鯖男
2024-12-12 22:15:25
1398文字
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神父🪲の話

神父が元気に血を飲んでるところを血鬼🎠🪓👢が眺めてる

その男は常に血のにおいを纏っていた。
血鬼である我々にとっては普通である。
だが、『現在の我々』にとっては異質であった。
「──神父よ」
……ああ……サンチョ様……いかがされましたか」
神父は告解室前の聖堂にてうずくまっていた。
窓から差し込む月明かりに照らされた神父の背。そこに無数の鞭打ちの痕が刻まれている。周囲に飛び散った鮮血は、深紅のカーペットのおかげで目立つことはないだろう。恐らく神父はそれを見越して深紅にしたのか。
上位眷属である私の来訪に、神父はゆっくりと身体を起こし、顔を向けた。
深く窪んだ双眸。老人のようにパサついた肌と髪。引きつった笑みは痙攣しており、限界を感じさせる。
ドゥルシネーアの眷属なりたての頃と比べると、明らかに『壊れ』かかっていた。
「いや……家族の相談を一人に押しつけるのも悪いだろう。半分は私が受け持とう」
「サンチョ様が?」
きょとん、と大きな目をくりくりとさせる。幼子のように。
血みどろの背のままの幼げな表情。そのちぐはぐはひどく不気味で、精神の乖離を思わせるには十分だった。

「──血だ」
結論から言うと、我々は父上に反旗を翻した。
否。父上が我々にしたことをやり返しているだけだ。
憤怒と怨嗟と哀願を込めながら、我々は父上に杭を打ち込む。
狂ったように打ち込む者。恐れながらも打ち込む者。
その中で神父は最後まで踏ん切りがつかず、滂沱の中、理髪師の号令と共に打ち込んだ。
父上は倒れ、ラマンチャランドは楽しい遊園地から、血鬼の住処と成り果てたのだ。
そうなれば牙狩りが動くのは自明。
弱り切っていた我々ならば、簡単に退治されたであろう。
だが。
枷が外れた血鬼に勝てる牙狩りはいなかった。
狂乱となるパレード広場。毒々しいネオンに照らされたフロート。周囲を取り囲む血鬼と血袋。転がる死体は食い残しであり、しばらくすれば血袋となろう。
そして神父の目の前には、虫の息である牙狩りが横たわっていた。
「神父よ。飲むが良い」
「っ! しかし、サンチョ様……!」
「お前が勝ち取ったものだ」
そう。最後まで父上の教えを守ろうとした家族だ。
父上の教えを守るために、自身を削ってきた家族だ。
お前が得るべき報酬だ。
「血、だ……血、血……
夢遊病のようなおぼつかない足取りのまま、牙狩りの元へ歩み寄り、柔らかな肌を指の腹で撫でる。牙狩りは短く悲鳴をあげるが、神父の耳には届いていないだろう。
なにせ彼の目には、もう血の色以外写っていない。

作法などあったものではない。
どこを噛めば効率よく血が吸える、や美味しい部分はどこだ、などドゥルシネーアから教わっているだろうに。
そんなことお構いなしに、神父は獲物を食い散らかしていく。
溢れる涎と血を一緒にすするせいで、みっともない音が周囲に響く。やたらめったらいろんな箇所を噛むせいで肉はボロボロで汚らしい。指についた血すらも惜しく、意地汚くしゃぶり出す。
それでも。
「あ、ああ! ああ! なんて……甘美な! こんな美味しいものがこの世に存在していたのか!? んぐ、っああ……!」
土色だった頬が紅潮していく。乾ききった肌や髪に潤いが戻っていく。潤んだ瞳は何百年ぶりに摂取した血の味を反芻しているからか。
いつもの理髪師なら注意の一つでも飛びそうな蕩けた表情。
だが理髪師は何も言わなかった。