鯖男
2023-10-01 14:59:21
1542文字
Public
 

ロジャグレダンスバトル

書きたいところだけ書きました

歓声が聞こえる。
ヤジかもしれないな、なんて言う相方に、ロージャは薄く笑う。そこまで擦れていない性根のくせに、斜に構えた言葉が可愛らしい。
二人は歓声が広がる広場を、通路から見ていた。広場に繋がる薄暗い通路だ。まるで闘技場に出場する戦士のような面持ちで、広場を眺める。
「ねえグレッグ、緊張してる?」
「当たり前だろ。笑いものにならなけりゃいいけど」
「そのときは私も一緒だよ」
ね? と小首を傾げれば、グレゴールは蜜色の瞳を丸くした。
「んな綺麗なサマ見せられて言われてもなあ……
揶揄など微塵も含まれない言葉は、ロージャの心を仄かに暖かくする。
それは炎を連想させる、目が覚めるほどに赤いドレスだった。
胸元に深く切れ目の入ったセクシーなデザインで、身体の凹凸にメリハリのあるロージャには合っている。そして彼女の快活さがいやらしさを払拭していた。
袖に巻かれた薄手の布は、そこいらのロッカーから拝借したものだ。ロージャ曰く、「ダンスと言ったらひらひらさせないとね」とのことで。女性のファッションに関して門外漢なグレゴールは頷くよりなかった。
「コレだとまだ地味かなあ」
「派手だろ」
「あ、そうだっ!」
グレゴールの言葉など耳に入ってないのか、ロージャは通路に放置された空き瓶を拾い、壁に投げつける。粉々に砕けた破片をヒールで踏み、更に細かく粉砕していく。
そして硝子片を拾い上げ、ドレスに振りかけた。
「何してんだ?」
「ほら、キラキラしてるでしょ」
両手でスカートをつまみ上げ、広場から差し込む光に照らす。すると光を受けた硝子片が乱反射し、きらきらと光を放つ。派手というより細やかな輝きを見せるそれは、ロージャの本質のようでもあり、グレゴールはほう、と小さく息を吐く。
「グレッグもさ、それじゃあいつもと変わらないよ」
「そう言ってもな」
ロージャが膨れるのも無理はない。ダンス対決のために着飾ったロージャとは異なり、グレゴールの服装はいつもの制服そのままだった。ロージャとのペアというより、ロージャの付き人といった風貌である。
「どんなの着ても服に着られてる感が拭えないというか……
「んもう! 私のペアなんだよ?」
目を泳がせながら俯くグレゴールに声を荒げるも、それ以上は言わなかった。
彼の自己肯定感の低さは知っている。
ロージャは「わかった」と一言、スカートを引き裂いた。乱雑に引き裂かれたスカートはアシンメトリースカートと化し、ほつれが数本目立つ。だがロージャの滲む気質からか、ほつれを纏ったアシンメトリースカートはワイルドさを演出しており、みすぼらしさなど微塵も感じさせない。
「おま、何やってんだよ!」
「グレッグ、顔貸して」
言うやいなや、よれたネクタイを掴まれ、勢いよく引かれる。ぐえ、と悲鳴を残し、息がかかるほどに顔を寄せられた。
仄かに香る甘いにおいと、氷のように冴えた双眸。眼前でも耐えられる顔面にグレゴールの呼吸は止まる。自身の息を吐きかけるのが大罪である、と思ってしまったのだ。
「──あは、かわいい」
瞬間、氷は溶けた。和らぐ双眸に周囲の時すら動き出す。
「せめてネクタイは変えよっか。私とおそろいだね」
よれたネクタイを引き抜かれ、代わりに結ばれたのは先ほど破かれたスカートの切れ端である。目が覚めるほどの赤。炎の色。命の色。
「こりゃあ……過ぎたもんを」
「今から始まるのは戦闘なんだから、鼓舞する装備は必要だよ~」
「そりゃそうだ」
グレゴールは咥えていた煙草を吐き捨て、踏みにじる。
そして左手をロージャに差し出した。
「じゃあ行くか」
「そうね、ダーリン」
右手を乗せ、ロージャが言う。
二人の面持ちは戦士そのものであった。