鯖男
2022-03-11 22:59:54
1227文字
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カリホロ

※ホの家族模造(特に母親)
カリホロがちゅーするだけ。気が向いたら続き書く。

ホロホロはキスが好きだった。
それは幼少期、顔も朧気な母が愛情表現として頬にしてくれたものに起因する。
ホロホロの母は一般家庭の出であり、父の民族のことも理解はあった。父も母を愛しており、多少の衝突は一般家庭とそう変わりない。
狂いが生まれたのはホロホロが物心ついた頃だ。
今にして思えば、母は民族の妄執について行けなかった。だが父を愛していたし、子も愛していた。母を繋ぎ止めていたのはそれだけだった。
一族が神として崇める狼の名を持つ自身の子。
その子が将来、一族を背負って生死をかけた戦いに挑む。
一般人として蚊帳の外だった母は、そこでようやく自身はどんなところに嫁入りしたのか知ったのだ。理解など甚だしい。
ホロホロは一族の長であり、義父が目を光らせている。母には見えないが、恐らく無数の霊が一挙一動を監視しているのだろう。連れて逃げるのは不可能だった。
ならばせめて妹だけでも。母は乳飲み子であるピリカを抱き上げ、僅かな金銭を鞄に詰め込んだ。
──だが、できなかった。
ピリカが泣くのだ。
隣で眠る兄の服を掴んで泣くのだった。『火がついた』とはまさにこのこと。柔らかな手で兄の服を懸命に握るその姿に、母は自身の視界が歪むのを感じた。
結局、母はホロホロとピリカを置いて一族から抜けた。脱出した、と言っても過言ではない。
離婚は滞りなく行われた。父も理解していたのだ。
一族の妄執で、自身の愛した女が病んでいく様は見たくはなかった。
話はそこで終わりだ。
つまりキスとは、ホロホロにとって数少ない母との思い出だった。


ひたり、と男の頬に触れる。勿論自身の頬のように柔らかくもないし、滑らかではない。それどころか指先がちくちくとする。朝剃ったであろう髭が、少しずつ生えてきているのだろう。そんなところに自身との年齢差を感じた。
まずは、と自身の唇を男の頬へ触れさせた。リップ音なんて鳴らせない。そんな慣れた行為ではなかった。ただ朧気な記憶を頼りに、母がしてくれたキスを再現しただけだ。
角度を変え、再び唇を落とす。少々ざらついた肌が唇の薄皮を刺激する。ちらり、と男の反応を伺った。しかし男の顔は平静そのもので、視線が合った瞬間、瞳の奥に柔らかいものを感じた。恥ずかしいような、こそばゆいような。それが『慈愛』と呼ぶべき感情なのかは、このときのホロホロにはわからなかった。
……カリム」
甘えている自覚はあった。父親にも出したことのない柔らかい部分。この男なら許してくれるのでは、という期待。多く語らずとも双眸に込めた願いを、男──カリムはその大きな両手で救い上げてくれた。
真一文字に結ばれていた口が緩く開く。そしてホロホロの小さな口に噛みついた。「噛みついた」と言っても甘噛みだ。まるでその後の行為に伺い立てているようで、その礼儀正しさに喉元で笑う。好きにしてくれて構わない、とホロホロは両手をカリムの首元に回し、ゆるゆると口を開けた。