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鯖男
2022-05-17 23:10:35
2656文字
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くじびきチョコ+ホロ
チョコとホロがおしゃべりする
ホロケウたちが訪れたのは、大陸の中央にほど近いことから商業都市として成長した国だった。
様々な人間が様々な思惑を持って、ものを売買する。否。ものでなくてもいいのだ。労力でも情報でも。カタチがないものもここでは立派な『もの』となる。
様々な人がいた。まさに人種の坩堝。ホロケウも珍しい髪色と瞳の色を持つが、ここでは埋没していく。
軽快な足取りが石畳を叩いていく。たなびく額の布と外套は獣の尾のようにしなやかだ。人々の隙間を通り抜ける様は、獲物を追いかける狼そのもの。
目的地はすぐそこだ。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
従業員の威勢のいい声が通る。
「一人。『魚とバナナのスープを鍋いっぱいに』」
「
……
トッピングは?」
「『笑えるくらい山盛りのマッシュポテト』」
「かしこまりました! 中央席にどうぞ!」
ホロケウの目的地は酒場だった。
丸テーブルが乱雑に置かれ、それぞれのテーブルに置かれた椅子も個数がバラバラだ。カフェや食堂と異なり、整頓とは無縁のように思える。だがそれもそうだろう。酒場に集まる大半はお行儀があまり良くない旅人か商人だ。情報交換を手短に行い、ついでに酒を呑んで脳をふやかしていく荒くれ者が多かった。つまり整理整頓しても次の瞬間には酒をひっくり返されている。
今日も既に出来上がっている者が何人かいた。ふらつく頭から数分後には夢の中であろう。これから行うことを考えると丁度よかった。
中央のテーブルには蝋燭立てが一つ置かれていた。
店の決まりとして、乱雑に置かれた丸テーブルだとしても、この蝋燭立てがあるテーブルが中央と定められていた。
ホロケウは中央のテーブルにつき、手持ち無沙汰に周囲を眺める。
幾何学模様が描かれたランプシェードがオレンジの灯りに照らされ、周囲に模様を写し出していた。ランプシェードは各々のテーブルに設置されたものであり、写し出された模様は幾重にも重なっていく。普通ならば模様がチグハグとなり歪さが出てくるが、ここで写し出されたものは計算され尽くされた美しいアートとなっていた。
店主の故郷のものか。
人種の坩堝たる商業都市において、故郷の感じさせるものを置く者も珍しくはない。そのランプシェードはホロケウの記憶にはない。まだ行ったことのない西の伝統工芸か。いずれ行く土地である。ホロケウは店の天井に写し出された美しい幾何学模様を瞳に焼き付けた。空色の双眸とオレンジの灯りが交差し、瞳が強く煌めく。
「おう、待たせたな」
「いいや、時間ぴったりだぜ。チョコラブ」
ホロケウの正面に座ったのは、サングラスをかけたホロケウと同じ年頃の少年だった。
「とりあえずコーラ飲ませてくれ。喉が渇いてしょうがねえ」
「んじゃ俺もなんか頼むか。すんませーん」
手を上げ、店員を呼ぶ。飲み物と簡単な軽食を頼み、チョコラブは今やっている仕事について話し始めた。
チョコラブは何でも屋を営んでいた。何でも屋は名前の通り何でも請け負っていた。店番や年配者の買い物草むしり、教会の手伝いなど。基本現金支払いだが、支払い能力によっては物資でもいいというのだから、自由すぎる。
昨日は猫探しに夜までかかった。黒猫だから本当に大変だった。今日の明け方にようやく見つけられて胸を撫で下ろした。え、明け方はぎりぎり昨日だろ。久しぶりに会ったんだ。んな厳しい判定するなよははは。
サングラスで瞳が見えないと言うのに、身振り手振りのひょうきんさが大道芸人を彷彿とさせる。チョコラブという男は厳つい風貌でありながら、人の懐に入る愛嬌があった。ホロケウもその愛嬌で懐に入れてしまった一人である。
「お、ここのパン美味いんだよな。小麦が良いんだな」
コーラで喉を潤し、チョコラブは黒パンにかじりつく。
「コーラって合うのかよ
……
?」
ホロケウは無味の炭酸水だ。口の中で弾ける刺激を楽しみながらも、目の前の食べ合わせに舌を出す。
「コーラは何でも合うだろ。試してみろよ」
「遠慮するわ」
手を振ればチョコラブは「まあ個人の自由だしな」と引き下がる。無理に言ったところでホロケウが考えを変えないことを知っているからだ。
「そういや最近気候が悪くて作物が育たねえって婆さんぼやいてたっけな」
チョコラブはコーラを飲んでからローストビーフをフォークで突き刺す。
「あー、曇り多かったよな」
「来週辺り晴れたらいいんだけどな」
「そればっかは神しかわかんねえなあ。いや、もしかしたらピノならわかるかも」
祭司は占いもできると聞いていた。ただ国でかなり上の地位である祭司を天気予報扱いするのはさすがにまずい。
「ピノって祭司様だろ。何、知り合い?」
「ちょっとなー」
深く突っ込まれないうちに話を切り上げる。
そうこうしているうちに、チョコラブはコーラを飲みきってしまった。
「いやー食った食った。久しぶりに会えて楽しかったわ。また予定合えば会おうぜ」
「そうだな。また連絡する」
ホロケウは席を立つ。軽く手を振り、二人は別れた。
路地裏。
太陽が差し込まないそこは酷く湿っていた。
ホロケウは先ほどの会話を思い出す。
チョコラブは何でも屋だった。
そして情報屋でもあった。
チョコラブは情報屋として信頼も戦闘力も高い。以前の縁から連絡を取ったが、まさか簡単に繋がるとは思っていなかった。
ホロケウが依頼したのは『周辺国のきな臭い動きについて』
先ほどの再会と近状報告は依頼内容だった。
「お、ここのパン美味いんだよな。小麦が良いんだな」
「そういや最近気候が悪くて作物が育たねえって婆さんぼやいてたっけな」
「来週辺り晴れたらいいんだけどな」
この辺りで小麦が名産と言ったら乾燥期が多い小国の一つだ。ここ商業都市からそんなに離れてもいないだろう。
そしてここ最近は穏やかな気候で、チョコラブが言うようなものではない。そこでホロケウは見方を変える。
「作物が育たない」というのは天気以外の原因ではないか。
そういえば、と過去を遡る。
以前、土地が痩せ細った国が背に腹は代えられないと、強奪まがいの戦争を企てた、と命からがら逃げてきた商人から聞いていた。ただ商人から見てもそれが戦争ではなく、夜盗のそれだったと証言していた。その国が次に狙うのは小麦を名産とする小国なのではないか。
「来週辺り晴れたらいい」というのはリミットか。来週までに蹴りをつけろとは無茶を言う。
だがその無茶を通すのは嫌いではなかった。
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