鯖男
2025-06-06 22:26:16
1669文字
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現パロレイチォ

チューっぽいものをしたのでワンクッションとしてぷらいべったーにしました

時計の針がてっぺんを過ぎ、一回りした頃。音もなくチォウは起き上がる。
まだ新聞配達も来ていない真夜中である。夜勤等はバオユを引き取ったときに、すべて断るようになっていた。つまり起きる意味はない。
意味はないのだがチォウは起き上がり、まっすぐ玄関へと向かい、キーロックを外した。
躊躇うことなく開かれた玄関。そこには今まさにインターフォンを押そうと指を突き出した
レイホンがいた。
「お~~~! 起きとったんか!」
「煩い」
真夜中、である。
周りの入居者は『訳あり』が多く、多少騒いだところで苦情など入れないが、チォウ自身が騒音を厭う。そうでないとしても部屋には育ち盛りの子どもが寝ているのだ。寝起きということもあり、機嫌は急降下していく。
「お前が起きとったんなら丁度ええわ! 酒飲みに行かん? 奢ったるから!」
「飲まぬ。帰れ」
そもそも寝ている子どもを置いて、飲みに行くはずもなく。
そこでようやく目の前の男の違和感に気づいた。ニオイと言ってもいいだろう。
レイホンは常に葉巻を常備しており、チォウにとってウッド系の香りは目の前の男を思い出すものとなっていた。
が、今は微塵もなく。代わりに強いアルコール臭を纏っていた。アルコール臭の出所は危うげに振っている缶だろう。ただ度数の高い安酒だ。上等なものを好むレイホンの趣味ではない。
……癇癪か」
ため息はいい年をして癇癪を起こしているレイホンにか。それともその癇癪に付き合わされている自身にか。
そして自身の臓腑に渦巻く処理しきれない感情を『癇癪』と一刀両断されたレイホンは、安酒を煽り、口角泡を飛ばす。安いアルコール臭は、ただ酔うだけに摂取されたものだと簡単に理解できた。
「癇癪!? 癇癪って言ったか!? でも理由を聞きゃお前でも一言二言言いたくなるわ! ええか! 俺っちは強え奴が好きや! 血湧き肉躍るあの瞬間が一等好きや! 今回の『お客さん』はそりゃあもう最高やった! 腕も頭もキレる! 俺っちもアガって徐々にアクセル踏んでなあ! もう脳汁びしゃびしゃや! でもなあ!」
レイホンはチォウの寝間着を両手で引っ掴み、鼻先が触れるほどに近づいた。
空気の澄み切った深夜には、缶の落下音はひどく響く。だがそれを指摘する者は誰もいない。「……ちぃとヘマしただけでケツまくって逃げよった……
話の人物はレイホンの言うとおり、武も知も優れていたのだろう。が、優れた者によくある、一度の失敗ですべてを投げ出す悪癖があったのか。
レイホンが求めるのはお上品な武芸ではない。あるものすべて利用した泥臭く野性的な殺し合いである。
結局のところ、レイホンが勝手に相手を見込んで、勝手に裏切られただけだった。
チォウが『癇癪』と称するのも頷けよう。
「そんなんあるかあ……? この滾った熱と興奮どこに持っていけばええんやあ……?」
すん、と鼻を啜る。いい歳した大人のぐしゃぐしゃの顔は、普通ならば居心地が悪くなる。
が、目の前にいるのはチォウである。レイホンがどんなにみっともなく泣き喚こうとも、評価を下げたりはしない。
元々まともな大人枠に入れていないからだ。
「レイホン」
「んやあ?──っ、」
レイホンが顔を上げた瞬間、安酒で灼かれた唇に冷たいものが充てられた。冷たくて柔らかい。そして熱い湿った肉が、レイホンの唇の縁を舐めとった。──冷たいものがチォウの唇で、熱い湿った肉が舌だとわかったのは、離れてから数秒後であった。
「黙ったな。俺は明日も早いので帰れ」
「え、お前、今、は、」
「癇癪を起こす子どもはショックを与えてやれば落ち着く」
そう言い残し、チォウはきびすを返した。ご丁寧に玄関に二重ロックとドアロックがかけられる。「もう出ない」との意思表示だろう。
あれだけ騒がしかったアパート前に、再び静寂が戻った。
レイホンは自身の唇に触れるも、喚きっぱなし最中の出来事だ。感触など覚えているはずもなく。何度も何度も唇に触れ、思い出せずに頭を抱えた。
「シラフの時にしてえや!」