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鯖男
2023-07-06 15:48:05
2020文字
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原初の火花
しょたムルが🔥グに助けてもらってそれがきっかけで🔥に入社するム。🔥ムルグレになります。
命の躍動を見た。
赤がうねる。黄が弾ける。朱が跳ねる。
少年の瞳に映る炎は幾重もの火花を重ね、大輪を咲かせていた。それは少年自身の瞳の色と混ざり合い、幻想的な彩りを見せている。
「──やあ、怪我はないかい」
仄かな煙草の香りが鼻を掠めた。
無骨な義手とシニカルな笑み。
男は悠然と立っていた。
少年が走っていた。
未だ成長途中であろう細い手足を懸命に振り、人の隙間を縫いながら走っていた。数メートル後ろには裏路地では見慣れた、さりとて巣では見慣れない男たちが追いかけている。
裏路地では見慣れた。
つまりは『そういう』人間たちである。
少年が追われている理由は大したことではない。大したことではなさ過ぎて少年はおろか、男たちですら思い出せない。逃げるから追っているのだ。
少年の呼吸が次第に浅く大きくなる。酸素を吸っているというのに、肺が満たされない。体力の限界だった。
「うっ!」
足がもつれた瞬間が逃走劇の終焉だった。
道沿いに走っていたせいでどこかもわからない場所。背の高い家々に囲まれたそこは、雨のニオイを孕んだ行き止まりであった。荒々しい足音で、静かに暮らしていたネズミが散っていく。少年も倣って散りたかったが、ネズミの穴は通れない。
「くそ! 世話かけさせやがって!」
「面倒だな。このままバラして売っちまうか」
「いや、子どもなら生きたままの方が高いんじゃねえか?」
物騒な相談は、やいのやいのと繰り広げられる。
だがこれが裏路地の日常だった。
弱者は強者に搾取され、強者は更なる強者に搾取される。底辺に位置する者は──想像に容易い。少年は明らかなる弱者であった。
だが。
少年は男たちを見やる。絶望に染まらぬ意志を感じさせる黒曜石に、男たちの神経は逆撫でさせられた。
「可愛くねえガキだ」
「やっぱりバラしちまおう」
ははは、と下卑た笑いが幾重にも壁に反響する。まるで地の底から湧く悪魔の声である。
終わりか。
少年は浅く息を吐き、身体の力を抜く。
諦めたつもりではない。
ただ引き際の見極めが、恐ろしくクレバーだった。
瞬間、熱が頬を撫でる。男の一人は短い悲鳴をあげたのち、その場に落ちた。焦げたニオイが澱んだ雨のニオイを覆っていく。
「な、なんだあ!?」
命の躍動を見た。
赤がうねる。黄が弾ける。朱が跳ねる。
少年の瞳に映る炎は幾重もの火花を重ね、大輪を咲かせていた。それは少年自身の瞳の色と混ざり合い、幻想的な彩りを見せている。
「──やあ、怪我はないかい」
仄かな煙草の香りが鼻を掠めた。
無骨な義手とシニカルな笑み。
男は悠然と立っていた。
ある晴れた日だった。
空気も程よく乾燥し、火花を散らすならこんな日が理想的だ。
男はある協会へ入社した。火花を起こす装備をつけ、体術戦闘を主とするリウ協会。
正直なところ、男は就職先に希望はなかった。どこへでも働けると思っていたし、その能力は自身にあると過信していたから。だがその過信は、子ども時代と共に別れを告げたのだ。
ある日を境に、男は希望する協会ができた。
リウ協会。
まず少年は身体を鍛えた。リウは体術を主とするので身体が出来ていなければ話にならないと思ったのだ。その期間、十年。十年間、折れず曲がらず少年は鍛え続けた。そして青年期に入る頃には、周囲の同学年よりも身体が出来上がっていた。
ひとえにある人物へ会うために。
フィクサーという危険職務だ。殉職や怪我による退職も視野に入れていた。そもそも十年もの歳月である。異動という可能性もある。
だが男は諦めなかった。
その程度、諦める要素になり得なかったのである。
「今期6課に配属されましたムルソーです。よろしくお願いします」
「よろしく~。新人さんにはまず教育係と一緒にまわってもらいますね」
受付の職員が慣れた手つきで書類を作成していく。所属職員数が多いリウである。新入社員の書類など文字通り、山ほど作成してきたのだろう。
「教育係はベテランがつくから安心してね。あ、帰ってきた」
「あ~、疲れた疲れた。仮眠室空いてる?」
声が呼び水となり、記憶が鮮明に呼び起こされる。鼻を掠める煙草の香りも記憶通りである。振り返れば、自身の目線よりも幾分下に、記憶の男がいた。
少年の心に火花を散らした男。火をつけた男。
「うおでけえな。新人?」
「はい、ムルソーです」
「うはは、将来有望そうだな」
くしゃりと人好きそうな笑みは、記憶のものとは違ったが、違和感はない。
当たり前ではあったが、男はムルソーのことは覚えていない。仮に覚えていたとしてもイコールで結べなかっただろう。それほどまでにムルソーは成長していた。だがそれでよかった。
原初の記憶は我が胸に。いつまでも鮮明な火花をしまっておくのだ。
「貴方に私の火花を捧げます」
「お? おお、俺にってか協会に捧げた方がよくないか?」
「いいえ、貴方に」
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