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鯖男
2026-01-31 16:30:48
2539文字
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剥き出しの刀 リライト
以前書いたものの「視点がブレまくり」「説明多すぎ(描写しろ)」って指摘されたことを直したやつ
1回目リライト
裏路地を歩いて行く。
肩に掛けた浮雲の羽織を揺らしながら、気だるげに。
羽織は的だ。黒雲会の象徴たる浮雲は、抗争相手にとっては怨敵に等しい。絶え間なく強襲を掛けられれば、退屈などどこかへ吹き飛ぶだろう。
裏路地は相変わらず湿ったニオイと澱んだ空気に満ちていた。そしてその日は、嗅ぎ慣れた血腥さも存在している。
壁にもたれかかる黒衣の死体があった。胸や頭に咲く赤い華は、白い月明かりの下でよくわかる。乱立する雑居ビルには、深紅の狂い咲きが残される。無造作に転がる死体は、その養分と成り果てていた。
雑居ビルに挟まれた大通り。少し視線を滑らせれば死体が転がっている中。
ひとりの男が立っていた。
男の周囲には、自身と同じ服装の者たちが絶命していた。遠目でもわかる見事な一線。
く、と喉が鳴る。小競り合いじみた抗争にはうんざりしていたときだった。
指先が柄頭に触れた。冷え切っていたのは柄頭の金属か、己の指先か。それすらも心地いい。
男は笠を深く被り、表情は見て取れない。ただ笠の隙間からは、蒼い眼光が漏れ出ていた。今夜の月のように冴え冴えと。澄み切った白刃そのものがそこにいた。
今までの退屈は、この瞬間のためにあったのか。
どこかで犬の卑しい呼吸音が聞こえた。しかしよくよく聞いてみれば、それは自身の口から漏れ出たものと気づく。腔内で溢れる唾液で喉を鳴らし、目の前の強敵を見据えた。
男も自身を認識し、刀を抜く。
抜かれた刀は、幾度人を斬り殺したと思えぬほど、清廉な輝きを湛えていた。わずかに残る一筋の鮮血すら、汚らわしさは微塵もない。
応えるようにこちらも刀を抜く。浮雲走る刀身は、鈍く自身の口元を映し出す。ひくつきながら笑みを浮かべるそれは、想像できなかった幸せそのもの。最高級の美酒とて、今夜の絶頂には届かない。
互いに一歩踏み出した。刀の射程範囲は約車一台分。否。それは有象無象にとってだ。目の前の剣鬼には通じない常識。
足音が交わる距離まで近づき、同時に止まった。
一触即発。何かきっかけがあれば、崩壊は免れない絶妙な均衡。
「──我が名はムルソー」
傘の男──剣契の頭目だった男が名乗りを上げた。
もはや壊滅した剣契であり、頭目などという役職は地に墜ちたというのに。
「──我が名はグレゴール」
黒雲会の副組長だった自身も名乗りを上げる。
こちらも壊滅した黒雲会であり、副組長などという役職は戦禍に呑まれた。
剣士の名乗りは、名誉と誇りの主張だ。
もしムルソーという男が、自身との一戦に名誉と誇りを見出したというのなら、その思いに応えなければ剣士とは名乗れない。
組織はなく。
肩書きもない。
そこにいるのは剥き出しの刀。
「いざ──」
「尋常に──」
張り詰めた糸が切れ、一線が交差する。
2回目リライト
裏路地を歩いて行く。
肩に掛けた浮雲の羽織を揺らしながら、気だるげに。
羽織は的だ。黒雲会の象徴たる浮雲は、抗争相手にとっては怨敵に等しい。絶え間なく強襲を掛けられれば、退屈などどこかへ吹き飛ぶだろう。
裏路地は相変わらず湿ったニオイと澱んだ空気に満ちていた。そしてその日は、嗅ぎ慣れた血腥さも存在している。
壁にもたれかかる黒衣の死体があった。胸や頭に残された死の線は、白い月明かりの下ではよくわかる。
乱立する雑居ビルの一角。鮮やかな切り口の瓦礫とこびりつく肉片。無造作に転がる死体は、どれも身体の一部を失った肉袋と化していた。
雑居ビルに挟まれた大通り。少し視線を滑らせれば死体が転がっている中、ひとりの男が立っていた。
男の周囲には、己と同じ服装の者たちが絶命していた。遠目でもわかる見事な太刀筋。先刻の死の線。
く、と喉が鳴る。小競り合いじみた抗争にはうんざりしていたときだった。
指先が柄頭に触れた。冷え切っていたのは柄頭の金属か、己の指先か。それすらも心地いい。
男は笠を深く被り、表情は見て取れない。ただ笠の隙間からは、蒼い眼光が漏れ出ていた。今夜の月のように冴え冴えと。澄み切った白刃そのものがそこにいた。
今までの退屈は、この瞬間のためにあったのか。
どこかで犬の卑しい呼吸音が聞こえた。しかしよくよく聞いてみれば、それは自身の口から漏れ出たものと気づいた。腔内で溢れる唾液で喉を鳴らし、目の前の強敵を見定める。
男も目の前の敵を認識し、刀を抜いた。
抜かれた刀は、幾度人を斬り殺したと思えぬほど、清廉な輝きを湛えていた。わずかに残る一筋の鮮血すら、汚らわしさは微塵もない。
応えるようにこちらも刀を抜く。浮雲走る刀身は、鈍く歪んだ口元を映し出す。ひくつきながら笑みを浮かべるそれは、想像できなかった幸せそのもの。最高級の美酒とて、今夜の絶頂には届かない。
互いに一歩踏み出した。多量の血を吸い上げた地面は、怨念のように足下に絡みつく。だが二人にとっては些事でしかない。その程度でもたつく繊細さなど、塵芥となって霧散した。
刀の射程範囲は約車一台分。否。それは有象無象にとってだ。目の前の剣鬼には通じない常識。
足音が交わる距離まで近づき、同時に止まった。
一触即発。何かきっかけがあれば、崩壊は免れない絶妙な均衡。
「──我が名はムルソー」
傘の男──剣契の頭目だった男が名乗りを上げた。
もはや壊滅した剣契であり、頭目などという役職は地に墜ちたというのに。
「──我が名はグレゴール」
黒雲会の副組長だった自身も名乗りを上げる。
こちらも壊滅した黒雲会であり、副組長などという役職は戦禍に呑まれた。
剣士の名乗りは、名誉と誇りの主張だ。
もしムルソーという男が、この身との一戦に名誉と誇りを見出したというのなら、その思いに応えなければ剣士とは名乗れない。
心臓が激しく鼓動する。狭まった視界には、男しか映っていない。十分だ。滲む汗で手と柄が一体化した錯覚に落ちる。それでいい。これより相対するのは、剥き出しの刀身。
刻め。
誰に賞賛されるでもない無銘だとしても。
組織はなく。
肩書きもない。
そこにいるのは剥き出しの刀。
「いざ──」
「尋常に──」
張り詰めた糸が切れ、白黒の殺意が相まみえる。
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