鯖男
2024-12-15 22:41:11
1065文字
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神父🪲が壊れた話

神父🪲が壊れて偶像崇拝(マリア像)になったはなし

夜明けは穏やかに訪れる。
白い日差しは木々を照らし、夜露に濡れた葉を色濃く映し出していた。
建物も同様に。奇抜な色彩の外壁のアトラクションや、遊園地の見所であろう巨大観覧車。ポップコーン売りのゴンドラに、すべてのネオンが消灯しているフロートなど、ありとあらゆるものが朝を迎えるのだ。
そして遊園地を闊歩する血袋も例外ではない。
ありとあらゆるものが朝を迎えるのだから。

華やかでおぞましい広場から少し離れた日陰。主張もせず、ひっそりと慎ましやかに聖堂はあった。
遊園地には不釣り合いなそれ。そのちぐはぐさが、血鬼が経営していたラマンチャランドに相応しかったのかもしれない。
雑草の中に埋まった石畳を渡る音がする。こんなへんぴな場所に来る変わり者など、三人ほどしかいないはずだった。来客はその三人のうちの一人である。
日の光をたっぷりと浴びた金糸は、歩くたびに様々な角度で輝きを見せる。そして髪の隙間から覗く赤く濡れた双眸は、顔の造形とは異なり随分と大人びていた。否。老獪の色を瞬かせていた。
彼女は聖堂の扉を押し開ける。手入れが行き届いていない扉は、何度も引っかかりを見せながらも、ゆっくりと開いていった。
聖堂には一人の男がいた。
誰もいない長椅子を前に、講壇に立っていた。
「グレゴール」
彼女は男の名を呼ぶ。男は穏やかな微笑を浮かべるだけだった。瞳はあるはずなのに、がらんどうとしか思えない。グレゴールは何も見ていなかった。
グレゴールは壊れていた。
上位眷属による吸血の禁止。血の渇望。狂っていく家族に気休めしか言えない無力感。
グレゴールの気質もあるだろう。男は家族の中で、上位眷属である父親の夢を眩しく見ていたから。
結局のところ、夢は破綻し、父親は家族全員で殺し、人間を余すところなく喰い煽った。
中でもグレゴールの『食事』は下位眷属には見せられないほどに荒々しく、人間は血袋になる前に肉片と化していた。
血液を貪ったグレゴールは理性を取り戻した瞬間、すべての血液を吐き、許しを、祈りを、罰を請う。
誰に請うているのか。上位眷属の彼女たちにはわからなかった。
ただ言えるのはグレゴールは壊れたが、血鬼達にとって平和が戻ったということだ。
壊れたグレゴールはただ穏やかに微笑を浮かべ、こくこくと頷くお人形である。
告解室は開いている。グレゴールは何も見ず、何も聞いていないとしても、家族にとってグレゴールに相談することが救いになっているのだろう。
それはまるで、聖堂に飾られたマリア像のようなものなのだろうか。