鯖男
2026-06-03 19:35:10
1272文字
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忠犬と駄猫の邂逅

頭目厶を挟んで剣契グと黒雲グがバチバチするはなし

それはある囚人がかぶった人格の一言から始まった。
「ウーティスのやつ、すかしてるがまあ嫌いじゃねえよ。俺のこと見下してこねえし」
《ん……? ヒースクリフのところにウーティスがいるの? 剣契じゃないよね?》
ダンテが問えば、ヒースクリフは疑問符を浮かべながら肯定した。
ヒースクリフは黒雲会であり、ウーティスもまた黒雲会に所属している。副組長はイシュメールと明言しており、黒雲会のイシュメールにも問えば同じ答えが返ってくる。
ダンテはパッドを操作しながら、画面に表示される人格を指でなぞり、ある過程をした。
同じ黒雲会所属であっても、世界線が異なるのではないか。同時に異なる未来の囚人も。
となれば副組長であるグレゴールとイシュメール二人いるのも、黒雲会にいるウーティスと剣契にいるウーティスも説明がつく。──副組長が二人体制というのも考えたが、イシュメールからそういった説明はなかった。
《いろんな理由から世界が違うこともあるんだな》
同じ所属先として戦闘スタイルは似通っているものの、一緒の時間を過ごしたわけではないので息が合うと決めつけるのは早計なのだろう。同時に思い込みではなく、所属先を確認しなくては武器すら異なる場合がある。
こういった人格はこれから多く排出されていく。
ダンテは今まで以上に人格のリスニングを強化していく方向に決めた。

──そんな決意をしたのが数週間前。
時計の針を延々とかちかちさせたから、意識が遠のいたのか。はたまた目の前の現状からの逃避なのか。
「頭目様! こんな馴れ馴れしい飲んだくれにかまう必要はありません!」
「はぁ~? 随分な挨拶だな。おう、笠の旦那。こんな熱烈な部下がいるなんて聞いてないぜ」
剣契頭目たるムルソーを挟んで、火花やら淀んだ空気やら発生させているのは二人のグレゴールだった。
二人のグレゴール。言い間違えではない。正しく二人のグレゴールだ。
剣契と黒雲会。異なる未来のグレゴールたちだった。
「大体なんだ貴様。服装から黒雲会だろう。なぜ頭目様に言い寄る!」
「言い寄るだってよ。懸想とか言われるかと思ったわ」
「なあ、旦那」と右手でムルソーの肩を撫でた。
自身の分身とも呼べる武器を扱う右手で、命のやりとりをする相手の身体に触れる。
その意味は、物理的に殺し合いをしたことのないダンテにはなんとなくでしか理解はできない。他人が口を挟むべきでないのは、肌でわかる。
一方で剣契のグレゴールは、正しく理解したのだろう。全身の毛を逆立てるように黒雲会を睨めし、腰の環刀(ファンド)に手が伸びる。
しかし抜刀には至らない。この場で戦いの火蓋を落とせば、両者無傷では済まないことを知っているからだ。
「なんだ、行儀がいいな。かわいいワンちゃんめ」
……調子に乗るなよ、駄猫。貴様の首転がしてやろうか」
「はは、ちゃーんと殺せよ。歯も『刃』だぜ?」
「ああ、そうだな。歯も全部折ることにする。忠告ありがとう」
《ムルソー……助けて》
小刻みの秒針は、ダンテの身体の震えと呼応していた。