まう
2026-07-16 01:17:35
1235文字
Public ysp症候群
 

【ご褒美ちょうだい】

みぶりんみぶ
やきもちの話

 風呂から上がり、適当に髪を乾かしてリビングに戻ろうとドアを開けた。先に上がった十一はこっちに背を向けてスマートフォンを操作しているようだった。業務連絡だろうか。仕事モードの顔に見えたので、声はかけずにそのままキッチンへ向かって冷蔵庫を開ける。
 ミネラルウォーターを口にしながらぼうっと十一の背中を見つめた。乾かしたばかりだからか、日中に比べるとふわふわと跳ねた髪が揺れている。そんな状態が何分か続く。
 時計を見ていないので実際はどのくらいだったのかは分からない。でも、その時間がやたらと長く感じる。無意識に口に運んでいたペットボトルの中身はいつの間にか空になっていた。ゴミ箱に放り投げるが、目測を誤ったようでガコンと音を立てて床に転がってしまった。思わず舌打ちをするとリビング側からくすくすと笑い声が聞こえてくる。
「龍胆くん」
 そちらに顔を向けると、十一がおかしそうにおれを眺めていた。その顔が本当に楽しそうでムカつく。
「随分と待たせてしまったかな」
「いやぁ?」
「おや、相当ご機嫌斜めじゃないか。折角待てができて偉いって褒めようかなと思ったんだけれど」
「そんなんじゃねーって」
「ふふ、そうかなぁ」
 十一が立ち上がり、転がっているペットボトルを拾い上げる。機嫌良さそうな笑顔のままそれをゴミ箱に入れた。髪を揺らし、おれを見上げる。
「僕の番犬は、どうやったら機嫌を直してくれるのかな?」
「いや、だから……
 指摘されると流石に恥ずかしい。というより、そんなガキっぽい態度になっていたという事実が格好悪い。だが十一はそんなおれの態度に気を良くしたのか、ニコニコと近づいてくる。そうしておれの右手を取った。
 何をするのかと思わず凝視すると、そのまま自分の唇を押し当てた。柔らかい感触が伝わって来る。
「妬いてる君って、すごく可愛いんだよね」
「あー、はいはい」
 満足げなその顔に対して、ちょうどいい言葉は出てこない。こういうとき、どうしたって口では敵わないのだということをいい加減学んでいる。
 十一がわざとらしく音を立ててもう一度おれの手にキスをする。そっちがその気なら好きにさせてもらおうと、空いている手を腰に回して引き寄せた。ふわりと髪が揺れ、自分と同じシャンプーの香りが届いた。
「わっ、と。こら、龍胆くん、お行儀が悪いよ」
「そうやって澄ましてんの、ムカつく」
……んー、これでも結構余裕はないんだけれどな」
「あ、そお」
 触れ合った身体から、じんわりと熱が伝わってくる。十一の腕が、おれの背中に回った。
「機嫌、取ってくれるんだろ?」
「もちろん。どんなご褒美をご所望かな、龍胆くん」
 薄く発光する両目がおれを見上げ、視線が交わる。密着したせいでどくどく鳴る十一の鼓動が自分の身体に伝わった。ちらりと視線を落とせば、髪の隙間からほんのりと赤く色づく両耳が覗いているのが見える。
 溶けるみたいに唇を寄せたのは、同時だった。