鯖男
2026-04-15 18:41:54
1762文字
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俺たちはそういう関係ではない

イシヤシ。ヤ目線でえっする前のはなし。愛とかない。

キッカケはなんだったか覚えていない。
グーニーズで目が合った。
肩がぶつかった。
メダリオンで大敗した。
二人でなんとなく意見が一致したら行う行為だ。

適当な部屋でいいのに。
そういうとイシノオは笑顔のまま俺を見る。その笑っていない目元は「信じられねえ」と非難が込められていた。
だからといってイシノオが提示するホテルでは、俺の財布が悲鳴をあげる。提案者なので全額イシノオに出させる案も浮かんだが、行為の最中に当てこすりされたらたまったもんではないので却下。
結局いつも通り俺の部屋となる。
以前、自分の部屋をラブホのように使われるのに疑問があった俺は、イシノオのガレージを提案したことがあった。虚を突かれたイシノオの顔なんて、片手で足りるほどしか見てなかったのだが、これが数少ないひとつである。
「いいんですか?」と薄く笑う男。瞳の奥にちりちりと燻る黒い炎が見えた気がして、俺の第六感が即座に断る。
数ヶ月後、それが英断だったことがわかり、二度と提案しなかった。
無言で歩きながらたどり着いたのは、何の変哲もないマンションだ。正確には普通のマンションに擬態した勇者専用のマンション。防犯セキュリティと防音機能が、一般住宅をゆうに超えているのがありがたい。
狭いエレベーターでも会話はなく、変に長く感じられ、俺の視線は階層を表す画面に固定された。
お邪魔します、なんて形式だけの挨拶をし、イシノオは靴を脱ぐ。
勝手知ったる他人の家とばかりに、コートとスーツをハンガーにかけ、ベッドに腰掛けた。
「お先にシャワーどうぞ」
「なんで家主でもないお前に指図されなきゃいけねえんだ」
「譲ってるんですよ。先輩の顔を立てる後輩なもので」
先輩といいながらも、イシノオの顔は胡散臭い。うっすらと滲み出た小馬鹿にしてる雰囲気はわざとなのだろう。現にこいつが俺のことを『先輩』と呼んだのは、両手で足りるだけだ。
年上の後輩は、基本的に人を敬うことができない。
とはいえ自分の家だ。家主が優先されるべきだろう。俺はイジるなよ、と釘を刺してから風呂場へ向かった。
様々な準備やあれやそれを済ませ、手早くシャワーを終える。乾燥が終わった洗濯機から適当な服をひっつかみ、袖を通す。
「空いたぞ」
声をかければ奴はスマホから顔をあげ、俺を見るやいなや頭を抱えながら深く息を吐いた。
……もう全裸でよくないですか」
「露出狂じゃねえんだよ」
「いやだって……この後のすることに小麦粉シャツはどうなんです」
「部屋着なんだよ」
まあ、この後を考えれば確実に外してる自信がある。カップルだったら破局一歩手前かもしれない。
だが俺たちである。
ムードを盛り上げる気もいわれもない。
格好つけたがりのスカした眼鏡にはわからんだろうがな。
……いいですよもう。シャワー借りますね」
「汚すなよ」
返事すらなく風呂場へ引っ込む。ややあってからシャワーの音がした。
俺は棚から使いかけのローションとゴムを取り出し、ベッドサイドに投げた。ローションは足りるか微妙だが、まあなんとかなるだろう。
ベッドに横になり、天井を見上げる。
今日の行為で、きっとシーツは汚れるのだろう。明日の天気はどうだったか。まあ悪くても全部乾燥機にかければいいか。仕事はオフにしよう。怠惰に過ごしてやる。三馬鹿から鬼電されたら面倒だな。特に城ヶ峰。それからそれから。
連鎖的に思考し、シャワーの砂嵐のような音も相まって意識が徐々に沈んでいく。
手放す寸前、ふ、と顔に影が下りた。逆光で顔なんて見えなかったが、わずかに残る香水に逆立った警戒心がゆるゆると収まっていく。
「ヤシロさん、寝てます?」
……寝てない」
「半分寝てるじゃないですか」
「寝てねえって」
「じゃあ今日はその体勢でやるんですか?」
仰向けで両腕は明かりを避けるように眼前まであげられている。つまり体は完全に無防備な状態。
性癖最低男にとって、カモがねぎを背負ってきた
都合がいいエサ。
…………やだ」
俺は枕を抱えたまま体を反転させる。イシノオに背を見せるなんて普段はあり得ないが、このときだけは例外だ。なにせ向かい合ってことに及ぶなんて、天地がひっくり返ってもいやすぎる。
俺たちはそういう関係ではない。