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鯖男
2022-01-07 20:43:27
1937文字
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大学潜入調査するももゆき
大学に霊が出るとかで自由に動けるももゆきが大学生として大学に潜入する話の書きたかったところだけ
この大学を選ぶ理由は学科は勿論だけど、食堂も理由の一つだった。
天井は吹き抜けになっていて、晴れの日は電気など必要ないほど明るく、雨の日は天井の硝子に当たる雨音が微かな食器の音と混ざって心地がいい。個人的には静かな食堂が好きだけど、お昼まっただ中の騒がしい食堂も悪くなかった。やれカレーだうどんだ。今日は豪勢に定食にしちゃおうかな。限定サンドを手に入れたぞ云々。学生の嬉々とした声を聞きながら、私はいつもと変わらず、食堂の一番端の席に座る。
食堂は片手で足りるほどの学生しかいなかった。それもそのはず。現在の時刻は午前十時頃。朝食には遅く、昼食には早い時間。この時間に食堂にいる学生は一限二限を空けており、空いてる時間に昼食をとっているのか、はたまた遅刻が決定した瞬間に時間を潰すために食堂に来ているのか。私の視界に入る学生の過半数が後者だった。随分と顔なじみの子もいるので、出席日数の心配をしてしまう。
私は左腕にされた腕時計を見やる。あと数時間もすれば、閑散とした食堂もたちまち満員になるだろう。閑散と繁忙を繰り返す食堂は目に飽きなかった。
「やあ、ココ空いてる?」
私は呆気に取られてしまった。だってこの食堂で声を掛けられたのは初めてだったから。
「
…………
どうぞ?」
手で促せば、男性は人好きがする笑みを浮かべて礼を言う。男性。声を掛けてきたのは男性だった。一瞬ナンパ目的かと思ったけれど、向かいに座った男性からはそういった浮ついた空気を感じることはなかった。代わりに感じたのはよく分からない雰囲気。私は説明や理屈付かないものが苦手で、その男性にも第一印象が正直良くなかった。しかしそれは男性が悪いわけではなく、私の理解不足があると思い、彼をよく観察することにした。
最初に目に入ったのは、染めたことがなさそうな黒髪と眠そうな目。瞬きする度に豊かな睫毛がぱさぱさ揺れる。それ自前なの? 世の女性が見たら嫉妬しそう。服は胸にワンポイントがついた黒のパーカー。ワンポイントは炎、かな。赤とオレンジの刺繍が黒地によく栄えている。学年はどこだろう。年上と言われれば年上に見えるし、新入生と言われたらそうかもと納得してしまう。そもそも大学なんて社会人が再入学するところでもあるのだからもう分からなかった。
「他にも席が空いてるのに、なんでここに座るんです?」
思い切って聞いてみた。私の長所でもあり、短所でもある。だって考えなしとも捉えられるもの。
「キミと話がしてみたくて」
目を細め、息を吐くように笑う。最初にした人好きの笑みじゃない。もっとずっと年上の
……
老獪じみた笑み。歳の若さとのチグハグさに、うっかり話しかけてしまった自身の浅慮を呪う。そこで気付いた。私は長い間、この食堂を利用してるけど、こんな男は見たことがなかった。そう思うほどには私は私の記憶力を信じている。彼は一体誰なのだろう。
「キミはこの大学に通って長いのかな」
「
……
言う必要、ある?」
警戒心に全身が総毛立つ。今すぐココを立ち去りたい。でも私は席から立ち上がることはしなかった。代わりに男を睨みつける。自慢ではないが私の目つきは悪く、相手を見つめただけで謝られるほどだ。意識的に睨めば気弱な女の子なんて泣く始末。
……
本当、自慢にならない。
「必要はない。けど知りたいな」
だけど男には何処吹く風。くすんだ硝子玉みたいな双眸で愉しげに眺めてくる。言葉はナンパじみてるのに、男からは性的なニオイがしなかった。恋愛感情が混ざらないのに、初めて会った私を知りたいってどういうことなのか。生憎推理小説には縁遠かったもので、私には推理のスタート地点すら立てずにいた。
授業終わりのチャイムが鳴る。もう暫くすれば学生が食堂になだれ込んできて、たちまち騒音に包まれるだろう。
私は睨みつけるのを止め、席を立つ。立てた。
「すみません。私、連絡しないといけないので」
「ああ、そう。ごめんね、引き止めて」
対して思ってないだろう。私は鼻を鳴らすのを返事として、踵を返す。
「──ああ、そうだ」
席、立てるんだね。
まるで肌の薄いところを蛇が這っているような悪寒だった。言葉自体に不信感はないのに、自身の知らない秘密を暴かれたような焦燥と不快感。思わず私は男を振り返った。また笑っている(嗤っている)と思ったのだ。いけ好かない男とラベリングしながら、私は両目で男を睨む。
「───」
男は笑ってはいなかった。いや、笑っていたのか?
笑おうとして失敗したなんとも不格好な笑顔の失敗作。
くすんだ硝子玉──光の加減で青灰色なのが分かった──には陰りが写る。
私には男が、彼がそんな顔をする理由が分からなかった。
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