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山茶花
2026-07-17 11:38:08
6001文字
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[シルデュ]サイト限定(健全)
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優等生のめざし方~花丸をきみに~(恋愛編)【281SK075】
優等生をめざす話/ラブコメ/5700字程度
『実は、聞いて欲しい話があるのだが。
最近、俺のことをやたらと追いかけてくる視線と気配があるんだ。
だが、俺はそのことを悪くは思ってない。むしろ、可愛らしいと思っている。
というわけで、これまでのことを詳しく振り返ってみよう。
俺は、2、3日前の昼休み。学園裏の森の近くを、歩いていたのだが。
そのときも、俺をつけ回す気配があった。だが、そこの草むらと木の影に隠れた、その気配と視線の主は。
「はっ!
……
っ!!」
「
……
」
何を隠そう、最近俺の恋人になったばかりの、ひとつ年下の後輩。デュース・スペードだったんだ。
そして、彼がそのようにして俺を追いかけている理由にもおおよその見当がついていた。そうして追いかけられるのは、初めてではなかったからだ。
それというのも、少し前のこと。
正式に告白をし、付き合い始めてから、1日か2日が経ったばかりの頃のことだろうか。
俺は、デュースと付き合えたことの嬉しさにばかりかまけて、浮かれてニヤつかないようにと顔の筋肉に力を入れながら歩いていて。
そうしたら、俺のことを追いかけてくる気配があって。だが、刺客や敵だというには、それはあまりにも稚拙で。なんというか、幼稚園児がこっそり親の後を追いかけているとか。野ウサギやリスが、俺のことを懐いて追いかけてくるとか。そんな気配に近かった。なので、放置していると。
俺の隙を突いて、その気配が近づいてきて。そして、俺の手をぎゅっと握った。俺はその気配の主を見て、なんだお前かと笑った。
「どうしたんだ、デュース?」
握られた手をぎゅっと握り返してみれば、デュースは赤くなってしまった。しどろもどろになるデュースから事情を聞き出してみれば、アイツはこんなことを言った。
「ぼ、僕っ、先輩の恋人になったので! ちゃんと、恋人の優等生になろうって思って! 手、ぎゅってしに来ました!!」
可愛い。俺は、デュースが何を言っているのかは理屈としてよく分からなかったが、何やら可愛いことを言っているのは分かったので、思わず抱きしめたくなったが。まだ早いだろう、と己を自制して、そうか、と手に指を絡めるまでに留めた。
「お前が俺との関係を前向きに考えていてくれて、嬉しい」
そう言って指先でデュースの手をさすってやると。デュースはますます慌てながら、ほぁあ、とよく分からない声をあげて、混乱していた。
「先輩、やっぱり恋愛もすげえ優等生だ
……
! 僕も頑張らないと
……
!!」
そんなことを呟くデュースの言葉に、これはしばらく続くのだろうな、と俺は内心それを楽しみにしていた。
だから。その日追いかけてきていたのも、たぶん、デュースだろうと俺は当たりをつけていた。
というか、追われている間も、尾行している姿がチラチラと見えていた。
丸くて可愛い頭も、星々を映す夜空のような群青の髪も、ぴょこぴょこと、ひよこのように、いや、茂みに隠れたつもりでいて、耳が丸見えの子うさぎのようにも、見えていた。
もうそれだけで何かいじらしいというか可愛らしかったのだが。デュースが俺の元へ来られるように、わざと隙を作ってやれば。
「!」
ぱあ、と明るい顔になったデュースは急いで俺の元へやってきて、ぎゅっと身体に抱き着いた。
「シルバー先輩っ、僕ですっ!」
「ああ。デュース、今日はどうしたんだ? また、甘えたくなったのか?」
いい子いい子、とデュースの髪を撫でてやれば。デュースは、えっと、そうじゃなくって、と何かを言おうとした。
「僕、恋人の優等生を目指してるので! だから、先輩のところに来てるんです!」
「そうか、可愛い」
「ほあっ!?」
しまった、と俺は思った。つい、可愛いと言う言葉が口から漏れ出てしまったんだ。
……
でも、仕方なくないか? 実際可愛らしかったのだから、俺のデュースが。あんなにも。
「よしよし、いい子だな、お前は。今日も俺の恋人が花丸百点満点の恋人で嬉しいぞ」
抱き着いてきたデュースを腕の中に入れて、頭をこれでもかと好きなだけよしよしと撫でてやると。デュースは照れくさそうに笑っていた。
「へへっ! 僕百点ですか、先輩!」
「ああ、花丸百点満点だ! よく頑張ってくれているな!」
俺の胸に身体を預けながら、にこ~、と、ふにゃりととろけたような顔で笑うデュースの笑顔に。俺は、内心。
(本当に百点満点通り越して五百点くらいやりたいな)
などと、おかしなことを考えていたんだ。
しかし、デュースの『優等生の恋人』への努力は、それだけに留まらない。
俺が昼休み、食事を摂ろうとして食堂へ行ったときのことだ。
デュースに呼ばれたので、そちらへ行ってみると。
「先輩、席とっときましたよ! もし良かったら、どうぞ!」
と、得意げな顔で俺を待つデュースがいたり。
(どうやら、エスコートがしたかったようなんだ。俺が、ありがとう、では一緒に、と頷き、お前はエスコートも上手だな、と褒めたらご機嫌になって
……
、とても可愛かった!)
