鯖男
2022-05-03 15:24:03
2092文字
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グッドボーイは果たしてどちらか

診断で出たピノホロ

涙が滲むほど鮮やかな空の下、シャーマンファイト参加者達は生き返った。
グレートスピリッツから追い出された、と言ってもいいだろう。
所詮肉体を持つ人間如きが、王になるのは不可能だったのだ。
王となった少年は笑う。人を忌諱し侮蔑に満ちた歪んだものではなく、小さくとも未来を作り出す者達へ嘲りと少々の労りを込めて。そして送り出す。小さき者達を現世へと。

孤島への帰りは小山田グループの船を使った。
大半は大破しているが、萬純が乗っていたものはなんとか生きていた。足りない推進力はオーバーソウルで補えばいい。萬純も了承した。思えば萬純は恐ろしいまでに商売人だった。怪しいものには手を出さず、さりとてその怪しいものの力が確かならば使用するのもやぶさかではない。柔軟であり狡猾。幸いなのはシャーマンファイト参加者に商売人はおらず、萬純の恐ろしさが一ミリも伝わっていなかったことだろう。
それはさておき。
参加者全員とサポーターを乗せた艦船は風を切って進んでいく。左右に配置された天使達がバランスを保ち、推進力を上げていく。このスピードならば日が落ちる頃には本州に辿り着いているだろう。
最早乗客にはやることはない。各々散り散りとなっていく。

甲板では男が一人、海を眺めていた。愛用のコートは今の気温では着る気にもなれず、腰に巻く。剥き出しの肌に当たる風が、火照った身体をゆっくりと冷やしていく。
微かに漂う潮風は故郷のものと異なるが、不思議と嫌いになれなかった。
以前ならば他国に関するものは無関心か拒絶の二択だったというのに。それは極寒の中で生きてきたという矜持だったのかもしれない。「自身が一番強いのだ」と虚勢じみたそれ。今となってはみっともない。だがそれも自分なのだ。みっともなくとも嫌いになれない。
嫌いじゃないものが増えたもんだ。
自身の心境の変化に、ピノは小さくため息を漏らす。
「随分とセンチメンタルだな」
「馬鹿言え」
カジマヒデの声かけに軽口で応える。
「まああれだ。嫌いじゃないものが増えるのも存外いいなと思っただけだよ」
「そりゃそうだろ。辛いだけだと長い人生生きられない」
長い人生辛いだけだった今の王様は、果たしてどうだったのか。
ただの人間なピノにはわからなかった。
「ところでお前いいのか」
「何が?」
「あれ」
カジマヒデが親指で示すのは甲板で騒ぐ少年達だった。
聞いた話では数合わせのチームだったが、今ではそんなデマ流す者はいないだろう。それほどまでに少年達の絆は強固に思える。
その中でピノの視線を引くのは一人の少年──ホロホロだった。
国は異なれど、同じ氷を操るシャーマン。仲間意識を持っても不思議ではない。だがこの頃のピノには周囲は敵でしかなく。ホロホロも同様に敵だった。
ピノのシャーマンファイトの終わりと共に、強固なだけの矜持は打ち砕かれる。
「もう帰るのか」
「オレのシャーマンファイトは終わったからな」
「せっかく知り合えたのにな」
挨拶代わりに攻撃されたというのに、ホロホロの言葉には棘がなかった。それどころか残念そうな不満そうな年相応の顔が印象に残る。だからつい水を向けてしまった。
「どうしても連絡したかったら国際電話していいんだぜ」
「めちゃくちゃ金かかるって聞いたんだけど」
「旅費より安いだろ」
「違いねえ」とくしゃりと笑う。思えばシャーマンの修業を始めてから、チームメイト以外でこんな雑談をしたことがなかった。これが余裕というものか。存外悪くない。
年の離れた友ができた瞬間だった。
氷の世界で一人立つホロホロの姿は、雄々しくどこかもの悲しかった。
身体が動けば自身が隣に立つというのに、意識ばかりが急ぐばかり。指一本すら動かせない自身が恨めしい。
意識が途切れる瞬間、ホロホロは振り返る。刺すような双眸は氷を連想させた。勿論ピノ達に向けているものではないのは理解している。それでもイコールで繋ぐことができなかった。ホロホロは氷を操るが、本人の気質とは全く合わないと思っていたからだ。
お前、そんな目もできたんだな。
完全に興味を持った瞬間だった。
「嫉妬とかしないんだな。好きなんだろ」
「ガキんちょの戯れに嫉妬してたらキリねえだろ。つーか好きとか言うなよむずがゆい」
「大人になったもんだ」
鷹揚に頷くカジマヒデを拳で小突く。だがヴァイキングの鍛え抜かれた身体には、蚊ほどの威力もない。
つーかよ。
途端に風が吹き、音が掻き消される。だが隣にいたカジマヒデにはピノの言葉が聞こえた。聞こえてしまった。

「最終的にはオレの隣に戻るだろ」

根拠はあるのかないのか。カジマヒデにはわからない。
だがピノは妄言を吐くような男ではないのは、チームメイトとして知っていた。
「あ、ピノとカジじゃん。何してんだー?」
話題に上がっていた少年が、二人を確認するやいなや駆け寄ってくる。まるで犬のようだった。尻尾があれば激しく振っているに違いない。
ほらな? と言いたげなピノの視線を受け、カジマヒデは目を逸らす。
いや、好きだろ。