作りがしっかりとした外国製のベッドとはいえ、長身の成人男性二人が寝転がれば悲鳴を上げる。二人の肩がびくりと震えるも、音からしてすぐさま底が抜けるほど大事ではない。ベッドの持ち主であり家主であるピノは、喉奥で笑う。
青年と致すとき、格好つける必要がなかった。このくらい間が抜けてて丁度良い。
ピノはベッドの上で膝立ちになり、寝転がる青年の顔の脇に両手を突いた。まるで『待て』をされている犬のようだと自嘲する。無理矢理暴くのも青年限定で嫌いではなかったが、今日は優しく蕩かしたい気分だったのだ。青年が合意の意思を示してくれたのならそこからスタートである。
簡素な窓から差し込む月明かりが二人を照らす。部屋や二人が一瞬で青く染まるこの瞬間、ピノは嫌いではなかった。
青影の濃淡で浮き上がるのは、昼間の騒がしさは成りを顰めたホロホロだった。少年期を終えた青年期まっただ中の成人男性だ。
トレードマークのバンダナは首元に下ろされ、剥き出しの額にはざんばらな前髪が落ちる。それだけで随分と幼く見えた。
「今回もよく一人で来れたな、ホロホロ。お兄さんが褒めてやろう」
額に唇を落とせば、くすぐったそうに笑う。そんなじゃれあい。
「いくつだと思ってんだよ馬鹿……っあ、」
滑らせるように脇腹を触れば、漏れるのは小さな声だった。鳴き声と言っても差し支えない。ただ擽っているだけならそれで仕舞いだ。だが明らかにピノの手つきには欲が含まれていた。
欲を含んだお伺いだった。
ホロホロにはそれが理解できてしまい、口元を震わせる。羞恥からか、怒りからか。願わくば前者が良いものだ。ピノはホロホロの首筋に顔を埋め、他人事のように思った。
「っあ……ちょ、待てって……なあ、」
「明日には帰んだろお前。なら余裕なんかねえって」
欠乏していたホロホロのニオイを堪能してから、甘噛みする。昔よりも筋張った肌は存外かみ応えがよかった。あ、あ、と壊れかけた機械のように途切れ途切れの声は随分と憐れで興奮する。
「だから……待てって! 無理に抱かなくていいんだよっ!」
「…………は?」
口から出たのは間の抜けた声。こういう間抜けなのは求めていない。
遠距離だからこその別れが脳裏を横切る。そこまで崖っぷちだったとは知らなかった。ピノは生唾を飲み、呼吸を整える。過去の経験から動揺した方が負けと骨身に染みていた。
「何言ってんだお前……」
「俺、こんなにゴツくなっちまったし、抱き心地悪いだろ」
ホロホロの目は真剣そのもので、願うことならその視線は手合わせのときに向けて欲しいものだった。
「………………は??」
確かにホロホロは成長した。七年前はピノの肩にも届いていないほどだったが、今は目線が少し下なぐらい。そして体つきも、以前はぷにぷにした腹とまだ成長途中の華奢な四肢。今は農場に携わっているからか、逞しく成長していた。
だがピノにとっては同じホロホロだ。逆に成長した今だからこそできることなどもある。しかしホロホロはそんなこと考えも及んでいない。
それを理解した瞬間、ピノの長くもない堪忍袋の緒が音を立てて切れた。
キレた。
「は~~~~~~~?? おま、まさか今の今までオレがショタコンだと思ってたんか????」
「違うのか?」
「っちっげえよこの阿呆ホロ!!!!」
馬鹿だ阿呆だと思っていた青年が、本物の阿呆だとは思わなかった。ピノは頭を抱えたままベッドへ落ちた。その間に挟まれたホロホロが「大丈夫か」と声をかけるも返事などはない。ピノなりに愛情表現してきたはずだったのだが、一ミクロンも伝わってなかったのだから当然だった。
そして数分後、ゆらりと立ち上がる。その姿はまさに幽鬼。視線はまさに氷。口元の微笑が恐ろしさを倍増させ、さすがのホロホロも自身に失言があったことを理解した。だがどこが失言だったかわからないので、曖昧な笑みで応える。
「オレが悪かった。ちゃんと言ってなかったもんな」
「いや、いや~~俺の方こそなんか悪いこと言ったみたいで~~ごめんな?」
「謝るなよ。これからしっかり教えてやる。今も昔もオレがどれだけお前が好きで、どれだけエロいことしたいか教えてやるから」
だからさっさとシャワー浴びて来いよ。
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