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みずか
2026-07-15 15:21:44
6199文字
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結婚式でなれそめを供述調書風に紹介してくれる高木改め、「祝福の証」
高木刑事はよくBパートに入ると調書読み上げしてるっていうのをみかけて、重千結婚式でなれそめを調書風に紹介してくれたらいいかも〜で思いついたお話。名前で呼び合う切っ掛けを添えて。
ぺけったーでは書きたいところだけ書いて終わってたので、だいぶ加筆しました。
澄み始めた秋空が横浜港を高く包み、海から吹く風もどこかやわらかさを帯びてきた頃。
みなとみらいの景色を望むホテルでは、この日、ひときわ多くの祝福の笑顔が集まっていた。
和やかに執り行われているのは、神奈川県警捜査一課所属・横溝重悟警部と、同じく神奈川県警交通部第三交通機動隊小隊長・萩原千速警部補の結婚披露宴。
新郎新婦が警察官なら、参列者もほぼ警察関係者。
しかも新郎新婦が儀礼服で挙式と聞きつけた参列者の面々が、それなら我々も礼服で参列しようと意気投合。
縦横のネットワークが遺憾なく発揮され、警察官関係者の大半が礼服という、さながら式典のような光景が出来上がった。
その余波は、当然ながら関係部署にも及び、何事かと話題にあがったほど。
警察官の礼服は、必要な際に申請する貸し出し式。
神奈川県警の総務部被服担当には、やたらめったら同日日付での礼服貸し出し申請が積み上がった。その申請理由は、どれも結婚式参列の為。
申請者の所属の大半が捜査一課と第三交通機動隊とあっては、横溝警部・萩原警部補の結婚式参列か、とすぐに納得がいった。
あまりに礼服が勢揃いするものだから、入場の際に参列者を見た重悟と千速は思わずお互い顔を見合わせてしまう。
「
……
なんか、やたら紺色勢揃いだぞ」
「千速、お前なにか聞いてないのか?」
「いや何も。あいつら、きっちり箝口令敷いてきたな」
厳かなパイプオルガンの音色のお陰で、この小声の会話は本人達が知るのみながら、思わず吹き出しそうになり、仲良くほぼ同時に制帽で口元を隠し笑いの発作を堪える。
気を取り直し、二人でバージンロードを歩き、誓いの言葉を交わしたのだった。
厳かな中に遊び心が隠れた挙式が終わった後は、披露宴へと突入。
挙式の際は儀礼服だった新郎新婦も、重悟は黒のタキシード、千速はウエディングドレスと装いを新たにしての入場。
「新郎のタキシードは新婦が、新婦のドレスは新郎が選びました。新婦は五分で即決。新郎は大変に悩み抜き、試着も重ね、新婦が一番素敵に見えるドレスを選んだそうです」
入場しながら司会者が衣装を選んだ際のエピソードを語れば、早速各テーブルからひゅーひゅーと歓声があがる。
確かに重悟のタキシードはオーダーメイドかと思うほど良く似合っているし、千速のウエディングドレスはシンプルで派手さはないのに立ち姿は凜々しく、彼女の素の美しさを引き立てている。
「それでは、乾杯の音頭は新婦からのたっての希望で
……
江戸川コナン君、お願いします」
「ぼ、僕?」
「頼んだぞ、少年」
千速からウインクとサムズアップで言われては、さすがに断れない。突然の指名に臆せずにマイクを握りしめ、立派に乾杯の音頭を務めあげた。
乾杯からケーキ入刀、そしてファーストバイトと和やかな雰囲気の中で式は進み、笑顔が絶え間なく溢れている。
「来賓祝辞の前に、ここで新郎新婦のなれ初めについてご紹介いたします。二人のなれ初めについては、来賓であります警視庁捜査一課・高木渉巡査部長に読み上げて頂きたいと存じます。高木様、宜しくお願い致します」
司会の案内には会場内からツッコミの合いの手が入りつつ、紹介さた高木は打ち合わせ通りに会場前方にあるマイク前に立った。
懐から出したのは、警察手帳を模した黒いノート。この中に、これから読み上げる新郎新婦のなれ初めが書かれている。
「ただいまご紹介にあずかりました、警視庁捜査一課の高木です。ご期待に添って、調書読み上げ風にご紹介したいと思います」
── よっ!待ってましたぁーー!
