鯖男
2026-04-10 12:09:00
1060文字
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ましろのはこ

『魍魎の匣』オマージュの薬指親指ホンルとランプグレゴールのはなし。グレゴールほぼしんでる。

病的に白い部屋の中央に、簡素なベッドがあった。
周囲には様々な形状をしたメスや、医療器具が用意された器械台。そして僅かに反応を示すバイタルサインモニタのみ。そのほかの雑多はすべて排除された無菌室だ。
頭上からの無影灯が、寝かされている人物を照らす。外傷はそれほどなく、バイタルモニタから心拍も辛うじて正常ライン。治療を行えば、すぐにでも目を覚ますだろう。
金属の軋む音が、ベッドへ近づく。白磁のような肌に異様に輝く青い片目。絹糸のような黒髪も相まって作り物じみた風貌だ。だからだろうか、角度や距離を変える度に男にも女にも見えた。
彼は無影灯を遮断し、覆い被さるように患者を覗き込む。
やつれた顔。染みついた隈。頬に指先を這わせ、水分量を検知する。案の定、規定には達しておらす、乾燥した肌が数値化された。
この時点で彼の作品には不釣り合いな材料だ。
だが彼は、患者の自身に対する理解と拒絶と憎悪のコントラストに感銘を受けた。
彼のような感情を持つ材料は、久しく見ていない。
患者のヒビの入った眼鏡を取り外す。遮る物がなくなった患者の顔は、死人同然の白い顔をしていた。
くしくも彼──薬指親方に位置するホンルと同様の作り物じみた肌だった。


病的に白い部屋の中央に、簡素なベッドがあった。
ベッドには真白の匣が置いてある。
大人が抱えられるほどの大きさで、据わっているときに膝に置くのが一番座りがいい。
ホンルは肉片がついた作品を壁に立てかけ、ベッドに座った。すると軋むスプリングで傾いたベッドに、白い匣はバランスを崩す。ホンルはそれを衝撃を殺しながら両手でしっかり受け止め、安堵の息を吐いた。
普段のホンルから考えられない感情の揺れだ。
「危なかったですね」
柔らかな視線は真っ直ぐ匣へ向けられる。そしてゆっくりとその匣を開けた。
中にはみっちりと患者が詰まっていた。
正確には、患者の胸から上部分のみだ。
だというのに、視覚では判断できないほど弱々しく胸が動いている。
生きている。
生きているのか。
ホンルはあえて患者、否。作品の隈や乾燥した肌に手を加えなかった。それは作品を構成する素材だからだ。何かひとつでも欠けてしまえば、ホンルが感銘を受けた作品ではなくなってしまう。
「ティビアには劣りますが、我ながらそれに迫るものを作り上げたと思います」
ホンルの作り物の指先が、作品の頬を撫でる。だというのに、作品の肌の質感が伝わってくる気がした。
作品の口が薄く開く。
ほう、とただそれだけ漏らし、口を閉ざした。