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鯖男
2024-09-05 15:44:48
1981文字
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モバイルバッテリーの憂鬱
W🌇と⚡️🪲
※特殊設定として⚡️🪲がEGOではなく『実際の職員を外装として、充電ができるAI』です。
プシュー、と空気の抜ける音と共に、列車の扉が開く。
中からは濁った空気に混じった生臭いニオイがまろび出る。数十人の清掃員がいるW社において、あり得ない異臭であった。
だが帽子を深く被った職員の表情は変わらない。澱みのない足取りで次々に列車へと乗り込んでいく。手には列車の『整理要員』が使うには場違いな武器が握られていた。
先頭に立つのはチーフであるウーティスである。彼女は前方後方両車両の扉を見やる。鼓膜を揺らすのは、地響きのような唸り声。
「
……
前方の方が数が多いな。イサンと私は前方へ。良秀は後方だ。数は少ないが、お前好みがいるだろう」
「了解」
「は。有り難いことだ」
愉悦に濡れた双眸は凶悪なまでに輝く。後方にいる『芸術作品』を思ってのことであろう。
「そしてムルソー、お前は良秀側の中間車両だ」
「了解した」
最後に搭乗したのは、一際大柄な男だった。この異様な空間であっても、彼の表情には動揺一つ窺えない。
現在より、列車内整理を開始する。
それは開始の合図というよりは、開戦の狼煙と言うべきものだった。
非常灯のみの灯火というものあるが、周囲は日が沈む寸前のように暗い。そんな中でも、天井までべったりとこびりついた血がよく見えた。天井だけではない。床も、壁も、座席も。車両全てが血で塗り潰されている。
ならばなぜ非常灯は無事なのか。非常灯には液体を弾く特殊な塗料が使用されているからだ。これは新人研修で説明される。
──まるでこういった事態が予測されていたかのように。
ここで勘の良い新人職員は全てを理解し精神を病むのだが、ムルソーという男は良くも悪くも適正があった。
「そういうもの」と割り切り、帯電した斧を乗客へ振り下ろす。頭らしき部分へ当たった刃先が突き刺さり、眼球が左右外側を向く。身体を支えきれなくなった脚は、膝から崩れ落ち、仰向けに倒れた。絶命である。
絶命のはずだった。
裂けた頭をぐらつかせながら、乗客は身体を起こす。零れた脳味噌など目もくれず、ムルソーを正面から見据えた。だが眼球が左右に向いているため、視線は合わない。その姿はなんとも間抜けで不気味である。
無限の時間に飽いた乗客は、他害に走り、自傷に走り、自壊に至る。
整理要員とは、自壊しても絶命できない乗客の肉塊を集め、無事座席に送り届けるのが職務であった。
四肢を潰しても脳天を割っても蠢く肉塊。無限に湧いてくる他の肉塊を的確に潰していく。その正確さたるや、3級職員に勝るとも劣らない。だが現実、ムルソーは2級で足踏みをしていた。
何故か。
瞬間、斧の帯電が弱っていく。
W社支給の武器は充電ありきのもので、充電しなければそこいらの武器とそう大差はない。ムルソーの戦術眼があって、充電が弱まっても乗客を抑え込むことができたのだ。しかしそうすると消耗する体力は大きくなる。
一瞬。
たった一瞬。肉塊から目を離した。
自損を恐れない肉塊は、腕の関節を外して鞭のようにしなる腕を伸ばした。生命力溢れるムルソーの首に巻き付くように。
だが腕は真っ黒に灼かれ、焦げたニオイを周囲に撒き散らした。
「──なあ、何回も言ったよな。『俺』を使えって」
空間から現れたのは、群青の制服に身を包んだ男だった。それだけでも異質だというのに、男の右腕には義腕と言うのも憚られる鋼鉄の百足が取り付けられていた。警戒音だろうか。百足はギチギチと歯を鳴らし、小さなスパークを発生させる。
「使う場面がなかった」
「ありましたけどぉ!?」
ぷい、とそっぽを向くムルソーの横腹を殴る男は、ため息一つでムルソーの行いをチャラにする。そして百足を呼びつけ、斧へ噛みつかせた。紫電は斧へと流れ、雄々しく帯電を繰り返すまで回復した。
「そーら、がんばれがんばれ」
「
……
感謝する」
振り上げた斧は、激しく帯電しながら肉塊にめり込んでいく。
両の指で数えられるほど前、実際の職員を外装として、充電ができるAIの作成に成功した。
開発者は『同じ人物が7日以上都市に存在してはならない』という頭のルールには接触しないと思ったが、万が一を考え、7日以上顕界ができないようにしたのだ。
作成の目的は職員の練度向上である。特に新人職員。以前のように使い捨てできればいいのだが、ロボトミー社が折れてから、経営が緩やかに下降の一途を辿っていた。
資金も人員も節約していく時代に突入したのだ。
「だからあ! モバイルバッテリーがあるのに使わないのなんなんだよ!」
「充電しなくても制圧できた」
「そうやって力押しで戦えちゃうから2級なんだよぼけ~~~~!」
W社の休憩室では、電気百足を宿したグレゴールAIの叫びが響き渡った。
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