あがった声援に笑みで答えた高木は、おもむろにページを捲る。
もちろんぶっつけ本番で読み上げる訳ではなく、事前に原稿は受け取っている。しかし大勢の前で、しかも当人達がいる中でこのなれ初めを読み上げるのは、色々な意味で緊張する。
一呼吸置くと、高木は静かに口を開いた。
「新郎と新婦が初めて顔を合わせたのは、八年前の十一月七日。神奈川県警の廊下でした。しかしこの前日、二人は間接的に出会っています。新郎が追っていた被疑者の暴走車両を、付近を巡回中だった新婦が見かけ、被疑者の車を新婦が迂回路を通って先回り。白バイをぶつけて止める荒技で被疑者を逮捕。なお、この際に新婦の白バイは大破。幸いな事に、被疑者も新婦も大けがすることなく、済んでおります」
── 小隊長かっこいーーー!!
── 横溝ぉ逃げられてるんじゃねーぞー!
賓客からのかけ声に千速は笑顔で手を振り、重悟は煩いわっと、こちらも冗談と分かっていてわざと食ってかかる。
ひとしきり歓声が収まったところで、高木はページを捲り、続きを読み上げる。
「その翌日。新婦は前日の白バイ大破のお詫び行脚、もとい、各所への事情説明で神奈川県警を訪れています。この際、新郎が新婦に声を掛けました。大けがしているのではないかと心配してのことですが
……
後ろ姿に『萩原千速ってのは、お前か』と呼びかけたところ、新婦の返答は『誰だ、お前』であったと、新郎より証言がありました。
なおこの時の新婦の印象を新郎は『怪我はしてなさそうだが、相当な低気圧』新婦の新郎の印象は『捜一はクマ飼ってるのか?』であったそうです」
「おい千速。お前、俺のことクマかと思ったのかよ」
「だってそうだろ? 私から見ても見上げる位だし、ガタイも良いからな」
どっとわき上がる会場内、小突き合う新郎と新婦。モニターにはその当時警察手帳に使用されていた、今より少し若い重悟と千速の写真が映っている。
「続けさせて頂きます。その後、新婦は最愛の弟君を喪うなど辛いこともありましたが、新郎は県警の廊下で新婦をみかけるたびに、声を掛けたそうです。動機は『弟を亡くした後で色々危なっかしく、放っておけなかった』と申しており、ここから新郎の七年間にわたる片思いが始まります」
── マジでながかった!!
── やっと結婚した!
「えー、新婦に伺いましたところ『最初は本当にうざかった』『重悟がいると下心ある連中が寄りつかないので意外よかった』『連れて行ってくれる飯屋がどれも美味しいところばかりだった』と
……
どうやら利害が一致したようなところもあるようです。
何時の頃からか名前で呼ぶようになりますが
……
皆様、ここはきっかけが気になる所ではないでしょうか」
── 気になるーーーー!!
