鯖男
2022-05-19 18:00:53
1734文字
Public
 

ハオホロif幕間2

ブロッケンザンチンビルとホロホロがおしゃべりする

季節は巡る。
心身共に危うげだったホロホロは成長し、元来の活発さを取り戻していた。
だがときたま白刃の如き視線が垣間見える。とても十三の子供が持つ目つきではない。恨みも憎しみも籠もっていない絶対零度の目。あれは相手を獲物として「どう息の根を殺すか」計算している目だった。
純朴さの中の闇。純白の雪の中に紛れる獣。
ホロホロはそういった子供に成長していた。

あれから三年過ぎた。
野宿にも慣れ、仲間と称された者ともそれなりの仲を築いてきた。
だが相変わらず窃盗や強奪に手を染めることはできなかった。
最初の頃は見かねたビルが金を用立ててくれた。というのも、ホロホロの前にハオの下に来たのがビルだった。つまりホロホロが持つ『金を使わない』違和感を誰よりも理解できていたのだ。
だがいつまでもビルに頼るわけにもいかない。ホロホロは一年中流れが変わらず穏やかな川を眺めながら、石を投げる。軽い音と波紋は一瞬。すぐさま流れは戻っていく。
「よし」
ホロホロは自身の膝を打ち、勢いよく立ち上がった。
それからの行動は、まさに獲物を狩る狼の如き早さだった。
まず程よい太さの木を氷の刃で切り刻む。そして自身でも持てるほどの大きさに整え、小刀で大まかに削っていく。
ホロホロが考えたのは工芸品の作成だ。元々手先は器用で、スノーボードも自身で作成したほどだった。とはいえ、子供の作るものである。子供が売ったところで二束三文。下手をすれば値段などつかないガラクタと捨てられるだけ。露天を出すにしても大人でないとまともに客などつくはずもない。
「だからビルたちに頼もうと思って」
「他に適任者いなかったのか」
「ハオの耳に入ったら怒られるじゃん」
「怒られるで済むと思ってるお前が怖えよ」
六つの怪訝そうな瞳を受けながら、ホロホロはあっけらかんと答える。
ホロホロが頼ったのはビル、ザンチン、ブロッケンだった。対面の販売となればカンナやモハメドなど顔の整った者に頼むのが定石だが、献身的なハオ信者でもある。藪をつついて蛇を出すのもナンセンスだ。
「お前はいつまでもお上品だな。いいじゃねえか。そこいらの店から奪い取りゃ」
丸々とした腹を叩き、ザンチンは笑う。そして未だに湯気立つ串焼きを一口で食べきった。勿論代金などは払っていない盗品だ。
「そうさ。いずれハオ様が世界を統べるんだから」
ブロッケンはつまらなそうに手を振った。
「まあ待て。これはホロホロの倫理観の話だろう。そういう話なら俺も理解ができる」
倫理観。
なるほど、と合点がいった。
既に育ちきった倫理観を放棄することがホロホロにはできなかったのだ。と言っても他の人間がその倫理観に当てはまらなくてもどうこうするつもりはなかった。ホロホロは清く正しいわけではない。自身が納得いかないからやらない、というなんとも子供じみた感情からなのだから。
「ガキの俺が露天しても売れねえし、売り子だけ頼むって」
「俺たち、売り子できる顔だと思ってんのか」
ザンチンの言葉に改めて三人を見やる。
巨体のビルとザンチン。全身ブロックで覆われた不気味さが際立つブロッケン。
「いや」
「手のひら返し早えな!」
子供の真顔の返答ほど大人を傷付けるものはない。
「頼むよ~~~。なあなあなあ」
足下に纏わり付く様は巨体のビルやザンチンからすれば、仔犬のように見えただろう。踏まぬよう手でしっしと追い払うところも犬そのものだ。
だがビルはいつかの夜を思い出した。スピリット・オブ・レインの力を制御しきっていなかったあのとき、身体を震わせながらじっと耐えていた子供の姿を。足下で喚く子供とイコールで結びがたいその姿を思い出し、ビルを大きく息を吐く。
「売れなかったらすぐに切り上げるぞ」
「え、マジ? やったー!」
「ハオ様にバレても知らないよ」
そう言いつつも、ブロッケンはホロホロの作った工芸品にアドバイスをする。造形物を製作する者として通じるところがあるのか。芸術方面には疎いビルには知るよしもなかった。
「パンダがいいぞパンダ。パンダのかわいさはは全国共通だからな」
「色塗らねえしヒグマと似たようなもんじゃねえ?」
「違えよ全然違え!!」