また、その後の昼休みに、俺が眠気を感じていると。
「せ、せん、ぱい! 眠いなら、僕の肩、とか、膝とか!
……
枕にしても、いいですよ!」と、緊張でガチガチなままに言ってくれたり。
俺はそんな頑張るデュースの健気な態度が、嬉しくて、可愛くて。
「ありがとう」と。デュースの膝へと横になり、目を閉じていると。
薄れていく意識の中で、デュースが、『よしっ、上手にリードできたぞ! ふふん!』と、ガッツポーズしているのが見えて、またそれを愛おしく思ったりしたものだ。
それだけじゃないぞ。デュースは他にも、俺の恋人として優等生になろうとして、たくさんの努力をしてくれている。
どんなことがあるかと言えば、そうだな。
これは俺も、日頃から常々、治したいと思っていることだが。居眠りをする癖が、眠りの呪いが解けてもなかなか治らない。元々、眠気に負けやすい体質のようだ。
その対策として、ハードなミントガムや清涼感の強い目薬を持ち歩くようにしているのだが。
いつからかデュースも、俺のために、と。自分で使うわけではない目薬やガムを持ち歩いてくれるようになった。
それで、俺が例のごとく、うとうと、と居眠りをし始めると。
「シルバー先輩! これは僕の出番ですね!」と、妙に喜びながら。
俺の口にガムを入れてくれたり、目薬を差してくれたりする。
少し手間取ることも多いが、俺はそのデュースの仕草や気持ちを含めて、それを受け取りたくなり、眠るどころではなくなるので、とても助かっている。なので、デュースを褒めた。
「お前は本当に、気が利くな。ありがとう、デュース」
そう言って頭を撫でれば。デュースは、へへっと笑いながら、素直に喜んでくれて。
「僕恋人の優等生として、レベル上がってますか!」
「ああ。着実にレベルアップしている!」
デュースは大喜びしているが、実際俺も大喜びしていた。
何故なら、デュースの持ち物に、俺のためのものが用意されている。そして実際、それは俺のために使われる。その事実だけで、もうそれさえ愛おしくて堪らなかったからだ。
それと、まだあるぞ。聞いてくれ。
……
なぜ逃げようとする。せっかく聞き始めてくれたのだから、最後まで聞いていけ。
デュースとデートに行ったときのことだ。デュースは、エースやリドル、ケイト先輩たちと協力して、ガイドブックを読み込み、俺とのデートプランをスケジュール帳にびっしりと書き込んで、俺とのデートに臨んでくれた。
だが、急な小ぶりの雨が降ってきたり、俺が居眠りをしてしまったりと(不甲斐ない
……
)、ハプニングが起きてしまって、そのプランは崩れてしまったんだ。
そのとき、デュースは落ちこんでしまった。
「先輩を楽しませられるデートができないなんて、僕、恋人の優等生失格かもしれない
……
」と。
だが、俺は。その日、特別な時間として、デュースが傍にいてくれるだけでも、良かった。だから、デュースの手を握って、その気持ちを正直に伝えた。
「お前と一緒なら、こうして雨宿りをしている時間だけでも、俺にとっては最高のデートだ。それに、俺のためにたくさんの時間を使って、計画してくれたこと。たくさん、俺を喜ばせようとしてくれたこと。そのこと自体が、何よりも嬉しい」と。
そうしたら、デュースは。
「
……
ありがとうございます、シルバー先輩。そう言ってくれると、僕も嬉しいです。でも
……
やっぱり、シルバー先輩はすごい! 僕も恋人の優等生にちゃんとなれるよう、もっともっと頑張ります!!」
と。何やらまた闘志を燃やし始めた。俺は、それに満足して頷いた。
どんなことにも、やる気があるというのは良いことだ!
