鯖男
2023-11-10 22:38:36
956文字
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なんて殺し文句

戦利品🌇×海賊🪲

シャンプーをつけ、髪を洗う。だが随分と泡立ちが悪い。皮脂汚れが酷すぎる。
二回、三回と贅沢にシャンプーをかけ、髪を擦る。四回目でようやく真白な泡が生まれてきた。
あざ黒い肌に白い泡がこぼれ落ちる。無数の古傷の上にも泡が落ちる。まるで全てを覆い隠す新雪のようだった。
男──グレゴールは器用に片手で髪を洗い終え、身体の洗浄にとりかかる。次に入れるのはいつかわからない。皮膚をずる剥く気持ちで、タオルを擦りつけていった。

「出た」
風呂場から出たグレゴールは、一言告げると濡れた身体のまま、仕立てのいい椅子に座り込む。全裸であった。否、首にぼろきれのようなタオルをひっかけていたので、全裸というわけでもないのか。
「風邪をひく」
ぬ、と現れたのは全裸の男よりも二回りほど大きな男だった。
ムルソー。グレゴールがとある客船から奪い取った『戦利品』である。
きっちりと整えられた髪や服装から几帳面さが窺える。
ムルソーは人が包めるほどのタオルを取り出し、グレゴールを包み込んだ。ぼろきれなんて比べものにならないほど上質な布で、グレゴールは喉奥で笑う。
「随分とかいがいしいねえ」
「船の上の病気は命取りだ」
丁寧に。入念に。ムルソーはグレゴールを身体を拭いていく。そして足の指一本一本拭き終われば、あらかじめ用意されていたガウンを羽織らせた。
「至れり尽くせりだ」
「最後にさせて欲しいことがある」
「何だ? 今、気分が良いからなんでもいいよ」
ゆぅるりと弧を描く口元は、ムルソーが何を言い出すか楽しげである。
「貴方の髪は潮風でパサついているのでオイルを塗らせて欲しい」
……それだけ?」
「ああ」
言うやいなや、ムルソーの手には小瓶が握られていた。美容などグレゴールは一切興味がないのだが、そのオイルはお嬢様お坊ちゃん御用達の良いモノであることは知っていた。それほど有名なモノを価値の分からないグレゴールに使うなど。
「今、気分が良いから「大陸が欲しい」とか言われても叶えてやりたくなっちゃうのに」
「大陸など持て余すだろう。貴方がいればそれでいい」
「──ああ、うん、そう」
なんて殺し文句。
生きてきた日数以上の殺しを経験してきた海賊グレゴール。
まさか戦利品に殺される日が来ようとは思っていなかった。