「満場一致のコール、ありがとうございます。関係各所からの目撃情報をまとめますと、新郎が県警の廊下で新婦を見かけ、いつもの様に声を掛けたそうで
……
」
*
そろそろ各地で桜の開花が予測される、そんな季節。
その日、千速は近くで検挙協力した案件があり、県警本部に寄っていた。
調書に添付する事故現場の見取り図作成など、やることは色々と多い。しかも昼食を食べ損ねてしまい、腹はぐぅぐぅ鳴る上に、書き込む見取り図は細かい。車両が複数絡んだ案件の為で仕方ないとは分かっていても、面倒なものは面倒。
しかしこれを書き上げなくては、帰ることもままならない。
おのれ
……
と書類をにらみつけながら、黙々と手を動かしていく。集中すれば空腹も紛れ仕事も終わる、しかし腹は鳴る。
パキッ
ペンのボディにヒビを入れながら、無心で線を引いた。
同じ頃、重悟は事件の事を聞こうと、千速を探していた。
だいたい県警本部に立ち寄る交通機動隊員は、交通部のデスクを借りて仕事を片付けることがほとんど。交通部にいなければ食堂かとアタリをつけ、確率の高い交通部を訪れた。
「こっちに第三交機の萩原は来ているか?」
「おります。奥で書類作成していますよ。
……
今のところ大人しくしていますが、若干気が立っているようで
……
」
「ありがとよ」
午前中の事件の件で千速の証言を聞きに来た重悟は、交通部の職員に声をかけて居場所を確認。どうやら大人しく書類作成にいそしんでいる様子ながら、何やらご立腹と。
時間的に昼飯を食べ損ねたか、また上司から小言を貰ったのか、どちらかだろうか。
弟の一件があってから身体を張った止め方ばかりするのが目に付き、いつだったか交通部を通りかかったときには『あのままでは、死にかねない』と言われるほど無茶をし、時に白バイを大なり小なり破損させているらしい。
気が立っているとは、しゃーっと威嚇している猫か。いやあながち間違っていないところではある。
交通部の室内を通り抜け、重悟は部屋の奥にあるスペースに足を向けた。
「萩原、ちょっといいか?」
「ああん?」
声を掛けると、千速は不機嫌さを隠しもせずに顔を上げた。
その様子を目にした重悟は、事情聴取よりも何よりも、まずはこれが先だと優先順位を入れ替える。
初めて会った時と比べたら眼が妙に座っている上に、メイクで隠してはいるが目の下には隈が出来ている。顔立ちも少し頬が細くなっている上に、顔色も良さそうとは言えない。
「
……
書類は後でいいだろ。飯行くぞ」
「毎度毎度、なんなんだお前は。別に腹は減ってない」
ぐぅぅぅ
「どうやら、腹の虫は素直なようだ」
「うるさい。こっちは仕事しいてるんだ。飯なら一人でいけ、横みじょ
……
」
「
…………
」
「
…………
」
沈黙に耐えきれなかったのは、千速のほうだった。
「お、お前の名字は呼びにくいんだ! 確か、名前は重悟だったな?」
「そうだ。横溝重悟だ」
「なら、重悟でいいな。そのほうがまだ呼びやすい。飯はどこに行くんだ? もちろん誘ったからには奢りか? 奢りだな。よし、いくぞ。美味いところじゃないと、承知しないからな」
うっかり噛んでしまった気恥ずかしさから、千速は誤魔化すように立て板に水のごとく勢い良くしゃべり、ついでのように重悟の昼食の誘いに乗った。実のところ書類を書いている間、何人かから昼飯はどうかと誘いを受け、据わった眼で睨み付けては追い返していたのだ。
「おいこら萩原! 俺の方が階級は上! ついでに四つも年上だぞ」
「いまどき、年齢だ階級だなんて流行らないしモテないぞ、じゅーご」
「もう呼び捨てか!」
「気に入らないなら、私のことも名前で呼べばよかろう。それでおあいこだ。千に速いと書いて、千速だ」
「
……
名は体を表すような名前だな」
「いい名前だろう? 気に入っている」
立ち上がり机の上を少し片付けると、千速は手荷物を持って先に交通部を出る。その小さな背中を重悟も慌てて追いかけ、県警のロビーまで降りて行った。
*
「この時初めてのランチに新郎が連れて行ったのは、県警近くの某店。店主と店員の証言によりますと、あの横溝警部が部下以外の人を連れてきたので良く覚えていたそうで
……
