鯖男
2026-05-25 18:25:18
1615文字
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マッサージの攻防

自分の誕生日なので自分の性癖にしか考慮してない本当に書きたいところしか書いてないイシヤシ。ヤシロくんに犬耳犬尻尾生えてる。

とあるホテルの一室。
ある程度の信用がおけるそこは、顧客情報を漏らすことはない。だからこそ後ろ暗いことにも使われるのだが、それについては二人は我感ぜずと黙っている。
一人用のベッドのスプリングが激しく軋む。成人二人の体重を支えるようにできていないのだから
当然だ。だが二人は気にせず、ベッドに悲鳴を上げさせ続ける。
「ヤシロさんは最初、いつもいやそうな顔しますよね」
いつもの洒落たスーツを脱ぎ、ワイシャツのボタンを数個外しながらイシノオは薄く笑う。楽になった首元はしっとりと汗が滲んでおり、ヤシロはこいつも人間なんだな、と当たり前を思う。
ベッドに押し倒されたカタチとなったヤシロは、顎をあげて見上げているのに見下ろしている視線をイシノオへ向けた。
「当たり前だろ。いやでいやでしょうがねえ」
「なら蹴り上げるなりして帰ればいいのに」
正面切っての戦闘ならば、イシノオに勝機はない。
それほどの戦力差は互いに理解している。
だがヤシロはやらなかった。
それが答えだ。
口が堅く、後腐れなく、身近で、手軽な相手。
他に該当者がいれば、諸手をあげてそちらにうつるだろうに。
現実に奥歯を軋ませ、カーテンから透ける月明かりがヤシロの眼光を鋭く映し出した。
「ほんっと……死ねよ」
「ぼくが死んだら新しい相手探し頑張ってくださいね」
そういってイシノオの筋張った指が、ヤシロの頭の耳に触れた。
頭の耳。それは獣のものだ。短毛でピンと立った短く三角の耳。犬のものに相似している。
柔らかく体温を感じるそれは、神経すらも通っているのだろう。こりこりと揉みながら、耳の付け根を指の腹で軽く押してやる。
ん、と小さく漏れる声は痛みではない。イシノオ自身としてはそっちの方が好みだが、本日は敢えて封印する。
滑るようにこめかみに移動し、首筋を親指で指圧していく。筋張ったところや固いところを重点的にほぐせば、ん、んぅ、とむずがる声が鼓膜を揺らす。
更に移動し、下腹部で移動していく。尾てい骨から生えるくるんと丸まった尻尾。その付け根部分。だがズボンの上からでは、生地の厚さから満足に揉むこともできまい。
イシノオは器用に片手でヤシロのベルトを緩め、尻尾の付け根に指を這わせる。
瞬間、おい、と待ったの声をかけられた。
「なにか?」
「そこはいい」
「以前ネットで見たんですけど、尻尾の付け根って揉みほぐすと気持ちいいらしいですよ。ほら、手が届かないでしょ。ぼくがやってあげますよ」
「いい」
頑なな拒否の理由はわかる。いくらパーソナルスペースが狭いヤシロとはいえ、秘部に近い部分を触らせるほどではないというだけだ。
「いやだ」
完全な拒否。もし顔見知りでないなら歯を剥き出して威嚇していただろう。
しかし威嚇されたからとはいえ、イシノオがその程度で引くわけもなく。
「まあまあまあ」
「あ、てめ、くっそ、このばか!」
尾てい骨から生える犬の尻尾。付け根を指で探りながら爪でひっかいた。猫がじゃれるようなかわいらしいイタズラ。
──あ。
色を纏った声が部屋に零れた瞬間、ヤシロの全身が硬直する。同時にイシノオは鳩が豆鉄砲を食らったように目を丸くした。普段のヤシロならそんなイシノオを指さして馬鹿にするものだが、それどころではない。
時間が止まった。
互いの呼吸音すら聞こえない無音の中、最初に声を発したのはヤシロだった。
「今日は解散で」
「今」
「なにもなかった」
「喘ぎました?」
「耳腐ってんのか。ねーよ」
「尻尾の付け根って敏感で気持ちいい場所らしいですよ」
「へえそうなん」
「喘ぎました?」
「ねーよ」
無音。
互いの目は逸らされ、タイミングを計っている。
何のタイミングか。
押さえ込まれた状態からの脱出を図ろうとするヤシロ。
再び尻尾の付け根を揉みしだこうとするイシノオ。
どちらが先に動くのか。湿度を含んだ闇だけが見ていた。