鯖男
2022-11-03 22:58:34
1391文字
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黽+ホ

FOM大将黽くん兵隊ホの控室の話。まだ描写されてないから今書くんだよ。

FOMはSFとは異なり、シャーマン個人の戦いではなく、軍勢の戦いであった。
それもそのはず。神を決めるのではなく、神だったモノからの現神への力試しなのだから。
現神である麻倉葉王が選んだ五人の選手。
運命のイタズラというべきか、はたまた決まっていた縁というべきか、前回SF参加者の血縁者が過半数を占めていた。

控え室は見覚えのある空間だった。
横になるだけに敷かれた御座や、簡素な土壁に僅かな色彩として工芸品が飾られている。窓はあるにはあるが、覗いたところで真っ白な空間が広がっているだけだ。本物の部屋だったら、そこから覗くのは巨大なGSだったろうに。
どうやらFOMの控え室は、パッチ村の一室を模したものらしい。
「随分と侘しい小……部屋だな」
少年はどっかと御座に座り、周囲を見回す。御曹司である彼からすれば、どのような部屋も小屋同然なのだろう。途中で言い直したのは親の躾か、はたまたチームメイトの躾か。
「そう言うな。ほら、パッチ工芸。いるか?」
「いらん」
壁に掛けてあった牛の骨の剥製を顔に当ておどけてみるも、すげなくあしらわれる。その姿は父親の幼いときそのもので、男は懐かしさに口元を緩ませた。
「俺は叶えたい願いがある。そのためには負けられない。……わかっているのか、貴様」
「ホロホロさん、な」
少年の視線は、とても十も満たない子供がするようなものではなかった。例えるならば矢である。脇目も振らず目標に向かって突き進む真紅の眼光。純一な心がもたらす危うさ。
そんな視線を青年は自然体にて受け止めた。彼にとってその矢は痛くはなかった。かつて自身が持っていたものと似ていたからだ。
「なあに、俺も負ける気はねえ。借りがあるからな」
睨みつけた壁に、脳裏に焼き付いた男が投影される。
東永紅。
言葉巧みに道家や戦友の家庭を破壊した男。
戦友の妻を。目の前にいる子供の母親を殺した男。
許せるはずがなかった。
──だが。
「黽。俺たちがやるのは『試合』で『殺し合い』じゃない」
………
「結果的に殺すこともあるだろう。だが殺すつもりでやるんじゃねえ」
………
「──殺すな」
未来を担う彼の手が汚れぬよう、戦友とその妻は『不殺』を説いた。自身の罪を自覚しているからこそ、祈りにも似たそれを子供は守っていた。
だがこの試合でその約束が破られてしまったら。
懇願の色を帯びた声は、黽にとって初めて聞くものだった。だからこそ鋭き眼光は穏やかな色を取り戻し、さりとてその穏やかさに全てを預けきれずに揺らいでいる。
「なら俺の願いは、想いは、──祈りは何処へ行くんだ」
「ここに」
土仕事で荒れた指が、少年の胸を突く。
「願いも想いも祈りも目的を果たすために燃やし尽くせ。炉にくべろ」
果たせない約束はするもんじゃない。巡り巡って自分が辛くなる。
自身の言葉に、ホロホロは追憶する。永い冬を。短い春を。
「お前が約束を果たせるよう、俺も協力してやるから」
低い頭を撫でてやれば、父親とは異なり、柔らかな毛が指に絡みつく。
恐らくこの毛のように、少年の心も柔いのであろう。だがそれを守るようにバレないように、鉄の鎧を身に纏うのだ。自身が傷つく鉄の拷問器具の鎧である。
「なあ、隊長」
試合開始までまだ時間はかかるであろう。
そのときまで、子供は戦士でなくてもいいはずだ。