鯖男
2022-04-06 00:49:46
2105文字
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ハオホロ書いた

ホロホロに火傷の痕残しまくるハオ様

じくじくと痛む傷口に男が笑った気がした。

うち捨てられた無人のコテージ。
最初に口を開いたのは蓮だった。
「貴様、いい加減にしろ」
蓮の硬質的な視線がホロホロを貫く。チョコラブも何か言いたそうに口元を歪ませていた。
思ったより放置されてたな。
ホロホロは双眸は細め、息を吐く。心音は変わらない。仲間に問い詰められても、思った以上に落ち着いていることに安堵した。
蓮たちの対応は、ホロホロから話すまで待つという信頼のカタチだったのだろう。だが元々短気の毛がある蓮だ。堪えきれない感情が零れしまった。チョコラブも止めないところから同じ気持ちかそれに準ずる想いか。
「服を脱げ」
……男の裸なんてキョーミあんのかよ」
はは、と軽く笑えば、蓮の視線は更に厳しくなる。見え見えの挑発を受け流せないほど、苛立っているのか。腕組みした指が腹ただしげに腕を叩く。
「まあまあ、ちょっと上着脱いでもらえりゃ、俺も蓮も納得するからさ」
な? と人好きの顔でチョコラブが提案をした。だがこれは提案ではなく、強制とも捉えられる。
というより強制だった。
断れば刃が、爪が、襲いかかってくるのは明白だ。
ここまでか。
諦めのため息が零れる。傍で大きな瞳を震わせるコロロを指先で撫で、口元だけで微笑んでやる。コロロが責任を感じる必要はないのだ。すべてはあの男を突き放せない己の弱さである。
コロロは目を伏せ、姿を消した。その姿がどこか思い出の少女を彷彿とさせ、ホロホロの心に小さな棘を刺す。
「ホロホロ」
……わーったって」
着慣れたウェアのジッパーを下ろした。普通に着替えるように。なんでもないように。
そしてウェアを脱ぎ、肩にかける。普通に暑い日のように。なんでもないように。
白日の下に晒された上半身は異常の塊だった。なんでもなくはなかった。
最初に目につくのは首元、肩、横腹、二の腕。至る所に巻かれた包帯だった。そして包帯が巻かれていない箇所には無傷とは言えない。小さな熱傷があちらこちらと点在していた。こちらもガーゼなり処理されていたら、ホロホロの上半身は包帯だらけとなっていただろう。
また今までどう隠していたのかと疑問視するほどの刺激臭に、チョコラブの眉間に皺が寄る。
「チョコラブにはきついだろ」
「おま、このニオイどうやって隠してたんだ」
「パッチの伝統工芸?」
肩を竦めておどけるも、蓮の視線は一向に和らぐことがない。それどころか、チームには言わず、中立とは名ばかりのパッチに相談する。その事実が明るみに出たことが、蓮の機嫌を更に悪くさせていた。
「その傷はなんだ」
「内緒、って言ったらどうする?」
「パッチ族には言うのにか?」
「毎回ファウストに治療してもらったら、どっかしらでお前らの耳に入っただろ」
だからパッチ族に──。
言い終わる前に蓮はホロホロへ背を向ける。完全なる拒絶だった。
「そうか。なら俺はもう何も言わん」
「蓮」
「助かる」
「ホロホロ!」
チョコラブの停止の声を聞きながら、ホロホロはコテージを後にした。
これ以上話あっても平行線なのは分かりきっていたからだ。
夜も更け、月すら出ない暗闇を一人歩いて行く。コロロすら置いてきたのだ。
一人。
独り。
「やあ、星でも見に行くのかい」
透明な声はすぅと心に届いていく。ホロホロは疼く傷口を撫でながら、声の主を睥睨した。
「──ハオ」
「独りっきりなんて不用心だよ。僕が旅館まで連れて行ってあげようか」
敵意なんて全くない微笑みのまま、ホロホロへ差し出された手。ハオを全く知らない者からすれば親切な少年の手なのだろう。だがホロホロにとって、その手は自然災害とも呼べる人間にはどうすることもできないものだ。包帯の下の、薬草の下の熱傷がじくりとホロホロを苛んでいく。
手を取ることはできなかった。揺れる瞳と浅い呼吸。ハオが笑う。
「そんなに怯えないで。かわいいな」
両手で壊れ物を扱うかのように、ハオはホロホロの手を握る。赤い炎が二人の手を包んでいく。熱はか弱い人間の皮など用意に溶かし、中の肉さえ焼いていく。それは鋭い刃物を思わせる痛みだった。息ができない痛みだった。
「───っ!!」
「大丈夫。いつも通りの火傷だよ。またパッチに頼んで薬を塗ってもらおうね」
膝から崩れ落ちるホロホロを支え、いいこ、と頭を撫でる。そしてそのまま頬を撫でた。掌から伝わる人並みの体温に悲しいような気がして、涙の膜が張る瞳を強く閉じる。
指先から手の甲にかけて、斑に火傷痕が残された。痛々しいまでの火傷がまた増えた。ハオは出来たての火傷を指でなぞる。息を詰まらせるホロホロなどお構いなしに、ゆっくりと丁寧に撫でていく。
「ホロホロ。この痕を見る度、僕を思い出せ」
まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるような声に、ホロホロは内心で舌を出す。心が読めるハオならばそれで伝わるだろう。
何度拒絶しても痕をつけに現れる男に、ホロホロは関心を向けさせようとする子供を見ていた。
ただそれだけ。
それだけで突き放せなくなっていた。
あーあ、救えねえなあ。俺もお前も。