話はまた明日しましょう」

……はぁい」


Kは寝返りを打って、そばに腰を下ろしていたVIIに身を寄せた。


……また、ボクが元気な時に歌ってくれませんか」

VIIはKの背中を叩きながら、低く答える。

……必要なときに」

「必要とします……

……寝てください。熱が上がります」

Kは薄く目を開け、VIIを見上げた。
ほとんど力が入っていないが、抗議のつもりに見えた。

VIIも静かに見下ろす。
ベッドサイドの明かりだけの室内では、KからVIIの表情はぼんやりとしか見えなかった。

数秒ののち、Kはふ、と笑って目を閉じた。

……寝るので、もうちょっとだけ続けてくれますか」

VIIは静かに、額に張り付いた前髪をはらって、そっと指の甲で撫でる。
まるで聞き分けの良い子を褒めるように。
そのまま耳の下に滑らせて、指に伝わるKの体温を数秒読んで、離れていった。



再び優しく規則的に体を叩く感覚がする。
声は小さく、半分息のような、音にならない旋律が続く。

微睡む意識の中で、それが彼の故郷の言葉で紡がれていることだけはわかった。


頼めば少し困った顔をして、でも教えてくれる言葉。
聞いたことない言語でも、彼の声にしっくりくる言葉だ。

故郷でも、誰かがVIIが眠れない夜に歌ってくれたのだろうか。







「昨日の歌、夢の中でも少し聞こえました」

VIIは水のキャップを緩めて渡す。

「悪夢は見ませんでしたか」

「ちょっとだけ。でも、歌を思い出したので、手遅れにはなってません」
Kは受け取りながらそう言ってにっこりと笑う。

「それはよかった」

水を一口飲み、返すついでに見上げて尋ねる。

「昨日のあれは何の曲ですか?」

VIIは無言で受け取り、しっかりキャップを一捻りしてから荷物にしまう。

……よくある子守唄ですよ」

「子守唄」

……その顔は」

長い前髪と睫毛に隠された紺の瞳がちらと何か言いたげに横目で見てきた。

「意外でした」

「そうですか」

「ドイツ語ですよね」

VIIは鏡台に置いてあった煙草の箱とライターを灰皿に乗せ、Kに差し出す。
Kは素直にそれを受け取り、ベッドサイドに足を下ろして座り直した。

真新しい箱に、薄甘い香りのする白い頭がきっちり揃っている。
Kはそれを端から一本取り出し、かちり、と火をつけた。


……英語の歌詞には自信がなかったので」

吐き出した紫煙の向こうで、VIIが旅支度をする背中を見る。
生真面目な彼らしい誤魔化し方だ。
Kはすこしおかしくなったが、笑うと会話を止められかねない。
肺に有害物質を詰め込む作業に集中した。

「かまわないですよ。どちらにしろ、はじめて聞いた曲です」

VIIが手を止めてちらりと視線を向けた。
瞬きを一つした後、また旅支度に戻る。


「VIIさんの子守唄はやさしいですね」

Kは煙草の灰を落として、その背中に声をかける。

……子守唄ですから」

「たしかに」


VIIが返す言葉はなかった。
Kはぷかぷかと煙を燻らせ、また続ける。

「これまでも歌ってくれていたんですか?」

VIIは変わらない口調で返す。

……昨晩は、魘されていたので。煙も効いていないように見えたので、だめ元で」

「あちゃあ

Kは短くなった煙草を灰皿に置き、
立ち上がって支度を続けているVIIの背中に腕を回して身を寄せた。

「心配かけました」

「いえ……。K、動きづらいです」

「おかげで助かりました」

そっと、回した腕にVIIの手が重なる。
── 昨日、きっとずっと宥めてくれていた手だ。

「よかったです」

「最高の特効薬でしたよ」

「買い被りすぎです」

「本当ですよ。歌が聞こえて、VIIさんの声だってわかったら、すごく安心して……

もう終わりだ、と言わんばかりに頭に手が乗る。
照れているのだろうか。見上げても表情はいつものすまし顔だ。
……いや、少し寝不足からか下瞼は少しばかり色が悪い。

少し胸が傷む。
Kは眉根を寄せ、一瞬目を伏せてからまたふにゃ、と笑顔を浮かべ直す。

……ところでVIIさん、昨日の約束覚えてますか」

……

VIIの目が細くなる。

「ええ。必要ならと」

「必要です〜」

「今はもう朝です。チェックアウト時間までに出ないと」

「あ〜、正論に逃げましたね」

「何とでも」

VIIは食い下がるKの腕を優しく剥がしながら、ついでに寝癖をほぐしてそっと手櫛で整えていく。

「では寝る時なら “必要” ですね?」

……なぜそこまでこだわるんですか……

「VIIさんの知らない一面は余さず知っておきたいです。
体が不調な時だと記憶が曖昧になっちゃってもったいないんですよう」

VIIはため息をついた。

……歌うのはかまいません。が、そう期待されると居心地が悪いです」

Kはぱちくりと瞬きをし、にっこり笑った。

「やったあ!VIIさんが歌ってくれることに意味があるので、クオリティは考慮しなくて大丈夫です」

「クオ

目を細めた後、VIIは苦笑した。
Kの肩に手を添え、バスルームに促す。

「何にせよ朝に使うものではありません。
いまKに必要なのは洗面台と歯ブラシとタオルです」

「え〜〜」

やる気のないブーイングの声を上げた後、Kも自分でおかしくなったのかくすくす笑っていた。

「昨日はありがとうございました、VIIさん」

VIIはバスルームの照明のスイッチをつけ、それからそっとKのこめかみに口を寄せた。

「いつものことです」







きゅ、と蛇口をひねる音が響いた後、
顔を洗ったKが、バスルームから顔だけ出してにっこりと笑う。

「VIIさんって歌上手ですよね」

……それはどうも。顔、ちゃんと拭いて。髪と歯も」

「はぁい」

Kは素直に顔を引っ込め、かちゃかちゃと洗面台から小さな音が響く。
その音の向こうに、たどたどしい鼻歌が混ざる。

ほとんど間違えているが、それは昨晩の子守唄のワンフレーズをなぞろうとしているもの……らしかった。

VIIは数秒、時間が止まったように動かなかった。
そして息を吐いたあと、少しだけ頬を緩めた。



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ブラームスの子守唄のイメージです。
いい夢を見てね、明日神様が起こしてくれるよ、みたいな歌詞。

子守唄をしらないKと、煙草でも抑えきれない悪夢にうなされたKにとってVIIの声(聴覚)だけが正気の頼みの綱だといいなあ、VIIさんにとっては煙草が効かない時の絶望ってどんなものなんだろうって考えながら
そのうえで時には煙草よりもVIIさんの存在が助けになっていたらいいな〜と・・・