鯖男
2023-11-09 22:40:32
1114文字
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人はそれを加虐心と呼ぶ

ヘルチキチーム分けの話。ぐれごおる、がんばる。

グレゴールは常識人である。
正確には、自身でそう認識しているだけである。
ただそれが思い込みと一蹴するのは早計だろう。なにせリンバスカンパニーバス部門の囚人において、穏やかに会話ができる人材というのが非常に少なかった。
だからだろうか。
グレゴールは少々頭でっかちな傾向にあるも、理性的に会話ができるイシュメールに『常識人』としての仲間意識を持っていたのは。

コックの象徴たる帽子を頭に乗せ、良秀を向き合うのはグレゴールであった。
料理対決。
数ヶ月は放置され害虫が這い回るキッチンにて、その火蓋は切って落とされた。
最初に行われるのはチーム分けである。意外なことに争うことなくスムーズにグレゴール・良秀側に分かれる囚人に、一人だけ動かない者がいた。イシュメールである。不機嫌そうに顔を顰めながらも、目線がどうにも落ち着かない。
自身の好みと戦力の均等化を秤にかけて迷っているのだろうか。
真面目なイシュメールのことである。グレゴールはそう判断し、「イシュメールはこっちだろ」と手を差し出した。
当たり前のように。
当然のように。
瞬間、イシュメールが目線を逸らしたことに気づかないほど、グレゴールはイシュメールに『常識人』という仲間意識を持っていたのだ。
だが、
「グレゴールさん……すみません。私、缶詰料理は海で食べ飽きていて……
「は、」
「すみません……
謝罪をしながらも、足は良秀の方へ向かっている。そしていや、ちょっと、とグレゴールの情けない声を背に受けながら、良秀チームの最後尾についたのだった。
「イシュメール……
「グレッグかわいそう……泣いちゃう?」
揶揄するようなロージャの一言に、鼻の奥がつんとする。自覚をすると目の奥が熱くなり、じわじわと喉奥がヒリつく。子どもの時以来の感覚に、グレゴール自身もコントロールができなかった。
「イシュ、メール……来てくれないのか」
プライドからか涙は流していない。だが薄らと張られた涙の膜がきらきらと反射し、周囲にバレてしまっていた。
情けなく歪んだ顔は、とても英雄視されていた軍人とは思えないだろう。それほどに哀愁と憐憫を沸き立たせていた。
自身より年上の男が、哀愁と憐憫を携えながら縋ってくる。
イシュメールの心に、今まで知らなかった感情がひっかき傷を作った。
緩やかに。はっきりと。イシュメールの口角が上がっていく。
「はい! 終了です! イシュはこっちチームね!」
「え、あ、はい、それはいいんですけど」
「イシュメール来てくれないのかあ!?」
「諦めてよね! イシュが変な扉開けちゃうからグレッグはイシュに近づいちゃ駄目だから!」
「なんで!?」