鯖男
2022-06-02 19:14:48
2193文字
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ハオホロif7

星祭

例えばカンナ。
ハオの仲間で三人ばかりの少女の中で、一番ハオに傾倒しているように思えた。
だがだからと言って、ハオのみに視線を向けずに、年下のマチルダやマリオンの保護者として常に最前線に立っていた。元々は深窓の令嬢と聞いていたので、貴族特有のノブレス・オブリージュというものか。そこには義務ではなく愛情だったと思いたい。
例えばマチルダ。
三人の中で一番感情が豊かであり、盛り上げるのが上手いように思えた。
静かな場所を好むであろうカンナやマリオンだが、マチルダの話を厭う顔は見たことがない。
例えばマリオン。
マチルダとは対照的に感情が表に出づらく、どうにも関わりづらいように思えた。
だが三人で話しているところでは、人形で口元を隠す。それが僅かに綻んだ口元を隠すためだと知ったのは、つい最近のことだった。

自身とあまり関わりのない三人だったが、無関心というものもない。中でもマチルダとマリオンは数少ない自身よりも年下だった。
年下の少女。
未だ色褪せない自身の妹。
重ねることが失礼だと理解していても、ホロホロは二人を無碍にすることはできなかった。
「ホロホロってさ、アタシとかマリちゃんに構うよね。好きになっちゃった?」
「馬鹿言え。俺の好みはもっとお淑やかな子だ」
けっ、と一蹴しながらも、自販機で購入した缶を投げつける。本日の気温は随分と高い。少し汗をかいた缶は、各々三人の手の中に落ちてきた。
「マリならお淑やかじゃないの」
カンナの声はどこか楽しげで柔らかい。からかっているのだとすぐに理解できた。
「あれはお淑やかじゃなくて爆弾娘だろ……
事実、マリオンは感情の起伏が激しい。寡黙さと残虐さが表裏一体だった。
「マリ、怒った……
「すぐ拳銃向けんの止めろよ!!」
銃弾の炸裂音と姦しい声。
他愛もない雑談。日常の一ページ。
少なくとも幸せな時間だった。


日差しも波も穏やかで、風も潮の香りを運んでくる。都心のゴミなども存在しない白い砂浜は圧巻の一言である。
季節が合えば絶好の海水浴日和だっただろう。
そんな砂浜に無惨な死体が存在した。見覚えのある死体達だった。
まだ瀕死なだけかも知れない。
ホロホロは跳ねる心臓を抑えつけながら砂を蹴る。だが近づけば近づくほど速度は落ちていき、やがて立ち止まる。
見知った顔がないのだ。首が跳ね飛ばされていた。
見知った上半身がないのだ。上半身が跳ね飛ばされていた。
見知った身体がないのだ。身体が押し潰されていた。
地獄とは現世にあるものだった。
は、と息を漏らす。この場で呼吸をしているのはホロホロただ独りだった。
「ブロッケン」
小さな身体は玩具のように打ち棄てられている。
「ザンチン」
白い脂肪を剥き出しにした下半身は何も言わない。
「ビル」
大きな身体から切り離された首は、ホロホロでも持てるほどに軽かった。
「カンナ、マチルダ、マリオン」
少女達の華奢な身体は、醜くひしゃげ朽ちていた。関節を無視したそれは、少女達が扱う人形のようだった。
ホロホロただ独り、生きていた。
生き残ってしまった。
「──ハオ、」
足は自然と森へ向かう。巨大な巫力がぶつかり合う森。片方はハオのもので間違いない。ホロホロは寄る辺を手繰るよう、森へ向かって走った。

「ああ、ホロホロ。やっと来たのか」
ハオは言う。なんでもないように。「遅いぞ」とでも言いたげに。
「お前、何してんだ……?」
ホロホロの目が狂ってなければ。頭が狂ってなければ。
眼前には放心した少女たちと、それを守ろうと立ち塞がる鬼とその術者である少女がいた。鬼を使役する少女のこと走っていた。だが今はそれよりも顔見知りの少女達である。
彼女らは浮遊霊となっていた。
そしてハオから目を逸らし、膝を折っている。まるで心砕かれたように憐れなそれは、見たことのない姿だった。
「花組。もう一度言うよ」
聞き分けのない子供に言い含めるよう、ハオは言う。

「霊力が足りない。魂を喰わせろ」

「てめえ!!!!」
破裂した。怒りなのか、憎しみなのかはわからない。ただホロホロの中の感情が吹き上がる。閉じられたままの檜扇は冷気を纏い、空気中の水分を氷結させる。鋭き氷塊はそのままハオへと向けられた。
「はは、」
その笑いは酷く乾いていた。納得と諦め。無理解と断絶。
かつてハオの心を占めていた感情は、再度ハオの心を埋め尽くす。
「ホロホロにいいことを教えてあげる」
広げるは黒き翼。自然霊たるスピリット・オブ・ファイアを凝縮し、身に纏った新たなオーバーソウル。
勝てない。
一目で理解できるほど強大であり強固なものだ。
だがそれで退けるほど、ホロホロは賢くなかった。愚かな勇猛だった。
「お前にあげた檜扇。冬扇とも言われるんだ」
「だから……どうしたぁ!」
振り下ろした檜扇は、スピリット・オブ・ファイアの爪で防がれる。同じ自然霊を使用していての戦力差。純粋なる巫力差を見せつけられ、ホロホロは奥歯を噛む。
「『夏炉冬扇』」
役に立たないもの、という意味だよ。
「──ぁ、」
咄嗟に展開した氷壁を容易く破壊され、ホロホロは地面へと叩きつけられる。骨の砕ける音を他人事のように聞いていた。カンナ達の声は遠く。
最後に見たハオは、既に意識を鬼を使役する少女へと向けていた。