鯖男
2022-06-28 17:56:59
1728文字
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『青、水色』ワンライ作品

ピノホロをピリカちゃん目線で

目の覚めるようなインディゴブルー。どうにも馴染みが悪かった。
「お兄ちゃん、そんなジーンズ持ってたっけ」
私は何気なしに問う。我が家の洗濯は私が受け持っており、家族の服は大体記憶している。だが兄の穿いているソレは、洗った記憶がなかった。「買って間もないのかな?」と思うも、いつも購入している地元の服屋とは一線を介す仕立ての良さに即座に否定する。
そう、仕立ての良さ。私は兄のジーンズの縫い目を凝視する。量産型のものとは異なり、縫い目が整っていた。縫い終わりも丁寧で生地もしっかりとしている。私達が着てる服と質が違いすぎる。
「何コレ、こんな良いジーンズお兄ちゃんが買えるわけない! パパにねだったの!?」
「俺がねだって親父がなんか買ってくれると思うのかよ!? とりあえず手離せ!」
「変な皺がつく」と言われれば手を離すしかない。ジーンズは自分好みの皺や色落ちを楽しむ趣味と聞いたことがあったからだ。だが少なくとも兄はそういった趣味ではないし、知識もないはずだ。どこで知識を仕入れたのか。
「どうしたのよ、ソレ」
つい不満げな声が出てしまった。兄が良い服を持っていることが不満ではない。ソレを教えてくれなかったことが不満だったのだ。しかし内心、教えてくれない理由も察してはいた。
私は兄の持ち物や服をよく手製しているのだが、その際にワンポイントを入れる。購入した既製品にも問答無用に。兄が高校に上がっても、ソレは変わらず続けられた。良いジーンズだから私の手を入れられたくなかったのか、それ以外の理由か。
兄は口先を尖らせ、視線を泳がせる。口の中には言葉が出来上がっているのに、上手く纏められないようなそんな顔。ややあってから兄は答える。
「ピノが、今年の誕生日にくれたんだよ……
「ピノ」
その名前に聞き覚えがあった。二年前のシャーマンファイトで知り合った他国のシャーマン、だったはずだ。戦ったのは葉さんのチームだったけど、同じ氷を使うシャーマンということと、波長が合ったのか、よく話していたのを思い出した。
「北海道に来たの?」
「いや、国際郵便」
「住所教えてたの?」
「手紙書くかもしれないからって……
兄の言葉尻が小さくなっていくのは、住所を教えた罪悪感か。いやまあ、誰彼構わず住所を教えるのは止めていただきたいが、記憶のピノさんは一定の信用があるから別に怒ってはいない。それよりも、である。
「お兄ちゃん、ピノさんとプレゼント送りあう仲なの?」
「送りあってはない。そもそもプレゼントが来たのは今年だけだ」
「今年だけ」
今年だけプレゼントを送ったのか、今年からプレゼントを送ったのか。それは来年にならないとわからない。
「今までの分、纏めてジーンズにしたのかな。このジーンズ、良いやつでしょ」
「マジ? 穿きやすいけど良いやつとかわかんねえ」
「なんで物の価値わからないお兄ちゃんに良いのあげちゃうかなあ……
瞬間、あ、と兄が声をあげた。
「そういや手紙? ってかメモ入ってたんだよ」
「メモ?」

ジーンズは生き物だから写真撮って送れよ。

服に疎い兄は理解できていなかったが、私にはわかった。
新しいジーンズはまっさらな状態であり、それを穿いて生活の皺を付けたり洗濯したり、自分好みの色褪せさせるのを趣味にしている人がいる。恐らくピノさんがそうだし、兄のジーンズ知識もピノさん経由だろう。
どんな皺をつけ、どれだけの頻度で洗濯をしているのか。手紙を書く理由にしては十分だろう。それに『ジーンズの育成経過を見る』という名目で写真も貰える。
自分から「写真を送って」とは言えないシャイな青年からのおねだりだった。
「じゃあお兄ちゃん、ピノさんにジーンズの写真送るから外出てよ」
「部屋の中でいいじゃねえかよ」
「いーの!」
私は兄の手を掴んで部屋から連れ出した。
まだ一度も洗っていない目の覚めるほど鮮やかなインディゴブルーなのだ。
目が覚めるほど鮮やかな青空の下で撮った方が映えるでしょ。
私は意地悪ではないから、ちゃんと全体で撮ってあげる。
遠回しにおねだりしなくても、「お兄ちゃんの写真がほしい」って言ってくれればいいのに。