鯖男
2023-01-27 19:01:42
1188文字
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神文の旅の話

昔書いた神文が世界を回る話の序盤。見つけたからあげ。

深呼吸をすれば、肺はあの日を追憶する。
少しの青臭さと乾いた風。目の前に広がる草原はあの日と微塵も変わらなかった。遠くの方で見慣れた魔物が群れをなす。球体のそれはテリトリーにさえ入らなければ大人しいものだ。すべてがあの日と同じままで、俺はアレと同じようにループをしているのでは、と訝しむ。だがそれは即座に否定された。神と同等の能力を手に入れた俺は、如何なる精神異常や魔法は通用しない。通用するのは同じ神の能力を持つ女神とおこぼれに預かる転生者だろう。
ステータスを確認すれば、レベルやスキルに異常はない。女神達の陰謀を判断するには、どうにも穴が多いのだった。
周囲を見回し、自身の脳内地図と照らし合わせる。もしこの草原があの日と同じ場所ならば、あるべきものがあるはずだ。そしてそのあるべきものは小さくはない。案の定、肉眼で捉えれるほど近くにそれはあった。最初の目標としてはチュートリアルのように簡単なものだった。

正門はあの日と変わらずそこにあった。だが俺の記憶と照らし合わせると、些か煤けたように思える。とはいえ、『古びた』という意味ではない。年月を重ね、重厚さが加わったというべきか。国の技師達の努力の結晶なのだろう。
「通行手形は所持されてますか」
正門に位置する兵士が問う。染みついた癖か、俺は腰のホルスターへ手を伸ばし、そのまま宙へ泳がせた。
「? 通行手形は持っていないので?」
「いや、あるにはあるんだが」
出したのはリユート村で譲ってもらった商業通行手形だった。まだ何も持っていない俺に、商業の足がかりを作ってもらった切っ掛けの一品。しかし年期の入った通行手形が、この時代でも使えるのかはわからない。恐る恐る出せば、兵士は念入りに検問する。
「随分と年期が入った手形ですね。もしかして代々受け継がれているものですか」
「まあ、そのようなものだ」
……ああ、やっぱり」
兵士は合点が言ったようで、納得の言葉を吐く。
「リユート村なんて僻地も僻地じゃないですか。しかも大昔の村だ」
兵士の言葉にやはりな、と思う。
リユート村は田舎ではあったが、ここまで言われるほど僻地ではなかった。『大昔の村』というのは、まあ、『そういうこと』なのだろう。徐々に自身の置かれている時代や状況がはっきりしてきた。俺は商業通行手形を受け取ると、そのまま正門をくぐろうとする。すると兵士は振り返った。
「お早めに商業通行手形の更新をしていただけるとありがたいです。やはり古いものですと確認の必要がありますので」
「ああ、そうだな。時間を取らせて悪かった」
古いもの。
俺がリユート村で通行手形を受け取ったのはそう昔ではない。せいぜい一・二年前か。手に馴染む棒状の手形を指でなぞり、貰った日を追憶する。あれは冤罪をかけられていた頃で、初めてこの世界の住民からの感謝の品だった。