この頃、そんな日々を過ごしている俺たちだったが。
今日も今日とて、デュースが俺の様子を伺っていたんだ。
さて、今日は何を言い出すのだろうか、どんな努力をデュースはしているのだろうか、と楽しみにして待っていると。
デュースが俺に近寄ってきて、言った。
「シルバー先輩っ!」
「ああ、デュース。今日はどうしたんだ?」
「えっと
……
ですね。僕に、甘えてもいいんですよっ!」
おや。今日はそういう方面か。俺は、デュースへ少しからかい混じりに聞いた。
「甘えてもいい、とは? ふっ、どんなことを考えて、その結論に辿り着いたんだ? 教えてくれ、デュース。お前の考えていることが、もっと知りたい」
ほほ笑みかければ、デュースは照れながら答えた。
「え、えっと。恋人が年上の人でも、自分からばっかり甘えるんじゃなくって、たまには甘えさせてあげるのが、優等生の恋人だって聞いて
……
っ!」
「ふっ、そうだったのか」
「なので、先輩にも僕に甘えてほしいんです! なんでもワガママとかおねだり言っていいので、遠慮なくどうぞ!」
むん、と気合いを入れているデュースに。俺は、どうしたものか、と考えた。
「そう、だな。俺も、あまり人に甘えるのが、上手い方ではないと言われるのだが」
それなら、ねだってしまおうか。と、デュースを腕に抱き入れ、ぎゅっと抱きしめて地面に寝転んで、だな。
「せ、先輩?」
「甘やかしてくれるんだろう? そのまま、じっとして。
……
俺のやることを、受け入れてくれ」
そうして、デュースの首筋に、すりすりと頭をすり寄せ。
んっ、とくすぐったそうな声が上がった頃、俺は、どうにも幸せが我慢できずに、くすくすと笑い声をこぼしながら、そのマシュマロのように柔らかな頬へキスをしたんだ。
「デュース、名前を呼んでくれ」
「シルバー、先輩?」
「
……
ああ。次は、『先輩』は無しだぞ?」
ほら、キスをしてやるから、もう一度呼んでみろ、と。
デュースの唇にキスを落とせば。
「し、しる、ばー
……
?」
「
……
ああ。お前のシルバー。お前のたったひとりの恋人の、シルバーだ」
そうしてまた、デュースをぎゅうと抱きしめて、頬ずりしていると。
デュースが言った。
「先輩、これ、甘えられてるんですか
……
?」
僕の方が甘やかされてるみたいな感じなんですけど、と言うデュースに、俺は笑った。
「ああ。とても、癒されている。ずっと、お前をこうしたいと思っていた。いつも、だ」
そうして、昼休みの間中、ずっとデュースの頬や唇、こめかみにキスをし、抱きしめたまま、何度も頬ずりしていれば。
その暖かさが心地良くて、俺はいつの間にか眠ってしまったようだった。
それから、しばらくの時が経ったのだと思う。
「先輩、シルバー先輩。
……
予鈴鳴りましたよ、起きてください」
「ん
……
」
デュースの声と、肩を揺する動きに揺り起こされ。俺は、目蓋を開けた。
「もう、そんな時間か。起こしてくれてありがとう」
「い、いえ!
……
こちらこそ、えっと
……
」
付き合ってくれてありがとうございます、と言うデュースを。俺は最後に、ぎゅっともう一度だけ抱きしめた。
「名残惜しいな。お前と過ごす時間は、南の空を飛びゆく渡り鳥のように、早く過ぎていってしまう」
「先輩
……
」
そうすると、『僕も先輩と、もっとたくさん一緒にいたいって思ってます』とデュースは言って。おずおずと、俺の背中に腕を回し。お互いに、ぎゅっと強く抱きしめあった。
「そろそろ、お前を教室に帰してやらなくてはな。
……
お前は、俺の恋人以外でも、優等生になりたいのだから」
「はは、そうですね。先輩も午後の授業、頑張ってください!」
「ああ。午後は、よく眠くなってしまう魔法史の授業なのだが。お前の応援があるなら、頑張れると思う。ありがとう」
そうして俺は、さあ、教室にお帰り、とデュースの背中を押して、その背を見送り。自分自身も、午後の授業に間に合うように、と。教室へと早足で駆け込んだ。
そうすると、カリムに言われた。
「シルバー、お前昼休みどこでなんの冒険してきたんだ? 髪とか服、すげえことになってるし、顔ってか雰囲気が、なんかすげえ楽しそうってか嬉しそうだ!」
と。俺は、そうか、顔に出てしまっていたか、と頷き。
「とてもいいことがあったんだ」と答えて、隣の席に着き、身なりを軽く整えたんだ。
と、まあ。いろいろなことを話したが。つまりは、だな。結論、俺が伝えたいことと言うのは。
俺の恋人として、優等生を目指すデュースは、世界でいちばん可愛らしい、ということだ。
俺のためにたくさんの努力をしてくれるアイツの姿を見ていると、いつだって百点満点の印をつけて、そこに大きな花丸をやりたくなる。そうは思わないか?
だが、それも俺だけの特権だ。デュースが頑張って、俺が褒めて、デュースが喜んで、また頑張る。
ふたりの間には、とても良いサイクルが出来ていると、俺は思う。
なので、これからもデュースとはいい関係を築いていきたいと俺は思っているんだ』
……
といった内容の話を、シルバーによって延々と聞かされたルームメイトは、大きく息を吸い込み、告げた。
「つまりただのノロケ話じゃねえか、この色ボケ野郎が!! ストーカー被害とかの深刻な相談かと思って損したぜ!!」
しかしそんなルームメイトのツッコミにも、シルバーはどこ吹く風で、幸せいっぱいの、順風満帆に満ち足りた顔をするだけなのであった。
「お前にもいつか恋人ができたとき、同じように、同じだけの幸福が降りそそぐようになればいいと思っている!」
「うるせえ! お前じゃあるまいし、そう簡単に恋人ができるか!! ありがとうよ!!」
*おしまい
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