鯖男
2022-03-31 22:39:43
1406文字
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ホの料理をピが食べる話

※ホロホロが実家で料理当番なのはうちの設定です

太陽の光を浴びた真っ赤なトマトと、その赤を更に鮮やかに見せる瑞々しいパセリ。
真っ白な皿の中央には、楕円に盛り付けられたチキンライスが鎮座していた。
鼻孔を擽る豊かな香りに、青年なりたての男の腹はぐうと鳴る。だがここでつまみ食いでもしようものなら、最後の仕上げに取りかかっている少年にヘソを曲げられるだろう。年上ということもあり、青年は口に溜まった涎を静かに飲み込む。
青年の葛藤など知らず、少年は熱したフライパンに卵液を流し込んだ。ちわわわ、と音を立てながら周囲の卵が固まっていく。全てが固まらないよう、ヘラでゆっくりかき混ぜながら頃合いを見て火を止める。
口で説明すればそれだけなのだが、動きに淀みがない。作り慣れた証拠だろう。同じように青年が作ったとしても、料理など作ったことのない身だ。ここまでスムーズに動けない。
振り返った少年はある程度固まった卵を、チキンライスの上へ滑り落とした。そしてペティナイフで切り込みを入れていく。刃先で器用に開いていけば、大輪の花が咲いた。鮮やかな黄色なのでタンポポのようだ。
「ほら、ご希望のオムライス」
皿の傍らにスプーンを添え、じゃーんとでも言いたげに両手で差し出す。
「ホロホロ、お前本当に料理できたんだな……
青年──ピノは雑誌でしか見たことのない焦げ一つないオムライスを見ながら、何度も頷く。
正直なところ、あまり信用していなかったのだ。普段の性格といい、戦いの大雑把さといい、繊細な料理と結びつかない。料理として出してきたものが野菜を煮込んだだけのスープでも、年上の寛大さで褒めてやろうじゃないか。自身は料理をしないくせにそんなことを思っていた。結果は予想に反しており、傲慢にも捉えられる言葉をしずしずと引き下げたのはピノだけの秘密だ。
「実家じゃ俺が料理当番多いからな」
フライパンなど使用した器具を洗いながら、ホロホロは答える。
「日本ってそういう感じなん?」
「おふくろは出てったし、親父の仕事シフト制だし、ピリカは洗濯やってもらってるし、俺だけ何もやらねえわけにはいかねえだろ」
ふうん、と一言。話の転換として言葉を漏らす。
「ほら、温かいうちに食えよ」
洗い物が終わり、エプロンを椅子に引っかける。そして向かいの椅子に座り、にやにやとチェシャ猫のような小憎たらしい笑みを浮かべた。
ピノは促されるまま、オムライスを口へ運ぶ。半熟の卵のまろやかさとチキンライスの甘みと酸味が口の中で混ざり合う。次から次へとかっ込みたい衝動をどうにか抑え、端から食べ進めていく。
そういえば、と。ここ最近、ただ焼いただけの肉や、煮ただけのスープしか食べていないことに気づいた。
「なあ、美味い?」
「美味いよ」
美味い、と重ねて言えば、ホロホロは目を細め、「そうだろう」とゆるりと笑う。普段の快活な笑みではないソレは、なんとも特別なものに思え、視線が逸らせなかった。


「今度アイリッシュシチュー作ってくれよ」
「普通のシチューとは違ぇの?」
「肉がラムなんだよ」
「普通のシチューの作り方と一緒か?」
「レシピあるからさ」
「英語じゃん!」
「頑張れよ学生」
「んー……じゃあさ、ピノがレシピ読んでくれよ。そしたら作るからさ」
「それなら他にも作ろうぜ。簡単なやつなら手伝えるし」
「じゃあそのレシピも教えてくれよ。一緒にやろうぜ」
「よっしゃ、一緒にな」