鯖男
2026-02-16 20:02:24
3077文字
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勇クズ小説2

勇者4人がメダリオンやって「知り合いを動物に例えたら何か?」という雑談してエグい罰ゲームが勃発するはなし

バー《グーニーズ》
月曜夜は勇者だけの憩いの場だ。
俺は胸ポケットに潜ませた勇者の魂を撫でながら、グーニーズの扉を開けた。
落ち着いた暖色の灯り。壁に染みついた油ものの染み。壁を彩る賞金首の魔王の写真。いつもと変わらない店だ。
席は一角を除いてすべて空いている。その一角こそ、今夜の戦場だ。
「遅えぞ、ヤシロ」
ジョーが笑う。随分と調子が良さそうだ。今週公開されたキングロブのデッキでうまくいったか?
「これでも巻いて来たんだ。凄腕だから仕事がひっきりなしでな」
「言ってろ、ボケが」
「じゃあこの試合が終わったら四人でやりましょうか」
イシノオは手札を出しながら言う。その手札によってジョーの壁は一掃された。兵がいなくなった城など落とし放題。人真似デッキにはふさわしい最期だろう。
「すぐ終わらせるから待ってろよ」
イシノオが手札を切ったのは、次順のマルタの兵が整ったからか。運要素が大きいマルタのデッキは、大勝利が大敗北の二つしかない。今回は前者だった。
カウンターでマスターが文庫本から顔を上げる。客商売にあるまじき怠惰だ。
「ヤシロ、お前は冷やかしか。それとも客か」
「客だよ、エド。ビール!」
五百円をカウンターに叩きつけ、同時に出てきたビールを流し込む。景気づけだ。喉元を通る炭酸の刺激が、戦いへの高揚を勢いづける。
「今宵の戦場で誰かが死ぬかもなあ!」
胸ポケットから取り出したデッキを掲げ、三人の顔を見やる。誰ひとりとて負ける気のない不敵な
笑みを浮かべていた。
大股で戦場となったテーブルへ出向く。そして荒々しく椅子に座り、新生山岳デッキをシャッフルする。

