鯖男
2022-03-18 21:51:21
2215文字
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ピノホロした3

最後の互いのセリフが一番書きたかった場所です。とりあえずひとまず終わりで。

このままシャワーの音が途切れなければいい。
ホロホロは半ば本気でそう思った。
そうなればこの後起こるであろう出来事も有耶無耶にできよう。
そんな子供じみた夢想をしながら、ベッドの上で胡座をかく。タオルで乱雑に拭いただけの髪から水滴が落ちた。もう冷え切っており、ベッドにシミを残す。これから水滴以外のシミも残すこととなるのだろう、とどこか他人事のように思うのだった。
シャワーの音が止んだ。瞬間、ホロホロの心臓が飛び上がる。
本気でするのだろうか。以前は性器の触り合いや戯れるようなキスしかしていなかった。その先へ行くのか? この成長しきった男の身体に興奮するか?
様々な疑問が、大して大きくもないホロホロの頭を圧迫していく。そして洗濯機のようにぐるぐると回り出す。同じ場所をぐるぐるぐるぐる。頭に被せたタオルで視界を遮る。それは外界と遮断させる壁のようだった。
「なんで髪拭いてねえしパンイチなんだよ。風邪ひくぞ」
ふとかけられた声に意識が戻ってくる。タオルをずらせばベッドの前で仁王立ちをしたピノがいた。ホロホロとは違い、上半身は裸だが、下はジーンズを穿いている。引き締まった身体と相まって随分と様になっており、映画のワンシーンのように思えた。
……なんで下穿いてんの」
なんてことはない。ただのやっかみだった。ピノはそれを理解しており、いやらしく目を細める。
「えーホロホロくん、そんなにエッチしたいの? スケベー」
「お前が「エロいことしたい」って言ったんだろ!」
「そうだな」
どれだけオレがお前のことが好きで、エロいことしたいか教えてやる、って言ったもんな。
吐息混じりに耳元で囁かれる欲の言葉。背筋に走る痺れは甘く官能的だ。紅潮する頬は行為に慣れていない処女のようで、ホロホロは咄嗟に顔を背ける。だが髪から覗く耳の赤さは隠しきれていなかった。
「ほら、顔寄越せ」
「っ、」
ピノはホロホロの唇を甘噛みし、合わせに舌を当てる。突き出された唇は言い返せなかったときの癖だ。大人になっても変わらない癖に愛らしさを覚え、口元が緩むのを抑えきれない。ホロホロが見ていたら訝しむだろうが、生憎そんな余裕はなかった。というのも、恥ずかしさからか瞳は固く閉じられ、ピノが好んでいる空色の双眸が見えなくなっていたからだ。
思えば以前から挨拶程度のバードキスですら恥ずかしがる男だった。最初は嫌なのか、と思ったものだが、辿々しいながらも応えようとする態度でその考えは捨て去った。
そのうぶな反応は、普段のホロホロを知るピノとしては好ましい。有り体に言えば興奮したのだ。
ノックのように何度か唇を叩けば、ゆるゆると開く。この招かれる瞬間もピノは好きだった。身体を割り開くことを理性で抑えていた昔に、唯一許された交わりだ。本音を言えば、その頃から無茶苦茶に荒らしてやりたかったが、倫理や道徳がピノにブレーキをかけていた。だが今はそのブレーキはなくなっていた。壊れていた。大破していた。
ホロホロが成人したからだ。
「っんぐ、──っは、?」
驚愕にホロホロの双眸は見開かれる。見つめる先は藍鼠色の瞳。うっそりと細められるそれは愛おしさと熱が込められており、自身は自身が思っている以上にピノに愛されていることを理解した。同時に未だ欲の対象になっていることを知り、身体が震える。
「ん、んぅ……
鼻がかった声は仔犬の鳴き声のようで。
普段ならば呼吸の余裕は与えてくれる。だが今日はそれはない。ピノの壊れたブレーキにより、相手をキスで溺れ死なせるとしても、自身の欲を優先させていたからだ。
少し舌同士を擦り合わせて終わり。それがホロホロにとってピノとのキスだった。
だがコレは何か。
口を開けた瞬間舌先を擽り、カタチを確かめるように舌全体を舐め取っていく。シャワーから上がって冷え切ったホロホロの身体にとって、シャワー上がりのピノの舌は火傷するほど熱かった。ピノの熱が伝染し、互いの腔内が熱くなる。
舌の味見が済めば今度は腔内だ、と言わんばかりに厚い舌が傍若無人に蹂躙していく。溢れ出る唾液はホロホロの喉を滑り落ち、臓腑を灼いていった。熱くて熱くて狂いそうな熱。ホロホロは反射的にピノの肩を突き放そうとするが、一手早くピノはホロホロの頭を掴み、引き寄せる。獲物が逃げようとしているのだ。当然の行為であろう。
なぶって、ねぶって、骨抜きにする。
──未だ満足には至っていなかったが、ホロホロの滞在時間などを加味し、口を離す。
名残惜しげに唾液が銀の糸のように燦めき、互いを繋いでいた。だがそれはすぐさま切れる。
「っあー、たまんねえ……
口端から垂れる唾液を指で拭い、ピノは感嘆の声をあげる。散々我慢してからの褒美だったのだから、感動もひとしおであろう。
「で、お前はどうだったよ」
ピノからの言葉に、ホロホロは唇を震わせる。
愚問、だった。
初めて出会う快楽の津波は、呆気なくホロホロを飲み込んでいった。今まで手加減されていた事実と、それより上の快感を容赦なく叩きつけられ、身体の芯が疼くのがわかる。
ホロホロはシーツを掴み、膝を擦り合わせる。ここにきて下着一枚なのが裏目に出てしまった。下着に視線が行かぬようシーツをたぐり寄せ、唇を突き出す。
「こ、こんなの知らねえもん……
「そうかそうか。じゃあ今度はもっとすごいのしてやるからな」