鯖男
2024-05-13 17:58:21
1636文字
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軍人のニオイがするコード

ちょいちょい軍人を出してくれる🪲

裏路地の飲み屋にて。
ドラム缶をテーブルにグレゴール、ロージャ、ヒースクリフは立ち飲みをしていた。
良い具合に酔いが回ってきた頃、突然の参入者に三人は警戒態勢に入る。
その参入者とは事務所所属のフィクサーだった。名前を聞いてもあまり有名ではなく、三人は首を傾げる。だか本人はあまり気にしていないようで、気持ちいい笑い声を上げ、ビールジョッキはドラム缶へ置いた。
「裏路地での飲み屋での一期一会。旧友と出会えた奇跡にここのお代、奢るよ!」
「旧友?」
「といっても俺が一方的に知ってるだけかな。あんた、G社出身だろ」
……まあ、こんな腕付けてればわかるか」
「そんな悲観するなよ! その腕があったから俺たち再会できたのに!」
「喜んでるところ悪いけど、俺あんたのこと、よく覚えてなくて……
「グレッグの人の名前に対しての記憶力の悪さなんなんだろうね」
「老化じゃねえ?」
「いーのいーの、そんなこと! ほらほらかんぱ~い!」
「で、俺になんの用?」
「ちょっとした昔話がしたいだけ。勿論戦争の話じゃないぜ?」
「付き合ってた女の子とか?」
男はドラム缶にジョッキを叩きつける。派手な音と振動が周囲に広がった。
「おお。いいねえ! そういや軍でも二大美しい女軍人がいてねえ。リマとインディアか。気が強い方か気は優しくて力持ちか。俺がいた隊は人気が二分したなあ」
「へえ、インディアって子は私にそっくりじゃない? 気は優しくて力持ちってところ」
「いきなりげんこつ落とす女が優しい……?」
「ヒ~ス? 一発いっとく?」
「余計なこと言わないで……。ほら、焼き鳥来たぞ」
「片方は酒癖が悪くてね。す~ぐ服を脱ぎ出すんだ。男所帯には恵みの雨だったね。ブラボーって叫んでさ。同期のロミオとアルバードにいつも怒られてた」
「へえ……良い関係だったんだね」
「特にロミオとは仲が良くって今でも交流があるんだ。良かったらあんたも交えて話したいな。昔よく行ってたイヴェットの酒場でさ」
再びジョッキを叩きつけ、グレゴールの肩へと手を伸ばす。
酔いの勢いに任せて高らかに歌う様は、とてもフィクサーには見えなかった。

「で、さ」
あの人本当にグレッグの知り合い?
ロージャの双眸は冷静に瞬いていた。そこには酒精の影など微塵もない。
いくらグレゴールの記憶力に懸念ががあったとしても、心の奥底では未だ終わらない戦争に身を置いているのだ。その戦争関係者の名前が出てこないなんてことあり得るのか。
グレゴールは紫煙と共に、否定の言葉を吐いた。
「は? じゃあなんだよ。オッサン、他人とあんな話してたのかよ」
「あいつの話に興味があってさ」
「女の子の話?」
「あいつの言う女性と男の名前には聞き覚えがあってな」
グレゴールはポケットをまさぐり、くしゃくしゃに握りつぶされていたレシートを取り出した。目的は裏面の無地の面である。
「フォネティックコード」
「ふぉねてぃっくこーど?」オウム返しするヒースクリフには聞き覚えのない言葉だった。
「雑音の多い場所で無線機の聞き間違いを防ぐために設定された音声コードだよ。ちょいと違うところもあったけど、会話での違和感がないように変えたんだと思う」
「ってか会話全部覚えてるの!?」
「数分前に聞いた名前すらあやふやなのに!?」
「そりゃお前、名前間違いは死なないけど、作戦指令聞き間違えは死ぬだろ」
当たり前のように言われたその言葉に軍人のニオイを感じ、二人はただ黙った。
「えーっと、リマ、インディア、ブラボー、ロミオ、アルバード、ロミオ……最後はイヴェット……おお?」
六つの瞳がレシートを凝視する。
書かれていたのはlibrary.──図書館である。
瞬間、目の前で何かが落ちた。花びらのように揺れながら落ちるそれは、紙のようだった。
「招待状……?」
貴方の本が見つかりますように。
聞き覚えのない女性の声が、三人の脳内に聞こえた気がした。