鯖男
2022-04-07 20:42:34
1026文字
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大人と子供の差

大人のピノと子供の自分の差にもやもやするホロホロ

例えば手の大きさ。
骨張った手は大人のものだ。角張った爪は柔らかさなど微塵もない。
例えば口の大きさ。
青年の手には三日月型のハンバーガーが収まっている。
例えば歩幅の大きさ。
青年の一歩は少年の二歩だ。歩けば歩くほどその差は広がる。
愛用の杖を握る手を見る度に。
カタチの良い厚い唇を見る度に。
最早嫌味にならないほど伸びた足を見る度に。
少年は悔しげに目を細める。
自身と青年との間には、埋められない時間があった。

東京の名もなき無人島。
そこは都心の領地にも関わらず、自然豊かな島だった。時間が止まっているというべきか。今や見ることが少ない木造平屋が軒を連ね、道は土が剥き出しである。ホロホロは以前、社会の教科書で読んだ昭和の町並みを思い返した。
空は夜色に染め上げられ、無数の星が夜色の布を飾り付けている。一際目立つのは白い月。空に切れ目が入ったように見える。もうすぐ新月だ。
寂れた民家が集う大通りはひどく静かだった。だからこそ最後の会話には相応しい。少なくともホロホロはそう思っていた。
「明日、いや今日か。朝一だっけ、船」
「東京から地元まで一四時間以上掛かるしな。船の時間入れたらそれ以上よ」
白い息を吐きながらピノは言う。そこには恨み言は含まれていない。大会前の強者の風格ながら、どこか危うさが見え隠れしていた青年はそこにはいなかった。
「地元帰ってどうすんの、ドルイドの修行?」
「さすがに今の時代、ドルイドで喰っていけねえしなあ。適当に就職すっかな」
「ふは、なんの仕事やんだよ」
「あー、特になあ。ジーンズ好きだし服屋とか?」
「適当じゃん!」
「こんくらい適当でいいんだよ。命掛かってるわけじゃねえんだから」
ぱち、と目の奥が眩しく、ホロホロは瞬きをした。きらきらとしたピノの顔。それは未来へ想いを馳せる若者のものだ。戦いに敗れたからといって、ピノの人生は終わらない。むしろ『ドルイドのピノ』と平行して『ピノ・グレアム』の人生が始まったと言っても過言ではないだろう。
「お前は良いとこまで行けよ」
「ざけんな優勝だわ」
「優勝しろよ」とは言わないピノに舌を出す。だが言われたら言われたで、背筋を指で撫でられたような悪寒があっただろう。
結局ピノという男は、ホロホロの対応が上手いのだ。
ホロホロは気恥ずかしいような、越えられない壁に辟易したような複雑に顔を歪め、ピノから顔を背けることで自身のプライドを守ったのだった。