鯖男
2022-04-11 10:23:59
1043文字
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ワンナイト彼女を弁明するピとそれを聞かされるホ


「だから違えんだって!」
日も陰り、遠くの空から藍色が朱色に覆い被さる。夜の訪れだった。徐々に静寂が増していく夕暮れ時、とある木造学校で男の声が響く。
トウモロコシの王様と名付けられた食堂。そこは打ち棄てられた木造学校を、シャーマンファイトのために改装された中立地帯だった。
四人掛け席やカウンター席でちらほらと参加者が雑談をしていた。中立地帯なのだ。ここでは変に気が立ってる者も少ない。
だというのに、壁際のカウンター席ではぴりぴりとした気配が立ちこめていた。
といってもぴりぴりしているのは一人だけだ。もう一人は手元のコップに挿されたストローを、手持ち無沙汰にくるくると回していた。
「お前だってわかるだろ。修行してたら彼女作る時間あるわけねえじゃん。でも健全な男だし? 溜まるもんは溜まるじゃん。それだけだって」
弁明しているのはピノ・グレアム。アイスメンの若きリーダーである。長身や整った風貌、高い矜持に見合った努力家な一面。どれをとっても女性人気は高かろう。弁明されている少年はストローを囓りながら、つらつらと思う。
「いや、俺何も言ってねえんだけど」
弁明されている少年──ホロホロは睥睨しながら答えた。元々目つきは良い方ではないことは理解していた。だが気にしてもいないことを延々と弁明されれば、いい加減不機嫌にもなる。空色の双眸がピノを捉えた。だが今は空よりもゆっくりと冷やされた透明な氷の色に近い。ゆっくりと冷やされていくホロホロの心情そのものだった。
「別に俺は、お前がその場限りの彼女作ろうといいと思うよ。ただ俺には理解できないだけで」
否定はしないが、理解ができない。
その一言で終わってしまう。
ホロホロという少年は一途だった。
健全な少年として、魅力的な少女がいれば目移りすることはあれど、心に決めた人は揺るがない。心の大切なところに座る人が変わることがないのだ。
それを他人に強要しようとは思わなかった。
他人は他人である。
会話し、共有しようと思わないところが『冷めている』と決定づけられる点なのだが、最早根幹と呼ぶべきものなので変えられなかった。
「今はお前だけだ」
「いや、そういうのいいんで」
顔を寄せるピノを手で制す。
喉を潤わすはずのオレンジジュースの刺激がいやに強かった。まるで傷口に当たるようで、じくじくとする。ホロホロは痛みに耐えるよう、一息で飲み干した。疼痛は喉だけなのだろうか。
幼い日から心が止まったホロホロにはわからなかった。