鯖男
2022-07-12 16:18:54
1884文字
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ハオホロif幕間3

5と6の間くらいの話。狼の血は途切れていない。

黒の手甲をつけ、深く息を吐く。
シャーマンファイト一回戦。ホロホロの初試合でもあった。
「なんだ、緊張してるのか」
「馬鹿言え。余裕だわ」
「ホロホロうそだめ」
ハオの言葉をいなすも、心を読めるオパチョによって不発に終わる。そもそもハオにはお見通しだったかも知れないが、素直に吐露できなかった。それはプライドの問題だけではない。
……別に緊張ってか、なんかざわつくんだよ」
緊張感か戦闘前の興奮か、ホロホロの肌は粟立っており、撫でることで落ち着かせようとする。だが一向に収まらず、不満げに口先を尖らせた。
ハオはふむ、と顎を撫でる。
自然霊の頂点とも言えるスピリット・オブ・レインを持ち霊とし、仲間と腕試しを続けてきたのだ。ハオの見立てから、ホロホロはどの参加者と比べても引けをとらない。それどころか凌駕していると言っても過言ではなかった。だがホロホロの心中は波立っている。
王を決めるための神聖な戦いとしてとはいえ、見世物の舞台なのだから緊張するのは理解できた。
見ず知らずのシャーマンと戦うことへの興奮も理解できる。
多少なり関係はしているだろう。だが決定的ではない。
こういった情報収集はラキストに一任してるんだがな。
ハオはチーム分けの時を思い出し、一人ごちた。

「ラキスト、今回は裏方に回ってほしい」
「仰せのままに」
チーム分けをする際、ラキストへ告げる。頭を下げ、受け入れるラキストにホロホロは首を傾げた。
「ラキストはチームに入らねえの?」
「三人一組だからね。一人余ってしまうだろ。馬鹿だな」
「最後の一言余計だな!」

ラキストをチームに入れられなかったのは戦力的の痛手にはなるが、大したことではない。星組はハオ一人で成り立っているようなものだ。
それよりも単独行動ができることで、情報収集に時間が割ける方がプラスに動くだろう。
「別に僕一人でどうにでもなるから、緊張も何もないだろ」
「そういうんじゃなくて……
上手く考えが纏まらないのか、口元は忙しなく動くも言葉が出てこない。
恐らくホロホロのそれは、何かを感知してのことだろう。だがその精度はまだ低い。
「ハオさま、ホロホロ、しあいはじまる」
「わかったよ、オパチョ。ほら行くぞ」
「わあったよ」
歓声の波を受けながら、ハオ率いる星組は姿を表した。
羽織った黒の着物が風に靡く。すると下に着たタイトなパンツが顔を出した。ベルトには媒体である扇子をしまうホルダーがつけられている。これらは花組を筆頭に仲間達が口を出してコーディネイトされたものだ。服装の好みはあまりないものの、自身のために選んでくれた服は存外気分が良い。
「ホロホロ、まだざわついてるかい」
「まあ、な……
着物の袖から覗く腕は、今も変わらず粟立っていた。
「まあなんにせよ。早く終わらせよう。時間の無駄だ」

試合は一瞬だった。
相手が何をするでもなく、ホロホロが戦闘態勢につくまでもなく。
相手の魂はスピリット・オブ・ファイアに収容された。
残ったのは抜け殻である。
「ああ、掃除は忘れないよ」
だがそれすらも無くなった。
残ったのは数グラムの塵である。
感慨はなかった。感慨が起こるほどの試合ではなかった。
現にホロホロの脳裏には、既に相手の顔がもやがかっていた。
「ハオさま、すごい。はやい」
「当たり前だろう」
「まあ、早いわな……
肌を撫でる。試合には勝ったというのに、ホロホロのざわつきは消えない。それどころか不明瞭な違和感が責め立ててくる。ホロホロは踵を返す。これ以上ここにはいられなかった。
瞬間。
「お兄ちゃん!!」
呼吸が止まった。洪水のように想起されるのはあの日のこと。
強さを求めた。
なぜ。
自身の弱さのせいで殺してしまった。
誰を。
同級生を。
誰を。
……同級生を。
誰を?
────すきなこを。
指先が震えた。血が通っていない。うまく息ができなかった。
ふと遠くでカリムが言っていたことを思い出す。
『氷使いは珍しくない』
最初は一回戦初戦のアイスメンのリーダーかと思っていた。だが「珍しくない」のだ。一人ではなく二人いてもおかしくはない。そしてホロホロは抜かした氷使いの二人目がいたのだ。恐る恐る振り返り、観客席を見やる。そこには幼子から少女として成長した妹の姿があった。
「────ぴりか、」
兄と同じ色をした髪と瞳。一族を代表するかのような文様の入った戦闘服。妹には不釣り合いと思う。
少女は跡継ぎである兄の失踪後、シャーマンとなったのだ。
一族の狼は途絶えていなかった。