食べた瞬間にむせた新婦に水を渡し、ゆっくり食べろ、とそれだけ言って二人で静かに食べていたのが印象に残っている、とのことでした。ここで新郎と新婦にお聞きしたいと思いますが、注文したメニュー、覚えていますか?」
高木の問い掛けに、重悟はすぐ思い出せずにまごつくも、千速はすらすらと初めてのランチで食べたものを挙げていく。
「覚えているぞ。あの時は、五目あんかけ炒飯の餃子デザートセットだった。まぁ私は全部は食べられなくて、餃子は重悟に食べてもらって、デザートの杏仁豆腐は食べたな」
「
……
そうだったか?」
「覚えてないのか? 重悟が頼んだものだって覚えているぞ。レタス炒飯の唐揚げセット、デザート付きだ」
「さすが萩原警部補、正解です」
高木の一声に会場からは大きな拍手があがり、千速はうんうんと満面の笑み。忘れていた重悟の頬をつねれば、どっと会場が笑いに包まれる。
「ただいまの新婦の供述と店主・店員の供述は一致しており、初めて食べたランチは証明されました。それから、何度か新郎と新婦が一緒に訪れるようになり、食事中は静かだったのが、気がつけばよく笑い、それぞれのおかずを交換するようになっていたと証言を頂いております。夏を迎える頃には、新郎も新婦もお互いを名前で呼んでいて、これは吉報かとお祝いの言葉を掛けるのを楽しみに待っていたそうですが
……
結果として、七年の歳月が過ぎていたのは、ご参列の皆様方もご存じの通りでございます」
そうだそうだ、の声に重悟は苦笑いするしかなく、千速はこそっと「そういう重悟だから惚れたんだ。自信を持て」とささやき、真っ赤になる様を楽しむ。
「この七年の片思い期間中、周囲から付き合っているのか、と毎度誤解されるほど仲睦まじい様子を見せつけられてきましたが、とある一件の後より急速に関係が進行しました。えー
……
ここでは一般の方もいらっしゃいますので詳細は控えますが、捜査一課・第三交機の皆様にはお分かりの、例の件ですね」
うんうん、と神奈川県警の面々が一同に深く静かに頷いたところから、警察関係者以外も、本当に大変なことがあったのだろう、と推測がついた。
「新郎に伺ったところ、告白から入籍まで三日の超スピード結婚であったことをご紹介し、以上を持ちまして、新郎新婦馴れ初め調書の読み上げを終了いたします。ご清聴、誠にありがとうございました」
大役を終え一礼した高木には、会場から大きな拍手が送られ、新郎新婦とがっちり握手をして席に戻る。
続いての来賓祝辞は、重悟と千速の上司達からそれぞれ送られ、巧みなトークでこれまた会場を沸かせる。二人の実直な仕事ぶり、様々なエピソードで会場はしんみりしたり、笑いに包まれてと暖かい。
「最後に、祝電を頂戴していますので、ご紹介いたします」
主賓からの祝辞の後は歓談の時間のはず。
予定にない祝電紹介、段取りを完全に把握している重悟と千速は顔を寄せ合っての内緒話をする。
「重悟、何か聞いているか?」
「いや俺もさっぱりなんだが
……
」
高砂の二人に目配せすると、司会者は台紙を開き祝電を読み始める。
「
……
新婦の先輩で、新人時代に教育係も担当されました、浅葱一華様より、祝電をお預かり致しました」
── 結婚本当におめでとう。二人の幸せを心よりお祈り致します。横溝警部、萩原を頼みます。
まさかの人からの祝電、千速は目を見開いた。目の前のテーブルは第三交機の先輩と後輩達のテーブル、新人時代にもお世話になった先輩二人がこちらを見て、頷いている。
それだけで、千速はどうして尊敬する先輩が祝電を送ってくれたのか、送ってこれたのかを理解してしまった。
こぼれ落ちる涙も拭えず泣く千速に、重悟は自分のハンカチで目元を抑えてやり、ぽんと頭を撫でる。
「良かったな」
「
……
ああ」
吹っ切れたように笑った千速の目尻へ、重悟はそっと唇を寄せる。
「──!?」
あまりにも自然な仕草だった。
一瞬、何が起きたのか理解が追いつかず、千速は鳩が豆鉄砲を食らったように目を丸くし、会場は何を見せられたんだ、と静まりかえってからの大歓声。
幸せになれよの声に重悟は笑顔になった千速の手を握り、この温もりと晴れやかな笑顔を、生涯守り抜こうと誓うのだった。
【了】
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