鯖男
2024-11-14 19:20:32
1721文字
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開演前の姉弟あれそれ

らまんちゃランド開演前の理髪師👢と神父🪲

ウーティスとグレゴールは同じ第三眷属である。
つまり序列は同じ。互いの命令を聞かなくてもいい立場である。
そのはずだった。
「グレゴール……私が何が言いたいかわかるか? わかるよな?」
方や仁王像も裸足で逃げ出す怒気を背負う女性。
方や細い身体をこれでもかと縮こませるように正座をする男性。
告解室の外にいるというのに、その雰囲気まさしく告解中。
ただし相手は神や神父ではなく、姉弟のような存在だった。
「貴様……また細くなったんじゃないか?」
「いいや……気のせいだろう」
「ラマンチャランドすべての血鬼の衣装を作っている私が見間違えるとでも?」
ウーティスはグレゴールの頭の先からつま先まで、舐めるように視線を滑らせていく。その視線には性的なものなど微塵も含まれていないというのに、グレゴールは居心地が悪そうに身じろぎした。
「立て」
本来ならば聞かなくてもいい命令である。序列は同じなのだから。
しかしグレゴールはウーティスの命令を聞かない、という選択肢を持ち合わせていなかった。勿論道理に合わないものならその限りではないが。
観念したようにその場に立つと、ウーティスの眼光が鋭くなる。
服はウーティス自ら縫製しているものだ。サイズもその時々で測り直し、ぴったりのものを作り出している自負がある。
だというのにグレゴールの服にはシワが目立っていた。座りっぱなしでも、姿勢が悪いわけでも、同じものを着用しているわけでもない。
……サイズが合ってないなあ?」
「ひ、」
「腰回りぃ!」
「ぎゃああ!」
ささくれだった仕事人の両手が、グレゴールの腰を鷲掴む。そうしてわかるグレゴールの腰の細さ。健康的ではない、病人のか弱さ。ウーティスが血鬼全盛期の力があれば、簡単にへし折れる砂糖菓子の如き弱い腰。
「なんだ、これは」
「腰です……
頭上から落とされる覇気に顔が上げられず、両手で顔を覆う。
羞恥ではない。この飢餓は父親の命を守っている証だから。
情けなさではない。自身の身体がどんなに劣ったところで、他の家族の評価には繋がらないから。
ではなにか。
恐れであった。
グレゴールはウーティスを恐れていた。
序列が同じなのだから、恐れる理由はないというのに。
ではなぜか。
ただ純粋にウーティスが怖かったのだ。
それは姉に怒られるのを怖がる弟のように。
「グレゴール!!」
「ごめんってば!」
「いいや怒ってない。怒ってないぞ。怒ったところでお前には響かないからな。自罰行為だって止めてないからな」
「それは──」
止められるはずがない。
血を求めるたび、罰を与えられない遠くにいる父親の代わりに罰せなければならないのだから。
ウーティスは小さなため息で、文句をすべて吐き出す。そして次にすべきことに着手した。
「よし、コルセットベルトをつけるぞ」
「なんて?」
「コルセットベルトは偉大だな。巻いて少し整えるだけでフォーマルになる。ラマンチャランドの雰囲気にも合っているだろ」
「いやなんて?」
「よし巻くぞ。歯を食いしばれ」
「衣装着るときの台詞じゃないなあ! いだだだだだ折れる!」
「馬鹿言うな。力加減は完璧だ」
「嘘だあ!」
小枝が折れるような音が時折混ざる悲鳴と共に、グレゴールの腰を彩るコルセットが巻かれていく。
それは編み上げ式のものだった。黒を基調としたコルセットは、グレゴールの衣装と馴染みがいい。そして一番の特徴は左の合わせが全面レースになっているところにある。男性にレースは使いどころが難しいが、馴染みのいい色かつ、少量ならば華やかさに一役買ってくれるのだ。
……ふむ。まあ見れる程度になったな」
「ひ、ひい……ひぃ……内臓出てないか?」
「私だぞ? 出すわけないだろ」
「さいですか……ああ、もう。どっと疲れた……
「そら、背筋を伸ばせ。第三眷属たるものがみっともない」
それなりの力で背筋を叩かれ前のめりになるも、倒れるような無様な真似はない。
わかっているからこそ、それなりの力で叩いたわけだが。
「いくぞグレゴール、開場だ」
「わかったよ」
門が開く。開場のファンファーレがランド全体にこだました。