時計の針は刻々と進む。店の閉店まで約二時間。何試合かするならそろそろ勝敗を決したいところだが……
「知り合いを動物に例えたら何ですか?」
不意に手札を出しながらマルタが呟いた。
「なんだあ、いきなり」
「今思い出したんだけど、拾った雑誌にそういうのあってさ。話のきっかけになるみたいだよ」
勇者とは並行思考が大切である。だからではないが、ゲーム最中にこうした雑談は常だった。
「つまんねえこと特集してんだな」
ジョーは鼻で笑いながら、兵糧を蓄える。
「スムーズに雑談できるのは良いことだと思いますけどね」
「お前の趣味的に連れ込みやすいからだろ。頼むから黙っててくれ」
イシノオは斥候を出す。マルタは柵を増設しようとしているが、カードの引きが悪く苦い顔だ。
出された手札からどんな戦略で来るのか思考しながら、俺は軽口を返した。いや、イシノオには本気の返答だ。あいつには喋らせないほうがいい。
水滴がついてぬるくなったビールを一口。アルコールの苦みが、脳をクリアにしていく。
「イシノオは狐だと思うね」
「そうですか?」
「ああ。陰険そうなところがな」
日本古来の白狐や九尾の狐なんて上等なものじゃない。悪知恵働く野狐だ。
「マルタは狸だな」
「マヌケなところか」
狸は死んだふりをしてやりすごすと聞いたことがある。明らかに死ぬような怪我をしていないにも関わらずに、だ。そのマヌケさはマルタに共通する。
「おいしいよね、狸鍋」
「食うなよ」
……確か狸も雑食だったな。
こんな間の抜けたはなしをしているのに、ゲームは佳境を迎えている。どの陣営もあと一歩で出撃の準備が完了する。ポーカーフェイスが得意なイシノオはともかく、ジョーやマルタが打って出ていない。つまりそれを決めるカードは、まだ誰も引いていない、はずだ。
俺は山札からカードを引く。舌打ちをし、ターンを回した。
「ジョーはチンパンジーか」
「一番人間に近いですね」
「手先が器用なんだよね」
苛立ちまじりにジョーを揶揄すれば、それに乗ってくるイシノオとマルタ。人を小馬鹿にする阿吽の呼吸だ。しかしジョーの予測していたようで、「抜かせ」と一蹴。山札から一枚引き、手札にメンチ切る始末だ。
「ヤシロさんは……犬、ですか」
すかしたイシノオは、安物のワインで口の滑りをよくしてから戯言をのたまった。これには俺も黙って聞き流せない。
「はあ? どこに目つけてやがる。俺はもっとこう……クールな狼とかだろ」
「寝言か」
「犬も狼も似てるじゃないか」
「ぜんっぜん違え!」
外野のヤジに中指を突き立てる。最後のビールを流し込み、勢いのままジョッキをテーブルへ叩きつけた。大きな音を立てて威嚇するチンピラのやり方だ。だがイシノオの薄ら笑みが崩れることはない。
「だって好きな人には距離近いでしょ。尻尾があったらちぎれちゃうんじゃないかな。嫌いな人には威嚇から入りますし」
「誰だってそうだろ」
「ぼくは違いますよ」
「お前は別口」
きっぱりと言い放ってやる。ついでに指さしも。
断末魔の収集が趣味の元殺人鬼が距離詰めてきたら、好意じゃなくて殺意だろ。
「でもまあ……こいつが犬ねえ……
「おれは猫が好きだけど犬も可愛いよね」
「可愛いかねえよ。畜生だぞ」
そもそも動物は好きでも嫌いでもない。小さければ潰して殺しそうだし、大きければ殺し方を考えてしまう。人殺しが生業の勇者として、典型的な職業病だ。
「でも犬だったら首輪必要ですよね。どうです? ぼく、《ガレージ》から取ってきますからつけてみません?」
「つけねえ! ってか首輪持ってるってなんだよ何に使う気なんだよいややっぱいいわ聞きたくねえ!」
《ガレージ》は様々な凶器を扱う勇者の武器庫だというのに、イシノオは武器の他に自身の趣味に使う女性ものの服やアクセサリーを収納している。
俺たちは深く関わろうとしなかった。絶対ろくなものではない。
だというのにこの性悪、自分からパンドラの箱開けようとしてきやがった!
「えー、似合うのに」
「じゃあメダリオンで決めればいいじゃないか」
「あ、ばか」
ジョーがマルタの口を塞ぐが、もう遅い。
マルタの提案に、俺の闘争心は火がついた。
メダリオン。勇者にとっての必修科目。
現在進行形のゲームでは、俺の山岳歩兵の動きは鈍いが、カードの引きが良ければ速攻が決められる。しかも今回のデッキは調整済みであり、以前よりもスピードが増している。
イシノオを睨み付ければ、手札で口元を隠しながら大げさに首を竦める。
「いいんですか? じゃあ勝つごとに一枚ずつ指定した服着てくださいよ」
……ちなみにどんなのだよ?」
怖いもの知らずの単細胞であるジョーが訪ねた。
「えー、悩むなあ。首輪はマストでセーラーとかいきます?」
「嘘だろ……キモ」
成人男性の女装とか、確実な事故が起こる。もはやテロだろ。殺人罪の上乗せをするな。
「やっぱり犬耳メイドにしましょうか」
「ヤシロの暴言のせいで笑えないのきたぞ。最初に暴言で返すの直せよ」
「俺の暴言は挨拶みたいなもんだろ」
「写真撮って《グーニーズ》に貼りましょうね」
「うわうわうわ。馬鹿じゃん」
背筋に悪寒が走り、身震いをした。加減を知らない愚か者が、ふざけたことを言い出したぞ。
「大丈夫だよ、勝てばいいんだ」
狸顔のマルタの励ましに、俺は拳を突き上げる。マヌケと言ったが、よくよくみれば朗らかと言える顔だ。
「そうだ。勝てばこんな戯言、なかったことにできる!」
「ヤシロがイシノオにメダリオンで勝つイメージがねえ」
「だから想像力のないチンパンジーなんだよボケ。みてろ俺の山岳デッキでイシノオの性悪デッキを消し飛ばしてくれる!」
「マスター、写真貼るスペースとかどこかあります?」
「聞け!」