鯖男
2024-11-12 22:29:13
1717文字
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両手を合わせた

モブ血鬼視点らまんちゃトリオ

両手を合わせ、懇願する。
赦されよ、赦されよ。
疑問を、祈りを、糾弾を。
赦されよ、赦されよ。
すべての感情がミキサーにかけられ、支離滅裂な鳴き声が告解室を満たしていく。
赦されよ、赦されよ。
そうして行き場のない感情を吐き出し終わると、男性の指にしては異様に細い枯れ枝が、頬を撫でた。仮面で隠れていない生の肌を。酷く冷たかった。ここの血鬼は皆同じだ。死体が動いている。
「大丈夫。お前は耐えられているよ。そうだ、血液バー一緒に食べないか? 味気なくても栄養はあるんだ。家族と一緒に食べたら足りない部分もきっと……
言われるがまま食べた血液バーは、いつもと変わらない段ボールの味がした。何も変わらない。
だとしても、「大丈夫」と神父様が言ってくれるのなら。
偽りの安らぎと知りながら、段ボールを食んだ。

両手を合わせ、懇願する。
赦されよ、赦されよ。
疑問を、祈りを、糾弾を。
赦されよ、赦されよ。
告解室にて神父様にしたように両手を合わせる。
告解室の外にて両手を合わせる。中に入ることは、できなかった。
「──グレゴール。ああ、グレゴール! お前はなぜそんな……!」
「だから……ノックしろ、と……
中から声がする。声の主は神父様と理髪師──ウーティス様であった。
血を吐くような耐える声。ウーティス様の呼びかけがなければ、神父様と気づかなかっただろう。それほどまでに普段の彼と結びつかなかったのだ。
「──もう耐えきれぬだろう」
「いや……いや、そんなことはない」
「自分の顔を見たことはあるか」
そこまで言うと、神父様は黙ってしまった。
しかしウーティス様の言ってることはわかる。
遊園地を運営しているときも、客と写真を撮るときも、パレードに参加してるときも、年がら年中四六時中目の前を行き来する『血液袋』に牙を立てる夢想をしている。さながら血液ノイローゼと言うべきか。そのときの自身の顔は想像したくない。獣のように飢え、理性を感じさせず、病人そのものだろうから。
「──我慢はよくないわ。でしょ?」
軽やかで穏やかな声だった。トゲがないまろいそれは、何の不自由もない上流階級の令嬢を連想させる。
だがこの声の主は違う。彼女は上流階級でもなければ、穏やかとは対局の存在であろう。
遊園地の花形。血鬼の姫。第二眷属のロージャ様。
ああ、ああ。第二眷属様と第三眷属様が集まっているなんて!
告解室の扉の前で、両手を強く強く合わせる。告解のためではない。恐れからの祈りのためであった。
「ほおら、グレゴール。グレッグ。淀んだ血液パックからだけど、腕に垂らせば今し方流したみたいでしょう?──舐めなさい」
血鬼は上位眷属には逆らえない。
物理的ではなく、精神的な絶対的な忌避感のためである。
第二眷属であるロージャ様の命に逆らえるはずもない。神父様は深い呼吸から徐々に浅い呼吸へと変化していく。その様はメッキが剥がれるように、血鬼の本性が現れたように聞こえた。
やがて浅い呼吸とともに犬が水を飲む音がする。這いつくばって浅い水桶に顔を突っ込んで舌で水を掬う犬。気が遠くなるほど昔に見た捨て犬を思い出させた。
「ぁ、は……血、ぁふ……あったかい、」
「あは、かわいい。ウー、見て。血液パックからなのにこんなに嬉しそうに」
「人間の血と間違えるほどに限界だったとはな……
熱に浮かされた神父様は、今まで聞いたことがないほどに満たされていた。
それを愛玩するロージャ様。それを哀れむウーティス様。
どちらが正しいかわからない。どちらも正しくないのかもしれない。
「そんなに一生懸命短い舌で舐めてかわいいね。唾液でキラキラしてる。いつも血が飲みたいって悶々としてるの? 欲を身体の中で溜め込んで神父様が勤まる?」
「あぅう……
「舌、コリコリしてるね。久しぶりの血に興奮してるの? ぬるぬるさせて悪い子」
「ろー、じゃ、さま。やめ……あ、ああ……ごようしゃ、ごようしゃを……
頭を下げて、懇願している神父様が思い浮かぶ。
その情景はとても淫靡で、そんな想像をしたことを申し訳なく思い、両手を合わせる。
赦されよ、赦されよ。