鯖男
2025-03-24 22:19:53
1412文字
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頭目ム×剣契(予定)グ

頭目が腕を暴走させたグを制圧する話。この後恩返しのために剣契に入るグがいる(未実装のはなしです)

化物、と。
震える仲間の声で、ムルソーは改めてその化物の姿を見上げる。
裏路地の端の端。今はもう建物の様相を成していない瓦礫と、死にかけのネオンライトが点滅を繰り返す。忘れ去られた住居区であった。
瓦礫の上には化物が鎮座している。その様はまさに王と呼ぶに相応しい。
しかし極彩色のライトにて浮かび上がる表情は、王というよりも罪人だ。
悲惨で悲痛で──救いがない。
「やめろ……逃げて……逃げろ!!」
化物──正確には男の腕である。死神の鎌を連想させる命を刈り取る形。それが木々のように枝分かれし、四方八方に広がる。腕を抑えつける男など嘲笑いながら、目の前の生命に飛びついた。
あ、と思ったときには既に遅い。虚空を見つめたまま、頭は貫かれ、そのまま二つへ切り裂かれた。夜色の装束はすぐさま黒く染め上げられ、溢れた鮮血は地面すらも染め上げた。やがて立っていられなくなった身体は、ゆるぅりと地面へ臥すのだった。
一人、二人、三人。
初撃にて三人の命が消えた。辛うじて逃げおおせた者は、一歩遅ければ死体は自分だったかもしれない、と滲む冷や汗を抑えきれない。紙一重だったのだ。
仲間を率いる剣契の頭目たるムルソーは、逃げるだけで精一杯だった者と異なり、既に戦闘態勢へと入っていた。構えられた刀はぬるりと濡れており、化物迎撃の成功の証でもある。指で白刃を撫でる。感触から血液でないことがわかる。
幾千幾万斬り伏せてきたのだ。分からいでか。
……全員、下がれ」
「頭目!」
殺手たる部下の驚愕は計り知れない。
むろん頭目が負けるなど万に一つもないと信用しているものの、目の前の化物は規定外である。剣契が斬った張ったが通じるか否か。
もしここで頭目を失うようなことがあれば。
心中で芽吹く不安は、たちまち部下たちの心に茨を巻いていく。
「下がれ」
………っ」
一人が後ずさった。それを皮切りに一人、また一人とその場を後にする。
そうして化物と剣豪が向かい合う。
「あんたも、逃げろよ……!」
「貴様を残したらのちの憂いとなろう」
ムルソーは刀を構え、迎撃態勢へ入る。瞬間、密度を増した空気が、男の肺を圧迫する。
もはや何を言っても傘の男を退かないだろう。
「ああ、くそ、くそくそ! じゃあ斬ってくれ! 俺の腕を斬ってくれ!」
理解した男は頭を掻きむしり、みっともなく泣きわめいた。
死ぬまで、と。
声にならない悲鳴にムルソーは「あいわかった」と一言了承する。

どれほど経ったのか。
周囲には体液をまき散らしながら、何十何百もの『腕』が散らばっていた。
あの悍ましい腕は再生したのだ。
何度も何度も。それこそ気が狂うほどに。
しかしムルソーは同様一つせず、男の腕を切り落とし続けた。
やがて再生速度も緩やかとなり、最期の灯火とばかりに一直線にムルソーの喉元に向かい、息絶えたのだった。
男は隻腕のバランスの悪い状態で、瓦礫から転がりおちる。そして緩慢に身体を起こし、
虚ろなまま腕の付け根に触れた。
「俺の、腕……もう、生えてこない……?」
「断言はできない。私はただ斬り伏せたのみ」
ああ。それは感嘆だったのか歓喜だったのか。男は確かめるように何度も腕の付け根に触れ、嗚咽を漏らした。
「ありがとう、ございます……頭目殿……!」
男は地面に頭を擦りつけ、溢れかえる感謝の念を告げる。
本日をもって化物は打ち倒されたのであった。