鯖男
2024-12-16 22:30:02
1406文字
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神父🪲が壊れた話2

前回とは別ルート。夢の世界に取り残された神父🪲(男と少女のモブがいます)

満面の笑みを湛えた男がいた。
男と手を繋いだ少女がいた。
二人は世界から忘れ去られたかのように、静寂に包まれた聖堂の前に立っていた。
少女の表情はうっすらとこわばっていた。男は少女の緊張を解すように、細い髪を梳きながら頭を撫でる。低いながらも優しい体温を感じ、少女のこわばりは徐々にではあるが解れていく。
「いいかい。この扉を抜けたらこれだけは守るんだよ」
決してこれから起こることに何も反応しないように。
少女は意味が分からず小首を傾げる。だが男は重ねて説明するようなことはしなかった。自身が眷属に選んだ少女は幼いとはいえ、愚鈍ではない。
聖堂の中は日中の明かりが差し込んでいるというのに、どこか暗く、もの悲しい。聖堂の外から受けた印象が中にも適応されているように思えた。
男が周囲を見回すと、ちょうど告解室から人影を見つける。
「グレゴール様。お久しぶりです」
「あ……ああ、どうした……ってその子は?」
グレゴールと呼ばれた神父は、赤い双眸を少女へ向ける。そして少女の赤い双眸を見て、納得した声を出した。
「眷属をつくったのか」
「はい。私の子供です。すでにドンキホーテ様へ拝謁は済んでおります」
「そうか……そうか……
不格好な笑みを浮かべ、グレゴールは何度も頷いた。心に浮かぶのは新たな家族が増えたことへの喜びか。
「しかし父上様は本当に神出鬼没だな。さっきまでここにいたのに、そっちに行って眷属の紹介をされていたとは!」
「ええ、はい」
おや、と少女は親となった男を見上げる。男の口元がひくひくと痙攣しているのが分かった。だが指摘などはしない。少女は男の言葉を覚えていたからだ。

決してこれから起こることに何も反応しないように。

少女はグレゴールを見やる。不格好な笑みだが、それは表情の使い方に慣れていないだけのように思えた。彼からすれば満面の笑みで、男に家族ができたことを心から喜んでいるのだろう。
「あ、父上様、いらしたのですか。まったくもう……せわしない方」
グレゴールは聖堂の入り口を見やる。呆れた様子だが、どこか語尾が跳ねており、先ほどまでなりを潜めていた幼さが顔を出していた。
少女もグレゴール同様に入り口を見やる。そして口を開き、ゆっくりと閉じた。少女は愚鈍ではなかった故に。
入り口には誰もいなかった。
だがグレゴールはあたかもそこには血鬼の王、ラマンチャランドの主であるドンキホーテがいるように振る舞ったのだ。
「貴方は以前から変わりませんね。好奇心の赴くままにあちらこちらと駆け回る……ロージャ様に言い訳するのは俺なんですよ。なんて。わかっています。俺からうまく言っておきますよ」
まるでできの悪い演劇を観ているようだった。
あの地獄から抜け出した血鬼にとっては、罪を突きつけられるというべきか。
男の口元はすでに笑みは消えていた。

グレゴールは壊れたのだ。
父親の無謀で荒唐無稽な夢を、家族の中で一番応援していたのはグレゴールだった。
できないかもしれない。だがもしできたら……
彼もまた夢をみていたのだ。
そして夢と一緒に父親へ反旗を翻す。
夢はどす黒い杭へと変貌し、父親へ突き立てる。
その頃からグレゴールは夢の世界へ取り残されたのだろう。
「父上様……どうかその夢叶えてください。俺は願っております」
グレゴールは熱を帯びた声で、虚空に向かってそう言った。