鯖男
2026-07-11 22:36:53
1628文字
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質の悪いアルコールの凶行

成人して酒飲んで泥酔したヤくんとごっつぁんゴールしたイのイシヤシ

おかしな話だが、彼は煙草は吸うのに飲酒はしていなかった。
中途半端な法律遵守が彼らしく、ぼくは納得するしかない。
そんな彼も成人を迎えたようで、行きつけのバーでお食い初めならぬお飲み初めとしてビールを煽る。汗をかいたジョッキが、暖色の明かりを反射し、夜の世界に似つかわしくないほどに輝いていた。
それが一次会。
二次会として彼が隠れ家として使っているアパートのひとつに、バーの常連であり腐れ縁たちは招待された。
行くまでのコンビニで、金額も見ずに酒をかごへ放り込む。ビール、チューハイ、ウイスキー。どれもこれもコンビニ価格で割高であり、酒としては安上がり。
だが彼にとって、味の善し悪しよりも誰と呑むかに重きを置いているのだからそれでいいのだと思う。

──何時間経っただろうか。
既に終電はない丑三つ時。全員が飲酒をしているので、パーキングに置いた車も使えない。
いや、法を見ぬ振りすればいけるだろうが、つまらないことで赤切符を切られようものなら、笑い話として数年は語り継がれてしまう。自分ならそうする。
根無し草であるひとりは、「また誘ってほしい」と一言残し、その場を後にした。
ひとりはスマホから近場のホテルを予約し、別れの挨拶もほどほどに部屋を出る。
残ったのは、ぼくと寝息をたてる家主だけだ。
彼はベッドとも併用している二人掛けのソファに、深く腰掛けるも、身体が支えられずにもたれかかる。
普段より紅潮した頬と、アルコールのニオイ。首筋に触れると、高い熱と早めの脈拍が伝わってくる。
生存が伝わってくる。
──質の悪いアルコールが脳を巡る。
首筋に触れていた指が顎先へ移動し、薄い唇へと触れた。女性と比べ、弾力性など微塵もない。手入れもされていないからか、ちくりと固い皮が指の腹を刺激する。濡れた状態でこれなのだから、冬場など目も当てられない惨状なのだろう。
質の悪いアルコールが脳を巡る。
だから。
唇を舐め、そろりと口の割れ目に舌を差し入れた。
彼の息を飲む声が鼓膜に触れる。だが夢とうつつの狭間で漂っているだけで、起きる気配は感じない。だが突然暴れてもいいように、彼の右手に指を絡めておく。ぼくよりも無骨で皮膚が固い剣士の手。手のひらに触れる剣ダコは勇者として生きてきた年月を感じさせる。
不意に彼の鼻かかった声が鼓膜を揺らした。子犬のようなそれ。どうにも愛らしく、彼の後頭部を撫でながら引き寄せる。
腔内は安っぽいただただ苦いビールの味。他にも呑んでいたが、圧倒的にビールの比率が高かったせいだろう。ぼんやりとした彼の舌をすくい取り、付け根から舌先、表面から裏側に至るまで擦って、しごいて、なぞって、自身の舌を教え込む。
丹念な粘膜への愛撫で、彼の眉間に緩くシワが浮かんだ。だが小生意気な双眸が顔を出すことはない。
まだいける。
首の後ろがひりひりする感覚と共に、腔内の愛撫もとい蹂躙を続けた。歯列も口底も覚えるほどにじっくりと。
ぼくが呑んでいた同じように安っぽいチューハイの味と混ざり合い、チグハグとなる。
まるでぼくらの関係そのもので、どうにも笑ってしまった。
どれだけ時計の針の音を聞いていたか。
彼の腔内を堪能し尽くした頃合い。ぼくはゆっくりと唇を離す。蛍光灯に照らされた唾液の糸が、名残惜しげに繋がっており、呆気なく切れた。
するとあふ、と気の抜けたあくびか息継ぎが聞こえる。続けざまに彼の指先が心電図かのように痙攣。
ぼくは絡めた指で彼の指の股をしごき、爪を立てた。皮膚の薄いそこの刺激は、感度の高まった今、暴力的なまでに彼の神経を駆け巡る。
あ。
一言。濡れた声も漏らす。
背筋に走る甘い疼きは、成人なりたての彼の身体には強すぎたようで、一際大きく痙攣したのち、ぼくへしなだれた。
一段と火照った身体と浅い呼吸。
そしてようやく彼の双眸が開かれた。
涙の膜が張った緑の瞳。
そこには酷薄に微笑む自身が映り込んでいた。