鯖男
2022-08-23 21:43:23
1174文字
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ワンライ作品『パロディ』

神降ろしの器ホと村の青年ピ

澄み切った鈴の音は周囲の空気を浄化する。
規則正しい足音は、頭の奥を麻痺させていく。
真白の木で組まれた神輿は、簡素ながらも重々しい雰囲気を漂わせていた。
神前道中である。
先頭の鈴鳴りが邪気を祓い、規則正しい足音は真言の代わりである。神の捧げ物たる米俵や神酒を詰んだ牛車を牽引する騎馬、神輿の担ぎ手、殿は僧である。錫杖の鐶(かん)は鈴鳴りの鈴とはまた違う邪気祓いの音であった。
神輿には一人の子供が乗っていた。
眼前は薄布で覆われ、顔を見ることは適わない。だが幼いながらも威風堂々と座する姿は、一介の村人と一線を画す存在であることは見て取れた。神前道中の道となるべく、左右に分かれ頭を垂れる村人は、一目でそれを理解し神輿の子供に平服する。
村の青年であるピノは、地面だけを見つめていた視線を僅かに上げ、神輿の担ぎ手を見やった。なんてことはない。村の言い伝えよりも好奇心が優っただけのこと。
真白な服だった。恐ろしいまでに漂白された白。雪原など比べものにならない。怖気が這い上がってくるような、人間界に馴染まない白だった。
足下でこれならば、上半身は、顔を視界に入れたらどうなるのか。
村人が平服して神前道中をやり過ごしている意味を理解する。
迫り上がってくる吐き気を寸でで抑え、再び頭を下げる。必死で記憶に蓋をし、祈るように両手を合わせた。祈り先などは分からない。少なくとも目の前の神前道中ではない。
頭を下げていたピノは気づかなかった。
同じように頭を下げていた村人も、決められた動作を繰り返す鈴鳴りも騎馬も担ぎ手も僧も誰も気づかない。
神輿の上の子供が薄布越しに、じい、とピノを見つめていたことを。

村は巫によって守られていた。
巫女であったり、男巫であったり。ともかく守られていた。
巫は神降ろしの器である。
巫を構成する清らかな身体と魂と精神が、神を受け入れ手足となり神託を降ろすのだ。
それにより百年間、村は巫によって守られていた。
百一年目の巫は、男巫だった。


「ああ……なんだよこりゃあ……
「神降ろしの神殿、だそうだぜ」
「神殿? 座敷牢の間違いだろう!?」
青年の声は地下に響き渡る。土壁に囲まれた光り差さない座敷牢。
座敷。
地下牢ならもっと汚らしく惨めだったろうに。そこは大名の座敷と見紛うほどに質のいい畳みが敷かれていた。仕立てのいい反物が置かれていた。豪華な食事が用意されていた。
そして格子にはおぞましい量の札が貼られていた。
神殿──座敷牢の中、一人座す少年は嘯く。その表情から全て理解した上で、この場にいることが分かってしまう。
「この村は……百年も、こんな……狂った……
「百年も狂気に染まればそれが正気にもなるんだろうさ」
なあ、ピノ。
少年は試すように問う。
「お前はここへ何しに来たんだ?」