紫よか
2026-07-15 11:49:38
1906文字
Public イナズマイレブン
 

そしてあなたは前を向く

亜風炉照美と春星繭美 アニメ二期での話。まだくっついてない

「春星さん、僕はかつてとても悪いことをしたんだ」

 艶めく長い金髪が肩に垂れる。ルビーのように赤い瞳が少女の目を見つめる。そんな美しい少年に、少女は目が釘付けになった。

「悪いこと?」
「そう。冒涜……って言えば良いのかな」
「それは、何に対して?」

 少年──亜風炉照美と、少女──春星繭美は、病院の屋上のベンチに座っていた。照美は松葉杖が必要な怪我をしており、繭美は少しの上下運動でも息が上がるほどからだが弱かったのだが、ふたりの逢瀬に等しい内緒話の場所は、自然と空と街が見渡せるこの場所になっていた。

「僕の好きなこと。……サッカー」
「好きなことを、冒涜してしまったのですか?」
「そう」
「どんなことを……? いえ、聞かない方が良いのでしょうか」
「ううん、春星さんには聞いてほしい。……僕ら世宇子中がフットボールフロンティアに参加していたのは、春星さんも知っているよね」
「ええ、飛び入り参加して、あの帝国学園に大差をつけて勝ってましたね」
「その頃から、僕の罪は始まっていたんだ。僕らは……ドーピング行為をしていた」
……ドーピング」

 照美のその言葉を、繭美は反芻する。……スポーツ選手として、絶対にやってはいけない禁忌の行為。照美はそれをしていたと言う。繭美は当時、照美が属する中学校、世宇子中の強さにテレビ越しに息を呑んでいた。素直に、すごい学校が現れたと感心していた。それが、ドーピングによるものだったなんて。彼女は今座っている椅子が置かれている床ががらがらと崩れるような、そんなショックを受けていた。

 けれど、照美の苦しげな表情を見て、責める気持ちは消えていった。そして、そのショックから引き上げてくれたのも、また照美の言葉であった。

「本当は、ドーピングなんてしなくても……チームの皆も僕もサッカーが好きで。でも、そのサッカーを裏切ってしまった。だから僕は、今度は裏切りたくなかったんだ。まっすぐに、サッカーに向き合いたかった……罪滅ぼしってやつかも」

 その言葉は、哀しくも明るいもので──繭美は思うのだ。

(ああ、この人は本当に優しくて強いひとなのね)

「それで、こんな怪我をしてしまったから、チームメイトには叱られてしまったけどね」

 照美は気恥ずかしげに笑う。そう、フットボールフロンティアの後、各地の学校を襲撃していた存在であるエイリア学園に立ち向かっていた、優勝校雷門中のメンバーを基盤にしたチーム、イナズマキャラバンに照美は一時期参加していた。そして、その強大な力に、実力者である照美は負傷し、今ここにいるのだ。

……なら、もう照美くんの"悪いこと"は、もう終わりですね」
「終わり?」
「そうです。照美くんはじゅうぶん戦いました。サッカーへの罪滅ぼしも、もうじゅうぶん。……何もできなかった私が言うのもなんですけれど、よくがんばりました、照美くん」
……。そっか」
「だから、あとは楽しんでサッカーができるよう、その怪我をはやく治すのみですよ。……なんてね、ふふ」

 少女のその言葉に少年は目を見開き、そして微笑む。

「うん。早くしたいよ、サッカー」
「きっとチームの皆さんも、待ってますよ」
「僕がサッカーをまたできるようになったら、春星さんは応援してくれる?」

 少年の言葉に、少女もまた微笑んだ。

「もちろん。照美くんが前を向く限り、私は照美くんのファンです」
……ありがとう、嬉しいよ」
「私の病気が治ったら……私にサッカー、教えてくださいね?」
「もちろん」
「やった。照美くんに教えてもらえる照美くんのファンなんて、私くらいです」

 いたずらっぽく繭美は笑う。その顔に、照美はなぜだか、どうしようもなく惹きつけられた。大人しい丁寧な所作なのに、言動は年相応で──けれど、今思ったこの気持ちを言ってしまうことは、照美にはまだできなかった。

「春星さんって……
「どうかしました?」
「ううん、何でもないよ」

 春星さんって、可愛いよね。
 なんて言ったら、彼女はどんな顔をするだろう。照美はそう考えると、胸の内がドキドキとする。ずるもせずボールを蹴っている時とはまた別の、楽しい気持ちになるのだ。

 だから、いつか言ってしまおう。そう照美は思い、繭美に笑いかける。整った顔立ちの照美に笑いかけられた繭美は、不思議そうに首をかしげ、そして我に返ったように慌てて目をそらすのであった。

(やっぱり、可愛い)

 彼女のためにも、前を向く誠実な自分でありたい。そう照美は内心で決意した。