鯖男
2022-11-30 21:11:53
1936文字
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数百年後の世界に行く神文の話3

奴隷商人ととある衛兵の話

「お兄さん……そこのフードを被った……そう、あんただよ。ここいらじゃ見かけない顔だね。旅の人かい? そうか。それなら丁度良いものがある。なあに、損はさせないよ。ん?胡散臭そうな顔してるな。でもそれはあんたもだぜ。こんな月明かりも出ない夜に一人でふらつくなんて後ろ暗いことでもあるんじゃねえの?
……いやいや、怖い顔しないでくれ。俺はあんたに良いものを紹介しに来たんだ。便利な道具だよ。『奴隷』っていうんだけどさ。
なんだ、あんた『奴隷』知らない世代かい? ん~、よく見たらまだ子供じゃねえか。そりゃ奴隷なんて死語だな。爺さん婆さんや歴史で習わなかったか? 数百年前、人間至上主義国と亜人至上主義国が互いの種族の奴隷を扱っていたこと。金を払わなくていい労働力や性の捌け口、あとはストレス発散とかにな。
それは一般社会に溶け込み、皆が当たり前に受け入れていた『現象』となっていた。だがその奴隷問題に一石を投じる才女が現れたんだ。
ミレリア=Q=メルロマルク。
大国メルロマルクの女王である彼女は盾の勇者を筆頭に、四聖と眷属器の勇者と協力して奴隷商人を次々と摘発していった。
最初はいたちごっこだったが、そこは各国から『女狐』と恐れられた女。その巧みな交渉術から奴隷商人を追い込み、一網打尽にしたと言われている。
だが奴隷商人はしぶとくてな。というよりも『奴隷』という商品のうま味が忘れられないんだ。だってそうだろ? 次々生まれる子供や見目が良い男女を片っ端から攫ってうっぱらった方が普通に働くよりも金になる。
結局メルロマルクの女狐が生きている間に奴隷商人の根絶は出来なかった。奴隷商人達は勝ちを確信しただろう。なんせあんな頭がキレる女が何人もいるわけがない。このままのらりくらりと衛兵をやりすごせばまた奴隷が売れる。そう思った。
メルティ=Q=メルロマルク。ミレリア女王の娘だ。
幼くして女王となった少女。母の死を耐え、父親の補佐によってようやく立っている憐れな少女。──のはずだった。
端的に言えば女王よりも遙かにヤバい次世代だ。
確かに前女王と比べるとまだ未熟な部分もあるだろう。しかしそれを補って余りある交友関係と戦闘力、そして度胸。
憐れなのは奴隷商人さ。舐めてた子供が実は怪物だったなんて笑えない。
数年後、奴隷商人はほぼ壊滅し、奴隷禁止法はメルロマルクだけならず、シルトヴェルトやシルトフリーデンまで共通の法となった。
それが歴史書に記された奴隷禁止法だな。数百年も前のことだ。もう『奴隷』なんて言葉、お伽噺の中だけなんだよ。
──で、ここまで話したんだがな、奴隷商人は潰えちゃいない。害虫はどこからでも湧いてくるからなあ。そこで話を最初に戻そう。お兄さん、奴隷はいらないかい? お、よく見りゃお兄さん、盾の勇者フリークかい。鎧に盾まで装備して、随分と凝ってる。それじゃあ奴隷は亜人の子供の方がいいよな。生憎ラクーン種は取り扱ってないんだが、他のなら何匹かいるよ。
ん、どうした? あれ、腕の盾、そんなんだったか? そんな猿みたいな剥製────

ぁ、」

「こんにちは、旅の方。少々お話よろしいでしょうか。お時間は取らせませんので。……ありがとうございます。
昨晩、ならず者がこの辺りをうろついていたようで、それについてお話を伺っておりまして。昨晩、変わったことなどございませんでしたか? ……そうですか。え、詳しい話、ですか? いや、しかし……いえ、話せる範囲でいいのなら。ただし、他国では他言無用でお願い致します。我が国の汚点を広めたくないもので。
昨晩、奴隷商人の一人がこの辺りにいたそうなのです。もはや歴史書にしか載っていない奴隷商人が現代にいるなんて思ってもみなかったでしょう? 私も衛兵になって数十年、初めて出会いました。
商人は縄で縛られ、石畳の上に寝転がらされていました。それだけなら正義の人が捕まえたのだろうと納得できるのですが、商人は虚ろな瞳で「勇者様」と呟いているのです。この国で勇者と言えば四聖と眷属器です。しかしそれはお伽噺でしょう? この商人はお伽噺に退治された、ということになってしまう。はたして調書にどう書くべきか……いや、すみません。後半愚痴になってしまいましたね。
それでこの話から何かわかりますか? 広い世界を見ている旅の方の知恵をお借りしたいのです。……そうですか。無茶を言いましたね。申し訳ない。
お詫びにロックバレー国でオススメの食事処を紹介しますね。あそこは見所が多いですから。旅をしているのなら一度は行ってみてください。
そこの一押しはサンドイッチです。なんでも盾の勇者様の大好物とか。

では、良い旅を」